第20話 山田さん目覚め1
夏休みが終わって立山に帰ってきた。
「今日はトラの間の山田さんの目覚めの儀式の日よ。目覚め後のお世話、文乃ちゃんやってみる?」
「え?いいですか私ができますかね?」
目覚めの儀式後のお世話は、目覚めてから現世に戻るまでの世話をしながら何気ない会話をして体を慣らしてもらうためのものだ。カウンセリングみたいな感じでもある。
「山田さんは過労死寸前まで働き詰めだった人。もしかしたら文乃ちゃんと通じるところがあるんじゃないかと思うの。山田さんも将来に不安があったり真面目だからこそ、中々休みたいのに休めなかったのじゃないかと、歳も近いしね」
「でも何を話したらいいか……」
「気負う事はないわ。特に何か話そうとしなくていいの。長く眠っていたからね、口も回りにくい場合があるから、普通に日常生活を送る上での補佐的な事からでいいのよ」
「山田さんは、起きたら働いていた会社に戻るのでしょうか?というかそういう事を聞かない方が良いのでしょうか?」
「聞いても構わないけれど、多分すぐには山田さんはそれを答えられるだけの情報や記憶の繋ぎがうまくいってないと思うわ。起きたてというものは、眠る前の事に靄がかかっている事が多いの。辛い事があって眠りにきている人がほとんどだからね、心の防衛本能なのかもしれない」
「そんな状態で1日で現世に戻れるんですか?」
「ああ、山田さんの場合は1日ではなく5日はかかるわね。眠りのコースが長かった人ほど起きてから現世に戻るまでにも時間を要するのよ」
起きた山田さんは普通の人の寝起き以上にぼーっとした感じで、会話もあまり出来なかった。
本当は私は山田さんから聞きたかったんだと思う
「将来が怖いから世の中が怖いから、がむしゃらに働いたんですか?」
と。私自身がきっと、こうやって魔女の道に進まなかったら、働いて働いて働いて体を壊しても働いていたかもしれないから。
山田さんはこれからどうするのだろう?
また働きづめに働くのだろうか。
「何だか不思議ね、眠る前は起きた時に不安でたまらなくなるんじゃなかと思ってたのに、今はそんな気持ち全く無いの。これも魔法の作用なのかな?」
そう山田さんが言った。
叔母さんの話では、魔法の副作用で眠る前の原因に靄がかかる事があるとは言っていたけれど、それ以上の特別の作用は無いらしい。
「焦り……とかも無いですか?」
「そういえば……なんだろ、眠っている間にそういうものみんな忘れちゃったみたいに消えちゃった」
山田さんは話し方もまだゆっくりで、覚醒仕掛けのような感じだけど、だからだろうか?とても穏やかに何かを吹っ切れたかのように見える。
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