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「我が第一八戦略機甲大隊の近辺に、『宗教国歌連邦』軍が出没している。この地域は『資本主義連合』と『宗教国歌連邦』間の係争地であるため、両軍とも複数の部隊を配置している」

 スクリーンに映し出された敵軍の機体が一つと、友軍の機体が一つ。

「周辺には第一七戦略機甲大隊が駐屯しているが、彼らが動く前に、敵部隊を壊滅させる。敵を壊滅させた暁には、諸君は多大な栄誉を得るだろうし、私の軍内部での地位も右肩上がりに……」

 アルベルトが己の地位や名誉の話をし始めた時点で、真面目に話を聞いている兵士はほとんどいなかった。強いて挙げるなら、最近部隊に加わったヨハンナくらいのものか。

「……とにかく、『一七』の介入を許す前に、我々のみで片を付ける。何か質問は?」

 しんと静まり返る会議室。疑問を持つ者はいないようだ。

「では、作戦を開始する。総員準備にかかれ」






「アイツの名誉の話なんか、どうでも良いっての。……っていうかヨハンナ、よく最後まで聞いてたね」

「上官ですから。それに、他人の話を聞くのは、案外得意なんです」

「お、ヨハンナの意外な特技発見。……そうだヨハンナ。携帯端末持ってる?」

「持ってますけど……何か?」

 不思議そうな顔で携帯端末を差し出すヨハンナ。ヴァネッサはそれをひょいと取り上げると、

「……良し。これでオッケー」

 いくらか画面を叩き、何かを操作してから、ヨハンナに返した。

「メアド交換しといた。気軽に話せるようにさ」

『ヴァネッサ・エールハルト』という名前以外は、誰の名前も載っていないメアド欄。

「……私とヴァネッサさんは、友達という事ですか」

「だね。直属の整備兵としても、友達としても、よろしく頼むよ。ヨハンナ」

「ええ。よろしくお願いします」

 ヨハンナは携帯端末をポケットに押し込み、コックピットに入る。

 そのままハッチを閉じ、『ショットシェルブレイカー』を起動する。

「『ショットシェルブレイカー』、出撃します」






 どこまでも透き通り、空との境界が曖昧になってしまうほどの青さを誇る南太平洋の一角は、超弩級の高速戦闘の舞台と化していた。

「(『宗教国歌連邦』軍の第二世代『トール』……『資本主義連合』では、『ギガンティックスロウ』。巨大なハンマーを使って、敵機を撲殺する近距離型でしたか)」

 さっきから、異常接近を知らせる警報がやかましく鳴り響いている。

「ぐっ……、しばらく高速戦闘を行っていなかったとはいえ、こうもGに振り回されるとは……」

 一般的な戦闘機パイロットの耐えられるGが9G程度なのに対し、『ストライダー』パイロットは、戦闘機パイロットの耐えられる上限である9Gを下限とし、高速戦闘では12G、瞬間で15Gもの殺人的なGがかかる環境で戦闘を行っている。

 現在『ショットシェルブレイカー』のディスプレイに表示されているGは『10G』。まだまだこれからというところだが、ヨハンナの息は上がっており、額には玉のような汗が浮かんでいる。

「マズいですね。押されています……」

 何発かフレシェット弾をばら撒き、牽制するが、相手は上手く傷の付いていない装甲に当てて、ダメージの分散を図っていた。

 その時、ぐりんっ、と敵機の首が横を向いた。

「……『宗教国歌連邦』時代のデータでは、あの機体の頭部には、四十ミリ機関砲が装備されていて、使用砲弾は徹甲榴弾。射線上に基地……」

 瞬間、ヨハンナの背筋に悪寒が走る。

「(対人用の徹甲榴弾ですが、その気になれば、対物用にも応用が利きます。ということは……)」

 ヴヴーーッ!! と、『ギガンティックスロウ』の機関砲が、四十ミリの砲弾を吐き出した。

 ヨハンナは茫然自失といったような表情で固まっていた。

『自分の基地が攻撃されている』『大佐は皆に退避命令を出しただろうか』『攻撃しなきゃ』。

 頭の中を様々なことが駆け巡るが、身体は石のように固まって、言うことを聞いてくれない。

 頑迷な上官を説得しに乗り込んだ執務室、短い間ながら、そこに暮らし寝起きした士官宿舎、自分の半身とも言える『ショットシェルブレイカー』の整備のため、幾度となく足を運んだ整備場。

 その全てが、鋼鉄の雨によって、無残に破壊されていく。特に整備場は、『ストライダー』関連の機材や工具、補修用の部品が置いてあるためか、群を抜いて破壊し尽くされていた。退避命令は出ていたと信じたいが、仮に出されていなかった場合、整備兵は全滅だ。

「ヴァネッサさん……」

 今すぐにでも、メールで安否を確認したい。目の前の鋼の悪魔を叩き潰し、整備場に駆けつけてやりたい。

 しかし、現実は非情だ。一通り基地を破壊し終えた『ギガンティックスロウ』が、横薙ぎにハンマーを振るった。

「ぐぁあっ!?」

『ストライダー』の頭部と、コックピット上部の装甲が、軒並み吹き飛ばされた。

 その時、波を裂く音、空気が吹きつけられる音が耳に入った。

「友軍機へ。……敵機のハンマーにお気をつけて……」

 味方の持った巨大なライフルが火を噴き、『ギガンティックスロウ』のハンマーを吹き飛ばす。

 再び白いレーザービームが空を裂き、敵機のコックピットを寸分違わず撃ち抜いた。

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