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『ヨハンナ。相手は神を信じぬ邪教徒だ。絶対神たる『ヤハウェ』の聖なる一撃を以って、奴らに裁きを下してやれ』
「はい。中佐」
『ヤハウェ』の足元から暴風が吹き出し、機体が浮き上がる。ヨハンナは操縦桿を前に倒し、機体を前に進める。
成功しても、しばらくは研究所に送られ、『ヤハウェ』共々、『宗教国家連邦』軍の機密情報を吐かされるだろう。
しかし、失敗して軍籍を剥奪。『背信者』として軍法会議にかけられればまだ良いが、機体から引きずり下ろされ、即銃殺刑に処されるかもしれない。
「(お父さん、お母さん。どうか赦してください。私は今日、神を裏切り、祖国を見限ります)」
『見えるかヨハンナ。あれが『アスタロト』だ』
「確認しました。『ヤハウェ』、交戦します」
『汝に神の加護があらん事を』
通信を終了し、戦闘行動に移る。適当に銃弾を撒き、敵機を牽制。これも『戦っているパフォーマンス』だ。
「(どこの部隊のものかは分かりませんが、良いでしょう。……一度でも敵対行動を取った敵軍機の救援要請や亡命希望の通信を取り合ってくれるか、不安ですが……)」
敵機の射線を見切り、『撃たれる前に』回避し、身体にかかる激烈なGに耐え、不意の鋭角機動をとり、敵機を翻弄する。
「(________潮時ですね)」
ヨハンナは操縦桿に付いた小さなスイッチ________頭部バルカン砲のスイッチを入れ、赤い信号弾を三つ発射する。
国際法に定められた救難信号の発信方法の一つだ。
そしてキーボードを呼び出し、暗号を用いて、敵機に亡命を希望している事を伝える。
『ヨハンナ・アルファーノ! 貴様、何をしているッ!?』
「中佐、あなたとも、今日でお別れです。次に会う時は、敵軍の将としてか、牢屋の中からです。今までありがとうございました」
『貴様、その行為が軍規違反だという事が分からんのか!?』
「
淡々と、ヨハンナは言葉を紡ぐ。
『貴様には失望した……! 部隊の総員へ。ヨハンナ・アルファーノ少尉が、邪教徒である『資本主義連合』へ寝返った。機密保持のため、機体ごとヤツを討つ! 諸君、我らが神へ、その揺るぎなき忠誠を示せ!!』
戦車砲が向けられ、戦闘機からロックオンされ、攻撃ヘリも、『ヤハウェ』へ、レーダー波を浴びせる。
「……戦車砲、三十二、対地ミサイル、五十三、機関砲、百以上、対戦車ロケット、四十……、ただの兵士が
「あいにくと私は『ストライダー』パイロット。『ただの兵士』ではなく、『超人』です。そんなチャチな兵器で、私を……『ヤハウェ』を貫けると思うな!!」
主武装の九十ミリコイルガンが火を噴き、襲い来る破壊の雨を晴らした。
「……中佐。私も鬼ではありません。これ以上攻撃を続けるなら、私も相応の対応を取らなければなりません。……中佐。ご決断を」
『……貴様は神を裏切った。この事は軍上層部へ報告する。いつか必ず、貴様の首を討ち取る』
ヨハンナは何も答えず、目を瞑った。
「……何があったっての……?」
『資本主義連合』軍の『ストライダー』パイロット、『アリアーナ・ヘスティア』は、目の前の光景に唖然としていた。
「(『宗教国家連邦』式の暗号で亡命を希望してきたと思ったら、自分の部隊を攻撃し始めるなんて……。仲間割れでも起こしたのかしら……)」
『アリー。敵軍の様子はどう?』
「それを分析するのが、あなた達の仕事でしょ?」
すました顔で告げるアリアーナ。通信相手の女性は、アリアーナより階級が一つ上の少佐なのだが、彼女はまるで同期と話すかのような語調だった。
「敵部隊の事なら、私は一切分からない。ただ、『コイルガンナー』のパイロット。ちょっと突いてみて分かった。……かなりの手練れらしいわ。多分乗ってるのは加齢臭のキツいオヤジね」
『消臭スプレーでもプレゼントしてあげたら?』
「あいにくだけど、私の手元にそんな物無いわ。愛情と真心をいっぱいに込めたレールガンを贈ることは出来るけどさ」
『ハートを射抜いたら相手、爆発しちゃうわね?』
「私ウブだから、撃ち抜ける自信無いし、おっさん趣味は無いの」
怖ろしい恋愛トークを繰り広げる二人だが、『コイルガンナー』改め『ヤハウェ』に乗っているヨハンナ(バリバリの女の子)からしたら、侮辱も良いところである。
「んで、少佐殿。あなた的には、亡命には賛成?」
『理由はどうあれ、命がけで国を出てきたんだもの。それに、『コイルガンナー』の機密情報や、『宗教国家連邦』のパイロットに関する情報も聞き出せるかもしれない。『資本主義連合』にとっての対価はたくさんあるからね』
「じゃあ、保護するわね。一応軍上層部にも伝えておいてほしいかな。『亡命者が理不尽な扱いを受けないように』ね」
『了解。アリアーナ大尉』
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