第8話 雑談
翌日の午後、オーロラの魔女さんにキッチンに呼ばれた。何かと思えば、お話しようと言う。私は、何を聞いたって気持ちは変えないと少し警戒心を持っていたがオーロラの魔女さんがあまりにも、あっけらかんとしているので、そういう私の気構えは独り相撲のようで、少し恥ずかしくなった。
「今日はね、この後しばらくコレ煮込まないといけないからキッチンにつめてなきゃいけないのよ。コットンは今日は森に行っているし、話し相手になって」
コンロには料理屋さんで使っているような大きなスープを煮込むような筒状の鍋が火にかかっていた。
「これ、魔法薬ですか?」
「ううん、ラーメンのスープ」
はい? 魔女がラーメンのスープを煮込んでるんですか? まぁ確かに、そういうのを煮込む鍋だよね。
「大丈夫よ、アイラさんが帰る前に出来上がるから美味しいのを食べてって」
私が心配そうな顔をしていたのだろう。魔女さんは見当違いな事を言いつつ私の前にお茶とお菓子を置いた。
魔女さんがこんな調子だから私はやっぱり一人で空回りしているような気分になる。
「うちはさ、お客さんがこない限りコットンと二人っきりでしょう。だからたまに人がくるとこうやって料理に懲りたくなるのよ。でもさ、そうやって考えると、おばあちゃんは凄かったと思うわよ。だって私やコットンが来る前は、ほとんど一人だったんだから」
「おばあちゃん? あ、先代のオーロラの魔女さんですか?」
「そう。私なんてここに来た時から、おばあちゃんとコットンがいたから誰もいない生活なんて耐えられないわ」
そういえば、こうやっていつも出してくれるお茶やお菓子はどうしているのだろう? 近くにお店があるようでは無かったけれど。
「外に買い物に出たり、誰かのところに行ったりはしないんですか?」
「そうね、基本、魔女になったら町には出て行かないわ。ほとんどのものはここで自給自足できるし、他のいるものは時々、一族の誰かが届けてくれるのよ。それにほら私、小人でしょう? 今はまだ魔女になったばかりだし若いから子どもみたい、で済むけれどもっと魔女として成長したら、そして歳を重ねたら体は更に小さくなるのよ。もっと小人らしくね」
そうだったんだ。もっと小さくなったら町に出たときに奇異の目で見られるよね……ある意味私と同じかも。それがどんどん進むなんて、私は近づかないと香りに気がつかないけれど、見た目で分かることとなると積極的に外にでるなんて出来なくなるよね。
「なーんて顔してるのよ。別にへっちゃらよ。町に出なくったって」
町に出なくたって? 差別されることじゃなく? また私に気を使ってるというか説得の一部だったりする?
「……オーロラの魔女さんは、差別されることは平気なんですか?」
「ミキでいいわよ。それが私の本名。差別? 多分ね、されてないから分かってないんだと思う。三歳からここで暮らしているし、ここで普通の人間になった者以外の普通の人間に会った事が無いから」
なるほど。私だって故郷に戻るまでは差別された事がなかったから分からなかった。けれど今は知ってしまった。差別されるという事の辛さを。
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