第5話 理由
私は母の髪を臭いとは思いません。けれど父はレモン族ではないので言わないだけで本当は臭いと思っているのだろうかと勇気を出して聞いてみました。
「臭いわけがないだろう。娘だから言っているのではないよ」
と父は言いました。
「じゃあ何故、町の人々はレモン族のことを臭いと言うの?」
という私の問いに
この町は昔から閉鎖的な町だった。この町だけで生活が事足りるために外に出ようとする者がほとんどいない。しかも皆が同じ人種で肌は白く髪は黒い者ばかりだ。そして観光地があるわけでもなく他の町や国へ行く通り道でも無い辺境の地であることから、外部からの人間もほとんどやってくることもなかった。
ところが不作や不況が続いた隣国からレモン族の人々が仕事を求めて、この町にやってきたんだ。その時にワシと母さんもそれで出会ったんだよ。
閉鎖的な町の、閉鎖的な住民たちはレモン族を歓迎するどころか邪魔にした。
怖かったのだろうと思う。
髪が美しい金髪な上に、いい香りを放って、自分たちにない身体的特徴を持っていることが羨ましい反面、嫉妬していたんだと思う。
と語ってくれた。
残り少なくなって、冷めていた私の紅茶を庭から戻ってきたケンタウロスさんが新しく入れ替えてくれた。
同じく新しく紅茶を入れてもらったオーロラの魔女さんはケンタウロスさんを私に紹介してくれる。
「外で会ったのかな? 彼ね、コットンというの。うちで代々、助手をしてくれてる。見たとおりのケンタウロスよ」
「コットンです。よろしく」
「アイラといいます。よろしくお願いします」
私の話を一通り聞き終えたオーロラの魔女さんは紅茶を一口すすってからクッキーをつまみ、ようやく言葉を発した。
「聞いてて思ったんだけど、アイラさんのお父さんって町の有力者なんでしょう?」
「あ、はい」
「町の人たちは、その有力者の娘であるはずのアイラさんまでもレモン族だというだけで差別をするなんて、余程だと思わない?」
「……」
「あ、ごめんね。そんなのアイラさんには分からないし、どうあろうと辛い思いをしてきたわけだものね。ただ、こうやって話を聞いていて客観的な見方して、どうしてもそこが気になっちゃったのよ。そして、もしかして何か特別な事情があるんじゃないかって……もちろん事情があろうとも差別なんてしていいわけが無いわ、ただ……」
「分かります、気にしないで続けてください」
「私、その事情に関連してるかもしれない出来事を知ってるのよ。だから余計に気になっちゃってね」
「事情? どういうことですか?」
またもやオーロラの魔女さんは紅茶を飲んで、クッキーをほおばった。
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