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「諸君。拉致されたヨハンナ・アルファーノ少尉についての詳細な情報が判明した」
空母艦内の会議室。そこに、艦内にいた部隊の兵士が集められた。他の艦に乗っている兵士達にも、カメラを通して作戦会議の様子は伝わっている。
「アルファーノ少尉を拉致したのは、『宗教国家連邦』軍 第三五重機甲大隊。……ここで初めて公表するが、アルファーノ少尉が『元いた』部隊だ」
兵士達の間にざわめきが広がる。
『あの子、元は『一八』のパイロットじゃなかったの?』
『なんで『資本主義連合』に……?』
『じゃあ俺達、『敵国人』を部隊に置いてた訳か』
疑問、懐疑、驚愕________様々な感情が、室内を飛び交う。
「『宗教国家連邦』軍上層部とも連絡が取れた。上官の少将を屈ぷ……説得するのは骨が折れたよ」
「(今『屈服』って言いかけなかったか? いや、俺の聞き間違いかもしんないけど)」
「『宗教国家連邦』でクーデターを起こしたのも例の部隊だ。そして、アルファーノ少尉の居場所だが________」
オリヴィアはプロジェクターを操作し、一枚の写真を表示する。
「『宗教国家連邦』軍の対地攻撃衛星『ハルマゲドン』。大西洋で『ゴールドコースト』をやったのもコイツね」
長方形のユニットに、太陽光パネルを翼のように広げた本体。その中央部から地表に向けて、一門の巨大な砲身が突き出ている。
『衛星』とは名ばかりで、実際は宇宙ステーションに近いものらしい。
「主兵装は850ミリレーザー砲。最大出力では核シェルターを粉微塵にして、着弾点一帯にクレーターを作る威力らしい。副兵装として、スペースデブリ迎撃用に、50ミリ機関砲。こいつは実質、対空兵器みたいな物ね」
地表に向けられていない部分を埋め尽くすように、無数の機関砲が取り付けられている。
『ストライダー』相手では、50ミリ程度では多少装甲板がへこむ程度だが、牽制にはなる。
「今回のクーデターの首謀者と共に、少尉はここに連れ込まれたとの情報があった。先方の衛星管制官様々だな。……それと、今回は、『宗教国家連邦』と合同で動く」
「『宗教国家連邦』と合同作戦なんですか?」
「例の部隊がクーデターを起こした以上、『背信者』として扱われるからな。『資本主義連合』は、拉致されたパイロットの救出、『宗教国家連邦』は、『背信者』の始末。利害が一致したって訳ね」
「ヨハンナの場所的に、次の戦場は宇宙ですよね? どうやって行くんです?」
『簡単だよ』と前置きし、オリヴィアはしれっと言ってのけた。
「『資本主義連合』が保有する軌道エレベータのうち、大西洋方面にあるヤツを使う。ちょっと荒っぽくなるが、許せ」
『マジふざけんなって。何Gかかると思ってんの!? 骨折れたり内臓破裂したら、治療費は全部そっち持ちだかんな!』
「そうカッカすんなって。シワ増えるぜ? おい、パイロットスーツに不備が無いか確認しろよ。今回は『特別製』なんだから」
今のクリストフは、ロボットアニメのパイロットのような風貌だった。
顔面をすっぽりと覆うバイザーつきヘルメット。その中に、戦闘機パイロットが使うような酸素マスク。生命維持装置やその他色々を搭載した、『ちょっと薄めの宇宙服』のようなパイロットスーツ。いわゆる『宇宙戦仕様』だ。
『ヘルメットもスーツも問題無し。計器も大丈夫』
「オーケー。ハードも問題無いぜ」
『アダムス。もう一着パイロットスーツ無いか? ロッカーとかに入ってそうだけど』
「待ってな。探してくる」
装甲板をタンタンと飛び降り、艦内に消えるアダムス。
『(……中のスーツがゴワゴワするな。耐G関係とかあるから、仕方ないんだけど)』
それと何だか息苦しさを感じる。二つあるうちの、顔を覆う透明なバイザーを押し上げ、酸素マスクの紐を少し緩める。
その後コンソールを操作し、酸素の供給量を高めてみる。
『(あっ、これで良いな。マスクは緩めにしとこ)』
一通り調整を終え、バイザーを下ろすと、タイミング良くアダムスが戻って来た。艦内をダッシュして来たらしく、肩で息をしている。
「おい……持って来たぜ……!」
『おーサンキュ。適当に突っ込んどくよ』
クリストフはパイロットスーツをコックピット内部の後方にある箱に乱雑に放り込む。
『……しっかし、オリヴィアさんも酷いよな。軌道エレベータで宇宙に行けって、俺は宇宙開発用の資材じゃないんだぞ』
「アイツが荒っぽいのは今に始まった事じゃねえだろ。諦めな」
二人してため息をつく。心なしか、少し老け込んだようにも見えた。
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