007《捜索》
壮行会は謎の爆音が鳴り響いたことによって一時中断された。
窓の外には煙一つなく、先ほどの爆発は一体どのあたりで発したのかも定かでない。そのため、生徒たち及び教職員一同はその場から身動きが取れない。
近くの工場が爆発したというような民間の不手際が原因ならば仕方ないのだが、ここ最近の治安上そうである確率は低い。
何より現在中断されている壮行会の内容は、今もなお捜索されている古代兵器討伐を任された勇士を送る会だ。この国の安全が保障されているならば、こんな物騒な会を開くことは無かっただろう。
動けない状況下、生徒たちに不安が募る一方で雄哉は呼び出しをくらっていた。
「う、嘘だろっ!そんな…………」
講堂から少し離れた場所にある並木道。薄暗い木陰でひそひそ話す老人と青年。いつもは備品が少しばかり揃っている小屋での話し合いだが、学園が脅かされrかもしれないという緊急時の為、人通りの少ないこの並木道が選ばれたようだ。
老人———当学園の長であるスキームは雄哉に政府からの伝達事項を伝えていた。だが、その伝達内容に雄哉は目を見開いている。
「い、いや。いくらなんでも、それはヤバいですよ」
「ああ、その意見には私も同感。じゃが既に要請は出ておる。考えるよりもまず動け、ということらしい」
「い、いくらなんでも、そんな事実を耳にしたら…………あいつらが勝てるわけないじゃないですか」
「……………………私もここの学園長というだけで、政府からの要望に対する拒否権は認められてないんじゃ。じゃから、すまんがのぅ…………」
逃げ出したい、雄哉が心の中を一杯にする本心。
頭をガリガリと掻きむしりながら、どうしようもないこの気持ちに対抗しようとする。だが、掻いて出てくるのはまだまだ元気な髪の毛たち。落ち着きを取り戻せそうにない雄哉はその場でしゃがみ込んだ。スキームは申し訳なさそうに雄哉をじっと見つめている。
「でも、あいつらを今から出撃させろなんて…………そんなのあんまりだ」
「仕方ないじゃろう。どうしようもない上、このことを知るのはわしらのみじゃ。ユウ君が裏で彼女らの担当責任者になっている以上、君に通告してから出撃させんとわしが君に恨まれてしまう」
雄哉が混乱するということはFreshOrangeが勝手な行動を起こし、サポートの手が回らずに壊滅してしまう恐れがある。脳内を駆け巡るのはここに来る途中で話されたとある新事実。そして、戦力の圧倒的格差。
動かなければ始まらない、その言葉を頼りに腹を決める。
「そうですか…………っはぁ。わかりました、出撃許可をあいつらの
「…………だったら、わしの権限で数人教師を貸し出そう。君ほどではないが、多少の戦力にはなるじゃろうからな。それなら問題ないか?」
「ええ、助かります学園長。二人…………レギウス先生とリール先生を寄越していただけますか。あいつらも一応監視者ですし、問題はないでしょう」
雄哉はスキームの言葉に甘えて、(仲のいい?)二人の教師を貸してもらうことを約束してもらった。一応、本学園は魔法技能のスペシャリストが集っているはずの学園。それに彼らは同僚であり同じ役職を持つ人間。
その教師たちが雑魚では話にならないだろう。しかも、いつもいじってくるリールがへなちょこだった際には雄哉はマシンガンのように言いふらしてやろうと考えた。レギウスが使い物にならない…………ということはないと信じて。
雄哉は勢いよく立ち上がるとズボンの尻部分に付いた土を払い落し、目的地の方角を見る。一か八かの戦いに冷汗たらたらな雄哉だが、同時に顔馴染みの二人が加わることに嬉しいのかニッという笑みを浮かべている。
★
———ターヘル地方・マーリン州東部・州境付近
ターヘル学園から約三十キロ地点にどっしりと構えている、横に長さのある山『マーレン
午後三時現在、その山には五人の女生徒と二人の教師が潜り込んでいた。様々な種類の木々に囲まれたけもの道を歩く一行の姿。
先導している五人の女生徒は鮮やかな色合いの衣装を着用しており、それぞれ色とデザインが異なっている。
先頭から「赤」「青」「黄」「朱」「白」、その後を黒スーツ姿の男女一名づつの教師が連なるように歩いている。
傍から見ればテレビの撮影をしに行くスタッフとキャストのようにも見える。しかし、一行が向かっているのは撮影スポットなどではない。超危険物であり、ターヘル地方を脅かしかねない数百年前の負の遺産を探しているのである。
