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一週間後。
軍の研究施設での諸々の聴取を終えたヨハンナは、正式に『資本主義連合』軍の部隊に配属される事となった。
「新しいパイロットは貴官か。……前のパイロットは戦死してしまったのでな。ちょうど良かった」
第一八戦略機動大隊指揮官のこの男は『アルベルト・シュタインブルク』。
一応士官学校を出ているが、『大佐』の階級は、軍の中将である義兄のコネを使って得たもので、部隊指揮官としての能力は、『中の中』あるいは『中の下』程度のものでしかない。
性格も良いものでは無く、徹底した合理・戦果主義、パイロットや兵士を『消耗品』と見なし、どれだけ死のうが、勝ちさえすれば良いし、自分の地位が危ぶまれなければ問題ないというのだ。
結果、『作戦指揮はおざなり、人望も皆無。あるのはコネを使って作った裏口の出世ルートのみ』という、無能な指揮官の典型例が出来上がってしまった。
「アルベルト大佐。私を部隊に引き入れて下さり、感謝します。未熟者ですが、部隊の、『資本主義連合』軍のお役に立てるように精進致しますので________」
「貴官の意気込みは聞いていない。さっさと機体の調整にかかれ。私は忙しいんだ」
「あ……」
歓迎の言葉も無く、置き去りにされるヨハンナ。あれがこの部隊の指揮官なのか? だとしたら、もう少し部下に気を遣ってやっても……。
「(分かっています。どれだけ部隊や国家に忠誠を誓っても、所詮私は『敵国人』。しょうがない事です。……機体の調整に向かうとしましょう)」
スタスタと歩いていると、腰から工具を提げた、整備兵らしき女性兵士と目が合った。
彼女は一瞬驚いたようだが、すぐにニコリと笑い、
「あなたが新しいパイロット? ……災難だったでしょ。あの人、ウチの指揮官ね。でも、作戦指揮はヘッタクソだよ。正直、あの人に付いて回ってる副官の中尉が指揮した方が良いと思うの。……あ、私、ヴァネッサ・エールハルト。階級は上等兵だけど、あなたは?」
「『ストライダー』パイロット、ヨハンナ・アルファーノ少尉です」
「げっ、じゃあ上官サマか。申し訳ありません。アルファーノ少尉」
相手が自分より格上の少尉と分かり、すぐに頭を下げるヴァネッサ。それを見たヨハンナは、感情の起伏に乏しい顔に、ふっと笑みを浮かべ、それを許した。
「ヴァネッサさんは私と近い年齢のようですし、それに私は『敵国人』ですから……」
「何だか波瀾万丈な人生の予感……! あ、言いたくないなら良いんだけど……」
「ヴァネッサさん。整備場へ行きましょう。『私の機体』が待っています」
ヨハンナは気分を切り替えるように整備場へ足を向け、ヴァネッサもそれに続いた。
「やあヨハンナ。これが君の機体……『ショットシェルブレイカー』だ」
『ショットシェルブレイカー』________大型のショットガンを主武装とし、『広域分散』型で、装甲に少し傷をつける程度しか威力の無い『フレシェット弾』と、『一点集中』型で、『ストライダー』の装甲で最も分厚いコックピット周辺の装甲を撃ち抜くことが出来る威力の『スラッグ弾』の、二種類の弾丸を使い分けて戦う、近距離専用の機体だ。
「中々ピーキーな機体ですね。第三世代機ですか?」
「いいや。第二世代だ。ヨハンナ。君がどういう人間かは分からないが、軍上層部の判断らしい。『ヨハンナ・アルファーノには、第二世代機のみを充てがえ』と」
最新鋭の第三世代機を与え、機密情報を抜かれるよりは、自軍のデータベースに詳細なデータがあり、使われている技術も目立つ物の無い第二世代機を与える方が良いと、上層部も判断したのだろう。
「……なるほど。少し試運転をしてもよろしいですか?」
「アルベルト大佐に許可を取らないとなあ……。あの人が許可を出すとも思えないが」
「私が許可を取りに行きます。私の『経歴』を知っているアルベルト大佐が許可を出す確率は低いですが」
「我々は何をすれば?」
ヨハンナはしばし逡巡すると、こう答えた。
「機体の整備をお願いします。ダメ元ですが、許可を取ってきます」
「ならん。非常時でも無いのに、『敵国人』の貴官を野放しには出来ない」
予想通り、却下された。しかし、ヨハンナは引き下がらない。
「実際に動かす事で分かる機体の癖や不調もあります。整備兵の方々を信用しない訳ではありませんが、私自身が乗らなければ、分からない事もあるんです」
「……二時間。試運転にかける時間は二時間のみだ。それ以上は、如何なる理由があろうと許可せん」
何とか試運転の許可を得たヨハンナ。一礼し、アルベルトの執務室を出た。
「(機関は常時回してあるはずですから、システムの起動、各種のセッティングに三十分はかかる。……自由に動けるのは実質、一時間半ほどでしょうか)」
射撃や各部位の動作確認、レーダーや火器管制装置、各種センサーの確認などをいれると、多少時間が足りないような気もするが、どうやっても二時間から延長は出来ない。
「急ぎましょう。時間が惜しい」
彼女はそう呟くと、整備場へと早足で向かった。
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