第22話 ハム無線
今日はお昼過ぎから叔母さんは、誰かと無線で話をしている。
聞こえてくる内容からすると一族の誰かが冬眠させた方が良さそうな人を連れてきたいというような感じだ。
でも今は2月だ。とても一般の人が簡単にここにこられる時期ではない。どうするのだろう?
あ、叔母さんたちの話が終わったようだ。
「文乃ちゃん、新規受け入れよ」
「はい、でもどうやってここに来るんですか?」
「異空間を通ってきてもらうわ」
「そんな事が出来るんですね!」
「私一人の力じゃ厳しいけど、向こう側で先代が力を貸してくれるからね。向こうで先代が異空間を開けてくれるから、そこを通ってきてもらうの。私はこちら側を開けて置けばいいのよ」
「お留守番の時もそうでしたが、引退しても先代は結構手を貸してくださるんですね」
「そうね、だからこそ50歳定年なんて早くになっているのかも。私が引退したら今度は文乃ちゃんに手を貸すからね」
「そういえば、私が来た時には山田さんと後藤さんが眠っていましたが二人ともそうやってきたんですね」
「立山アルペンルートが開いている時ばかりとはかぎらないしね。それに帰りだって今回山田さんはギリギリだったけど目覚めの時期によっては真冬の事だってあるしね、そういう時は今回と同じように先代と一緒に異空間を開けるのよ」
「叔母さん、いえ、師匠!山田さんの目覚めのお手伝いをした時もそうでしたが、私にはまだ師匠や先代のような魔女としての力があるとは思えません。どうやったら……というかこのまま、こうやって過ごしていて私にいきなり魔力とか出るんですか?」
私はごく普通の10代の女の子だ。
魔女の家系だからと言って、何か特殊能力が使える気がしない。
目覚めの儀式の時の手から淡い光が出るやつとか、トラさんを読んだ時のやつとか、私に出来るとは思えない。
「大丈夫よ。少しずつ教てあげるから焦らないで、それに師匠だなんて照れくさいわ。叔母さんでいいわよ」
そう言うと叔母さんは私の両手を包むように握って軽くぎゅっとしてくれた。
「うちの魔女の力はね、血はもちろんだけど心と経験だから」
「経験って、私まだほとんど……」
「そう、だからゆっくりでいいのよ。まだ私が引退するまで何年あると思ってるの、10年よ。その間に出来るようになるんだから。まだ1年目だって終わってないでしょう?大丈夫よ」
一人前になってこそ、一般社会で言うところの自立する事だと思ったから。
仕事を教わるのが上司ではなくて、叔母さんなのも甘えてしまいがちなところだと自分で思っていたから。
私、焦ってた。
「そうね、じゃあまず第一段階の文乃ちゃんに自信を付けてもらうためにハム無線の資格取ってもらいましょうか」
「そっちですか?」
「魔法は教えて、ホイ出来ますってわけじゃないからね、それに現代のうちの家系にとってハム無線は結構重要だから」
というわけで私はアマチュア無線の資格を取るための勉強を始めたのだった。
ちなみに、アマチュア無線の事を何故ハム無線と言うのか聞いてみたら、諸説がいくつかあるから叔母さんもどれが本当か分からないとの事。
その中の一つ、20世紀の始めの頃アメリカで無線をやっていた『Hyman』さん『Almy』さん『Murry』さん3人の頭文字を取ったという説が私的には一番ピンときたので、それかなぁと勝手に思う事にした。
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