第7話 コットン

 私が『普通の人間』になるための魔法薬を作るには私の体の一部がいるという事で、髪の毛を一本渡した。後はオーロラの魔女さんが三日かけて薬を作るらしい。

 それが出来るのを待つ間、私はこの家に泊まる事になった。


 次の日の午後に、コットンさんにお茶に誘われた。

オーロラの魔女さんは私が普通の人間になるための薬を作っている最中で、二人だけで昨日のようにダイニングキッチンでお茶とお菓子をつまみながら話そうということになった。


 そういえばここは日本だが、家の中でも靴を履いていていいみたいだ。コットンさんや訪れる半人半獣さんたちに合わせているのかもしれない。


「ケンタウロスの世界では、こうやって食卓にテーブルや椅子を並べて皆で囲むという習慣がないんだ。けれど僕はそれに憧れていた」


「憧れて……いたんですか?」

「うん、僕はね、人間の生活に憧れていたんだ」


 えっ、コットンさんも人間になりたくてここにきたの? それなのに今もケンタウロスのままなのはどういう事なんだろう。


「人間にならなかったんですか?」

「ああ、ここにきてみて僕の夢は叶っちゃったんだ。だから人間にわざわざなる必要は無かったんだよ」

「夢が叶った?」


「そう。僕は人間と同じような生活がしたかった。ここだったらそれが出来るんだよ、ケンタウロスのままでも。だからオーロラの魔女、あっ、僕が来たときは先代の魔女だったんだけれど、彼女に頼んでここで助手として住まわせてもらうことにしたんだ」


「じゃあコットンさんはもう、ここに来て長いんですね」

「うーん、十年ぐらいかな」

「十年、ここでオーロラの魔女さんと?」

「そう、今のオーロラの魔女は三歳の頃からここに居たらしいから、僕が来たときにはもう居たんだよ。だから最初の頃は三人で暮らしてた。今は先代の魔女は引退して町にいるよ」


「そうだったんですね」

 そうやってコットンさんと話しているうちに私の中にある疑問が湧いた。

 コットンさんって、どこからきたんだろうかと。というか、そもそもコットンさんはどこの出身なのだろう? 上半身の人間の部分は栗色の髪に濃いブラウンの瞳、鼻は高すぎず、肌の色は白人系だ。


 私は日本に来るのに普通に飛行機を使ってきた。けれどコットンさんは飛行機には乗れないだろう。日本は島国だし船でくるにしたって、途中で人間に見つかってしまわなかったのだろうか。

 失礼かもと思いつつも聞いてみることにした。


「僕はこの世界の住人ではないんだよ。うーん、分かりやすく言うなら異世界? のようなところから来たんだ。この洞窟のように特殊な空間はそういう世界と通じているんだ。僕だけじゃない、半人半獣の者たちはそういう別の世界からオーロラの魔女に会いにきてるんだ」


「あの、コットンさんの世界には私のような髪からレモンの香りがするような種族っていますか?」

 もしかして元々はレモン族のような人たちはコットンさんのように別の世界からきたのではないかと馬鹿げているかもしれないけれど聞いてみたくなった。

「うーん、髪が香るという種族はいないね。空を飛べるとか髪が蛇になる者たちはいたけどね」

 それってハーピーやメデューサ? 何だかますます、物語の世界みたい。

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