第19話 ワーキングプア

「文乃ちゃんは何故、魔女になろうと思ったの?」


 ミキさんはクッキーをぽりぽり食べながら聞いてきた。


「食べる事に困らなくて、一生出来る仕事だと思ったからです」

「あらま、そういう答えが返ってくるとは思わなかったわ」

「私も初耳よ」


 叔母さんにも話して無かったですもん。


「私は高校に入って進路を問われた時から、いつも『一生食べていける仕事』そればかり考えていました。怖かったんですよ、世の中を生き抜いていけるかが」

「そんなに怖かったの?今の世の中はそんなに怖いものになっているの?」


 叔母さんは不安そうに私の手を握ってきた。


「叔母さんが魔女になる前はそうでも無かったと思うんですけど、今の世の中は働いても貧乏なワーキングプアの人たちや、大学出ても派遣の人たちも大勢いて、年金だって貰えないかもという話を聞くし、老後が不安なんです」


「文乃ちゃん、まだ18歳じゃない。そんなに若いのに、もう老後の事を心配するなんて」

「この時期にちゃんと将来を考えないと、道を誤ると将来、露頭に迷うんじゃないかって高校の頃、良く思いました、そういうネットの記事やテレビのドキュメンタリーとかもあるから余計に怖くて」


「そっか、ネットとかテレビとか色んな情報が入ってくるものね。私ら魔女は世情に疎いから、今の世の中は18歳の女の子に将来の不安を抱かせるほど、不安定なものだなんて感覚無いのよね」


「私がそういう不安になる記事や番組に過剰反応し過ぎなのかもしれないです。けれど、友達のお姉ちゃんとか先輩とかが大学出たのに派遣だよ、とか派遣の契約終わっちゃったからまた職探ししないと、とか聞いてると私だったらもっと大変なんじゃないかって自分が世の中の荒波を渡っていく自信が無いからこそ不安になっちゃうんです」


「それで魔女に?」

「魔女を軽く見ているとか、そういうのじゃないんです。お父さんに魔女の話を聞いた時に50歳定年だとしても一生食べていく事には困らないと聞いたから。それなら不安を持たずに一生懸命頑張れるなって」


「ほい、これ美味しいよ食べて」


 ミキさんは私の口にクッキーを近づけた。思わず口で受け取りそうになったけれど手で掴んで受け取りそのまま食べた。


「美味しいです」

「紅茶も美味しいよ。コットンが入れてくれると美味しいのよ」

「いただきます」


 少し冷めていたけれど、本当に美味しかった。


「落ち着いた?」

「あ、はい」

「私ね今、文乃ちゃんの話を聞いていて、文乃ちゃんは本当に将来の事色々考えていてそして、だからこそ不安が大きいんだろうなって感じたよ」

「私もそう思ったわ」

 叔母さんは私の手に置いていた手で軽くぽんぽんとしてくれた。

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