第6話 ローズ族
「レモン族じゃなくてね、ローズ族っていう人たちがいるのよ」
「ローズ族……」
「そのローズ族は黒髪で髪からバラの香りがする種族らしいわ。似てるわよね、レモン族と」
「そうですね、けれどローズ族は黒髪なんですね」
「そうなの。その黒髪のローズ族はね、もう何百年も前のことになるんだけど、ある国で自分たち以外の黒髪の者たちを奴隷として扱っていたんですって」
「それでどうなったんですか?」
「ローズ族の勝手な支配に耐え切れなくなった黒髪のひとたちは、団結してローズ族を滅ぼしたの。そんな支配の嫌な思い出のある国を多くの黒髪の人たちは捨てて、遠くの辺境の地に小さな町を作ったという話があるのよ」
「それってもしかして」
「でしょう? そう思うでしょう? アイラさんの故郷がその黒髪の人たちの築いた町かどうかは分からないわ。けれど何となく関係ある気がしない?」
「はい」
少し長い間があく。私も次の言葉を発することが出来ず、オーロラの魔女さんの言葉を待ちながら紅茶を飲む。
「アイラさん。これからあなたに私は『普通の人間』になるための魔法薬を作るわ。けれどこの薬は平均で三日ほどかかる。その間に、気持ちが変わってやっぱり今のままでいいとなるのもOK、そしてもちろんそのまま『普通の人間』になるのもOK、そのためにゆっくり色々と考えてほしいの」
つまり、ローズ族の話をしたのは、私やレモン族に町の人たちが差別をするのは昔の恨みみたいなものがあるから。それもちゃんと知った上で私にレモン族でいることをやめるかどうか考えてほしいということなんだろう。
「間違えてほしくないのは、私やコットンが三日間の間、色々な話をするかもしれないけれど、それは決して『普通の人間』になることを思いとどまって、と諭すためじゃないって事」
「はい」
「私は魔法で『普通の人間』にしてあげることは出来るけれど、元の姿に戻してあげることは出来ない。だから後悔してほしくないだけなのよ」
「……分かりました」
私の気持ちは変わらない。ローズ族のことを知ったって町の人たちから差別されることに耐えられるわけじゃない。
私はそんなに強くない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます