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「……もう一週間、ですか……」

ヨハンナが『宗教国家連邦』から亡命し、『資本主義連合』に来てから、一週間が経とうとしていた。

「(どんな仕打ちを受けるかと思いましたが……)」

週に二回は外に出て運動する事ができ、施設内なら散歩は自由。日用品などは、担当の研究員に伝えれば、その日のうちに届けられる。

「(シャワーやお風呂に毎日入れるのが大きいですね)」

ヨハンナが女性であることを考慮してか、入浴は毎日可能だ。仮に彼女が男性だったら、どうなっていただろうか。

『やあ。ヨハンナ。今日の聴取を始めさせてもらっても良いかな?』

髪を短く切り揃えた、中肉中背の研究員。

ヨハンナの担当研究員だ。

「今日は何をお話しすれば?」

『知りうる限りの機密情報かな』

「はい。……私は高級将校ではありませんから、大した情報は持っていませんが」

『君が持ち込んだ『コイルガンナー』、第二世代機なのだろうが、戦術解析ソフトウェアは、第三世代クラスの情報処理能力を有しているようだ。私の推測だが、『宗教国家連邦』軍の標準的な戦術解析ソフトウェア『Tc-RSF-03』のマイナーチェンジ版……我々は便宜上、『Tc-RSF-03Mch』と呼称しているんだが、この系列のシステムを搭載しているとみている』

『ストライダー』の重要機密情報の一つである戦術解析ソフトウェアの分析も終了しているらしい。ヨハンナは血の気が引いていくのを感じたが、自分はもう『資本主義連合』の人間。『敵国』の機密情報など、どうなろうと知った事ではない。

「『Tc-RSF-03』系の戦術解析ソフトウェアは、本国では既に旧式化してきています。私の機体に搭載されたソフトウェア単体では、第二世代レベルの処理能力しかありません。ですから、部隊の電子戦支援部門、戦術データベースの支援を受けて、ソフトウェアの能力を超えた高速演算を行なっていました」

『なるほど。パイロットの頭脳に、戦術解析ソフトウェア、電子戦支援部門と戦術データベース……これらを総括して、敵機の行動予測や攻撃の到達時間を計算していた……と?』

「私の脳では、微々たるものですが……」

『ハハハ。そう言わないでくれ。『宗教国家連邦』風に言えば、さしずめ『神の頭脳』と言ったところかな?』

「……『神の頭脳』に関連して、部隊で小耳に挟んだ事を一つ」

『ん? どうしたんだい?』

「軍の上層部は、『アテナシステム』と呼ばれる、完全事象予測システムを開発していました」

『アテナ……知恵の神だったか』

「はい。戦術解析ソフトウェアは、その副産物とも言われ、それが集めた戦闘データは、『アテナシステム』へ集積され、いずれ完璧な戦闘AIとなり、『ストライダー』も、パイロット要らずとなる……と」

『『アテナシステム』……また『宗教国家連邦』らしいネーミングだ』

「『神は終末にて、信じる者を救い、教えに背く者を奈落へ堕とす』。……父が教えてくれたものですが……私も『教えに背く者』となってしまいました。……覚悟は出来ていましたが」

不意に顔をうつむけ、唇をキュッと引き締めるヨハンナ。

『心配いらんよ。『資本主義連合』では、神の教えや宗教よりも、金がモノをいう。軍人、それも『ストライダー』のパイロットともなれば、『資本主義連合』でも良い暮らしが出来るだろう』

「私が持っているのはユーロ紙幣で、『資本主義連合』のドルではありませんが」

『ヨーロッパに限れば、ユーロも使える。心配なようなら、私がドルに交換しておくが?』

『宗教国家連邦』から『背信者』として追われる身となったヨハンナ。対立国の国内と言えど、『宗教国家連邦』軍の特殊部隊がいないとは言えない。

「お願いします。下手に歩き回って、狙撃でもされたらいけませんから」

『了解した。なるべく早く済ませるよ』

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