第11話 エピローグ
私を『普通の人間』にしてくれる魔法薬が出来上がった。その魔法薬を私が飲む時に、更に魔法をかけると私の髪からはレモンの匂いは消える……。
「私、保留にします!」
「ほへ? 保留?」
ミキさんは素っ頓狂な声を出した。私の言った事に驚いたのだろう。
「はい、今回は『普通の人間になるのを止めます』けれど、私はそんなに強くないから……また気持ちが変わる事があるかもしれません。それまでは保留ということで」
「そっか、OK、OK、てっきりアイラさんの意思は固いと思ってたからさ、ちょっとビックリしたけど、うんうん、そしたらさ、またここにきてよ。あ、『普通の人間になりに』だけじゃなくて遊びにね。今のアイラさんならまだここにこられるんだから」
「はい」
この三日間でミキさんやコットンさんと話して色々なことを考えた。
特に一番大きかったのは、『純粋なレモン族が減っている』かもしれないという話。私はハーフかクオーターか分からないけれど、少なくとも差別を受けるほどのレモン族の血が入っている。
差別されることに耐えられなかった。けれど私が普通の人間になってしまって、濃いレモン族がまたいなくなってしまうのも、とても寂しい気がした。
そして私は、お母さんの、お母さんの、お母さんの、そのまたずっと前の先祖の人たちの忘れ形見のようなものなんだと思ったら、簡単にレモン族を止めたくない気持ちになってきた。
だから今回は保留にすることにした。
故郷の町じゃないところに住めば、差別を受けずに暮らせるかもしれないし、もし会えるなら他のレモン族の人たちに、私がレモン族のままで会ってみたいと思ったから。
そして、あの独特の香りのラーメンも私に影響を与えた。
故郷で私の髪、そして私の匂いを否定されてから、何となく匂いというものは人に不快感を与えるものだ、ということばかり考えてきた。
その気持ちを変えてくれたのが、あのラーメンの香り。決していい香りとは言い切れないのに、何故か惹かれ、そして食してみたら幸せな気分になるほどに美味しかった。
私も自分の香りに負けない人間になってみたい。
本当は、そんなに簡単に意気込めるほど強くは無いけれど、もうちょっとだけ頑張ってみてもいいかなと思えたのだ。
行きにも通ってきた砂浜は、今日も優しい風が吹いていた。今度はいつものように後ろで一つにみつあみに束ねている。まとめていない前髪とおくれ毛だけが風に揺れてレモンの香りをさせた。
ふと振り返り、洞窟を見ると入り口でコットンさんと大きく手を振っているミキさんが見えた。
ミキさん自慢の手作りラーメンはとても美味しく、それをご馳走になるためだけでも、またここを訪れてもいいなと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます