極東国際軍事演習

26

「諸君。我々は何も、戦うばかりが仕事ではない」

演習から一週間後のある日。部隊の全員が、大講堂に集められた。

「ワシントンで事務仕事に励まれておられる参謀総長から直々のお達しだ。『第17大隊は極東へ向かい、東京で行われる国際軍事演習に参加せよ』とな」

「……ようやく『平和な軍事作戦』が出来るって訳ですか」

最近はスパイの真似事をしたり、宇宙で死にかけたりで、ロクな事が起こった記憶が無いクリストフ。

「身なりには気をつけろよ。特にパイロット二人。お前達には、向こうのパイロットと一緒に、コンパニオンをやってもらうからな」

「コンパニオンって美人のお姉様がやるモンじゃないのか……?」

「最近は男性のコンパニオンもいるらしいですよ。先輩顔は良い感じですから、お似合いでは?」

「あの、夢壊さないで欲しいんだよねヨハンナ……」

コンパニオンって男もやるんだ……、と勝手にブルーになっているクリストフを尻目に、オリヴィアは続ける。

「これには『社会主義同盟』や『宗教国家連邦』も参加する。あちらが握手を求めて来たら、紳士的に応じろ。間違っても中指を立てるなよ」






「……で、俺達が今いるのはどこでしょーか?」

『太平洋上のメガフロート。周り全部海でも海軍の軍港じゃなくて、陸軍の基地だって言うんだから驚きだよな』

軍事演習の行われるメガフロートは、人でごった返していた。

有給を使って来た家族連れ、珍しいもの見たさに訪れた観光客、『授業参観』に来た軍高官や、退役軍人、果てはミリタリーマニアまで来ていた。

「索敵マイク使って外の様子探ってみたんだけど、凄いぜ。マニアが『ストライダーの装甲は対戦車兵器で抜ける』って勘違い知識を披露してんの」

『実際どうよ? 出来んの?』

「出来てたらストライダーはただのデカい的なんですけど。レールガンだのレーザービームにすら数発は耐える装甲だぞ。今さら対戦車兵器持ち出してもな……」

『さすが戦略兵器サマって事か。おっ、そろそろ始まるみたいだぜ。お前も出て来いよ』

整然と並んだ各国の機体の胸部が開き、中からパイロットが姿を現した。

クリストフもそれに倣い、コクピットハッチを開放。体を外気と観衆の視線に晒した。

自分と同世代と思しき少年少女から、いったいいつからパイロットやってるんだと聞かれそうな老兵まで、パイロットの年齢は多種多様だった。

『ようこそ諸君。私は、日輪ひのわ皇国陸軍二等陸将の湊晴之だ。今回の国際軍事演習に参加してくれた事を、非常に嬉しく思う……』

出たよ校長先生のクソ長いうえに何の役にも立たない話が始まったぞと、立ったまま居眠りに挑戦するクリストフだったが、周りの環境が最悪だったためすぐに起床したのだった。

『……国家という垣根はあれど、平和を求める軍人という点では、我々は同じ志を持っていると言える。『資本主義連合』『社会主義同盟』『宗教国家連邦』。思惑はあると思うが、今日ばかりは銃を置き、手を取り合っていこう』

「(……綺麗事だよなあ)」

仮に銃を置いたとしても、それは外面だけの変化に過ぎない。普段いがみ合っている国同士が、本当に手を取り合うなど、それこそ宇宙人なんかが攻めて来なければあり得ない。

「(まあ、お偉いさんの言う事なんてそんなモンか。二等陸将って事は中将クラスか。じゃあギリギリ指揮官ってとこかな)」






「やっほー、初めまして!」

湊二将の演説が終了してしばらくたった時、クリストフは背後から声をかけられた。

「初めまして。……格好からするに、君が日輪軍のパイロット?」

その少女は、クリストフが普段着用する、白を基調とした『資本主義連合』軍のパイロットスーツとはまた違う、暗めの緑を主幹としたパイロットスーツを着ている。

「そうだよ。私、湊エレン! 日輪陸軍の一尉!」

「一尉って事は、大尉か。俺はクリストフ・ヴィンス。『資本主義連合』軍のストライダーパイロットで、階級は大尉」

「同じだ! 歳は?」

「十七だけど」

クリストフがそう呟いた瞬間、エレンは彼の手を握り、上下にブンブンと振り始めた。彼女も同い年タメらしい。

「ね、クリストフ君。演習開始までまだ時間あるし、ちょっと見て回らない?」

「デートの誘いは嬉しいんだけど、ウチの後輩がどんな反応するか怖いな。ほら、ちょうどあんな感じの般若面でさ……」

クリストフが指差した先には、誰あろうヨハンナ般若面の後輩であった。

「……先輩。般若面とは誰を指してるんです? まあ、分かってますけど。そもそも私がこんな顔をする理由の九割くらいは先輩が原因なんですけどね。っていうか先輩はちょっと好意的にされただけで鼻の下伸ばしすぎなんですよ世の中の女性が皆先輩に好意的と思わないでもらえませんか。それから_______」

いつにもまして長いお説教が始まった。何だ何だと周りの視線がクリストフ達に向けられる。

「_______とにかく先輩が何かやらかすとアレなんで、私も同行します」

「お前俺を何だと思ってんの!?」

「ベッド下に隠したものがまだバレてないと思い込んでいるスケベな先輩です。もしかして先輩、ドSな後輩が好きなんですか?」

瞬間、クリストフの顔から血の気が引いた。どうやら本当にバレてないと思っていたらしい。

「クリストフ君、そういうの好きなんだー。ウチの部隊にもいるよー。そういう系好きな人」

「湊さん、傷口抉ってるだけだからやめて……」

「隠し場所を考えてくださいよ。中学生ですか」

なんというか、もう真っ白だった。

「……隠し場所変えよ……」

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