第15話 眠らせる
「今日から魔女修業に入るわけだけど、まずは今うちでお預かりしている方々を教えておくわね」
そう言うと叔母さんは、まずはリビングに一番近い部屋であるトラの間を開けた。
その部屋のベッドには二十代ぐらいの女性が眠っていた。
「このトラの間のお客さんは、働きづめの会社で過労死寸前だったところを、うちの情報を知って訪ねてきたの。一先ず、一年コースで眠らせたわ。目覚めは今年の11月よ」
眠らせた?
「……文乃ちゃん、あなたもしかして、うちの魔女業の事知らないの?」
私がキョトンとしていたからだろう、叔母さんは説明を止めて聞いてきた。
「知らないです。魔女になる事はもちろん知ってますが、どんな事をする魔女なのかはここに来れば分かると思ったので」
「ありゃま、そうだったの?じゃあ一旦、リビングのテーブルに行ってお茶でも飲みながらゆっくり話しましょ。長くなるしね」
リビングに戻ると叔母さんはコーヒーを入れてくれた。
「叔母さんは『冬の魔女』と呼ばれていますよね。その名と魔女業とは関係ありますか?」
「まぁ関係あるわね。うちの魔女業は眠らせる事なのよ。私たち魔女が眠らせる事を『冬眠』と言うしね」
ああ!だからさっきのトラの間の女性の事を眠らせたと言ってたんだ。
「一年コースという事は、一年間も眠らせるんですか?」
「うんそうよ。でも一年はまだ短い方よ。長いと何十年と眠らせる事もあるのだから」
「えーっ、長いとどれぐらい眠らせるんですか?」
「私は10年以上の経験は無いのだけど、昔の魔女は30年ぐらいは眠らせてたそうよ」
「30年?そんなに眠らせてどうするんですか?」
「ちょっと歴史の話をしましょうか……」
そう言うと叔母さんはこう語り出した。
歴史上の人物には暗殺されたとされているけれど、実は生きて他の人物として生き延びたんじゃないかと言われている人物が何人かいるわ。
その有名どころの一人が源義経ね。
31歳の時に自害したと言われているけれど、蝦夷地に生き延びたという説やチンギス・ハンになったという説まである。
だけどね、うちの一族の記録には亡くなったとされる年に眠りに来ている事になっているの。そして10年ほど眠らせたのちに現世に戻って行ったらしいわ。
織田信長もそうよ。詳しい日時は分からないけれど、うちに一回は眠りに来ている記録があるの。そういう歴史上で有名だったけれど、暗殺された、消えたとされる人物は大抵うちに眠りにきている。そしてそういう人は、10年、20年、30年と長く眠って、世の中がその人物を忘れた頃に起きている。
うちの魔女業は、今は短い単位の眠りがほとんどだけど、昔はそうやって身の危険がある人の匿いと再出発の手助けをするものだったのよ。
何だかスケールが大きいなぁ。
そんな歴史上の人物と関係があったなんて。
「今はトラの間のお客さまのように、そのまま現世に居たら命に関わる事がある人が駆け込んできたり、一族の者に案内されてきたりする人が多いわね」
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