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「来ちゃいましたよ。一面真っ白。雪だらけだ。あっちもこっちも光が反射するから、目が痛くなってきた」

北米・アラスカ。

オホーツク海を望むこの雪原は、『社会主義同盟』・極東方面軍とのスパークポイントでもあった。

「来たわね二人とも。待ちくたびれたわよ」

出迎えたのは、純白の大地とは真逆の黒い軍服をまとった指揮官殿であった。両手には馬鹿デカいアタッシュケースを提げている。

「……具体的になんですかその格好。狙撃なんか怖くないんですか?」

「建物の配置には気を配ったつもりよ。配置で気づかない?」

それぞれの建物の隙間から、向こうの建物の窓が見える。そのまた向こうにも。

「……建物同士で隙間を潰した訳だ。考えたなあ。……ところでオリヴィアさん。そのアタッシュケースは?」

「開けてみろ」

地面に置かれたアタッシュケースのロックを外し、中を見てみると、

「何でライフルなんか入ってんの。俺達に歩哨をやれって言うんですか?」

「いいや。来年度の予算をもぎ取るための任務よ」

「……年末で、特にひっ迫してもない時にストライダーのパイロットにまで銃を渡してやらせる任務って言うと……」

「監査ですね。中佐」

「その通りよヨハンナ。さっさと余った弾を消費して、『私達戦場で頑張ってます』ってアピールしないと、来年度の軍事費を削られてしまうの」

ニューヨークでは年末商戦の真っただ中で、年明けまであと少しといったところ。民間企業では、そろそろ期末監査の時期だ。戦場に展開する軍も例外ではなく、『成績を良く見せたい兵士達』が、今も無駄弾の消化に勤しんでいる。

「残り何万発ですか?」

「万単位ではないから安心しなさい。せいぜい八千発くらいかな」

「……いつまで内職させる気だよこのブラック指揮官め」

今夜あたりに祟り殺しそうな目でオリヴィアを睨むクリストフだが、彼女は何食わぬ顔で佇んでいた。

「ほらさっさと行けよ。ヨハンナ、コイツがサボろうとしたら、ライフルのストックでど突いて構わないぞ」

「はい。……ほら先輩行きますよ。残業代なんか出ませんから諦めてください。あと拳銃を自分に向けないの。死ぬ気ですか」

ホルスターから拳銃を抜いたクリストフを宥め、銃を収めさせる。そのままズルズルと引きずられていくクリストフ。当然ながら、『資本主義連合』軍の銃で『資本主義連合』軍人のクリストフを撃っても、保険金は支払われない。『保険金目当ての自作自演』と見なされてしまうからだ。




「……はあ……」

「先輩。ため息をつくと幸福が逃げますよ」

「あのね、こんなチマチマ撃ってたらいつまでかかんの。暇なヤツら総出で内職してんのに、まーだ終わりが見えないんだぞ? ため息ぐらい許しておくれ……」

そんな事をブーたれながら、ライフルを連射する。大西洋から遠路はるばるやって来たのに、待っていたのは暇人向けの内職。内心クリストフはキレかけていたし、実はヨハンナも心底うんざりしていた。

「……ヨハンナ。前々から言ってた模擬戦、明日やろう」

「ええ。構いませんよ。ようやく先輩と手合わせ出来ますね。どういう戦術をとるんでしょう……」

ライフルを降ろし、長考に入ってしまったヨハンナ。一向に復帰する気配が無いので、クリストフは夢のライフル二丁撃ちに挑戦したが、結果的には一丁の方がやりやすい事に気づき、すぐやめてしまった。

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