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『宗教国家連邦』、エルサレム。

「ヨハンナ、今日はお前の誕生日だ。好きな物を買いなさい。私は服を見なければならないから、お母さんと一緒にね」

「ありがとう! ……でも、神様は私が生まれたことを、お祝いしてくれるかな?」

黒髪に青眼の少女________『ヨハンナ・アルファーノ』が、首を傾げる。

「ヨハンナは神様に選ばれて生まれてきたのよ? きっとお祝いしてくれるわ」

ヨハンナはショーウィンドウに貼り付き、目を輝かせる。

「……あら、ヨハンナ。指輪が欲しいの?」

「うん!」

彼女の視線の先にあったのは、小さく輝く指輪。値段は五十五ユーロと多少値が張るが、彼女の母親は嫌な顔一つせずそれを手に取り、レジへ向かう。

「ヨハンナは外で待っててくれる? お父さんが帰ってくるかもしれないし」

「分かった!」





ヨハンナは表のベンチで足をブラブラさせ、自販機で買ったオレンジジュースを飲んでいた。

刹那、彼女の前方の店________先程彼女が出て来た店と、左斜め向かいの服屋から、火の手が上がった。

火事か。________否、爆発。テロだ。

「……え」

逃げる間も無く、悲鳴をあげる群衆に押し潰されてしまった。

「くる……しい……!」

幼い少女の助けが聞こえるはずもなく、群衆は我先にと逃げ出して行く。

「おお、神よ! 我らが神よ! 遂に不埒者は塵と化した! 異教徒共を血祭りに上げた暁には、汝の栄光が、世界に降り注ぐのだ! 私も貴方の下へ参ります。どうか我らに、無上の慈愛を!!」

男はそう叫ぶと手に持ったコントローラーのようなものを押し、爆裂した。肉片や臓物、真っ赤な血が、辺りに飛び散った。




全て吹き飛び、黒焦げになった店内を進む。

「……お母、さん?」

彼女の視界に入ったのは、あらゆる部位が焼け焦げ、半身を失くした女性。見覚えのある顔。……これは母だ。

少し前まで楽しみにしていた指輪は________どこにも無かった。爆発で、粉々になったのだろうか。

ヨハンナは力無く地面に膝をつき、涙を流し始めた。唇がしばしば動き、何かをうわ言のように呟いていた。





「こちら第三〇二対テロ中隊、A小隊です。生存者と見られる少女を発見。これより保護します」

遅れて軍の部隊がやって来た。

「貴女、お名前は?」

およそ軍人とは思えないほど柔和な顔つきの女性兵士が、ヨハンナに話しかけた。

「ヨハンナ……アルファーノ……」

「ヨハンナちゃんね。私達は生き残った人達の保護に来たの。ヨハンナちゃん、ちょっとお話しがあるから、お姉さんに着いて来てくれるかな?」

スリングベルトで肩にかけているのは自動小銃。それを見て一瞬怯えるヨハンナだったが、意を決して、首を縦に振った。





「まず私達は、『宗教国家連邦』の軍人なんだけど、ヨハンナちゃんは見たところ孤児……なのかな?」

「……はい」

「ヨハンナちゃん、これは貴女の自由だけど、『これから軍人として、衣食住の保障された生活をする』か、『このまま孤児として、神様にも見放されたような生活をする』かの、どっちかなんだけど、どっちが良いかな?」

裏を返せば、『生活は保障されるが、命の危険がある軍に入る』か、『そう危険に曝されることはないが、生活の保障は無い』人生を送るかの、ある意味究極の選択になる。

「私は……、神様に見放されるのは嫌だ。……軍隊も怖いけど、それしか無いのなら」

覚悟を決めていた。女性兵士はニッコリと笑うと、『ようこそ、我が同胞』と、握手を求めてきた。ヨハンナもその小さな手で、女性兵士の手を、しっかりと握った。

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