数時間が経った頃、捜索隊兼討伐隊である彼女たちは集団で固まっても見つからないと判断し、二組に分かれることにした。
造られたグループは二つ。一つのグループにはエリンとフリージア。もう一つのグループに他の三人という組み合わせで、それぞれのグループに教師が一名づつ同行する。エリングループにレギウス、シオンのグループにリールという感じだ。
大爆発音をはるか離れたこの地から放った怪物の居場所が全くつかめない二つグループは、捜索が開始してからかなりの時間が経っているにも関わらず、相変わらずの体力持ち達で、疲れを全く見せずにいた。しかし、これ以上の山の中での捜索は危険と判断し、捜索隊一行はあらかじめ設置しておいた拠点に戻った。
簡易拠点には政府から派遣された数人の魔法師スタッフが常駐しており、攻撃されても防げるような態勢を取っている。
そして、今。簡易拠点に作られたログハウスの中で、討伐組の教師二人が食事をしている。他の五人は食事をさっさと済ませて宿舎に戻ったらしい。
「これだけ捜索しても獣一匹出てこないなんて…………本当にこの場所であってるのかな。レギウス、学園に連絡したら?」
リールはテーブルに配膳されたアツアツシチューをもくもくと食しながら話しかけた。レギウスはフーフーと冷ましながらゆっくりシチューを食べている。
「(フーフー)そうだなぁ。でもスタッフさんたちも総出で捜索しているみたいだから、別に学園へ連絡することはないんじゃないか?」
「…………それもそうね。ごめん、食事を邪魔しちゃった」
「何、構わん。俺はかなりの猫舌だから冷ますのには丁度いい」
その後、リールは何事もなかったかのように目の前に広がるおかずの山を片っ端から食べ始めた。腕利きの料理係が何人か同行している為、味のレベルは高い上に種類も豊富。もはや、食べ放題コース状態である。
レギウスはその様子を見るなり、男として食べる量は負けられないと感じたのか、彼女の胃袋に対抗しようとするがあえなく惨敗。緊急の為に食事は軽くと言われていたのだが、言いつけを無視してしまった。
レギウスはスーツの上からでもハッキリとわかるくらいお腹が膨れている。
「た、食べ過ぎてしまった…………」
「———私に対抗しようとするからだよ。…………ねぇ、それよりもさぁ今気づいたんだけど…………」
レギウスがゲップをこらえる中、彼以上の食事量であるのに一切体型が変化しないリールは冷静なトーンで目の前で突っ伏している男に気付いたことを言った。
「…………私たちを参加させるなら、どうして私達と同期のユウヤを連れてこなかったのかな?なんか気になるんだけど。アイツ、勝負したことないからわかんないけど、かなり強い気がするんだ。レギウス並みに」
レギウスはまだ立てそうな様子はなく、口を押えながらリールの話に耳を傾けていた。その内容にレギウスは気持ち悪いなりにゆっくりと答えた。
「…………ああ。そうだな…………多分、またなんかやらかしてペナルティを貰ってしまったから学校に居残り、とかじゃないのか?」
いつもの雄哉をみる限りは、ということを付け加えた後、とうとう我慢ならないというような表情を浮かべてお手洗いに行ってしまった。そして一人になったリールは、雄哉が今日の原因不明の衝撃があった後に学園長に呼び出されていたことをふと思い出した。呼び出された理由を全く彼から聞いてないし、というかあの後出会ってすらいない。
リールは窓の外に浮かぶ星々を垂れてくる前髪を掻き分けながら呟いた。
「———私はユウヤのことを良く知らないのかもしれない」
リールはふと気づいた、雄哉に関する情報が意外と少ないことに。確かに、雄哉は寝坊を多々したり、寝坊を多々したり……………………そう、雄哉がペナルティを与えられいるのはいつも寝坊。
リールは夜空から視線を逸らし、窓の外に広がる森を見つめていた。
「まさか…………ね」
リールは雄哉が夜に行われる何かに関わりながら、先生という職業をしているのではないか。
その『何か』が解けないリールは頭部を抱えながら、レギウスと同じようにテーブルへ突っ伏した。
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