5
『第一七戦略機動大隊の総員に通達。『社会主義同盟』の第三世代『プラズマボマー』、『宗教国家連邦』の第二世代『スプラッシュランサー』が接近している。至急戦闘用意』
オリヴィアの緊張感を孕んだ声に急かされるようにコックピットに乗り込むクリストフ。
一機で二機を相手取るのは、かなり辛い事だ。
「……第三世代がいるのか。面倒だ。さっさと片付けて、ヨハンナの面倒見てやらないと」
『クリストフ! ハンドガンの弾が足りねえから、使用は控えろ! ナイフとレーザーライフル、それと、レーザービットを使ってくれ!』
「弾の話は後だ。その気になれば、ビットにハンドガンの真似事させるさ」
『頼もしいこって』
格納庫の扉が開き、赤茶けた荒野が広がり、その先には海が待ち受けている。
格納庫を出た『オプティカルスナイパー』は、砂煙を上げながら荒野を疾走し、そのまま海へ出る。
「うわ、重砲撃型の機体か。タフネスヤバそうだな……」
両肩に大口径プラズマ砲を背負った第三世代『プラズマボマー』。プラズマ砲の口径は300ミリに達し、当たればどんな機体も貫く。
初めに撃ったのは、『プラズマボマー』だった。極太のプラズマ光線が、『オプティカルスナイパー』の至近を掠める。
「あっぶねー! ワンパン退場食らうかと思ったよ」
返す刀で、クリストフもレーザーライフルを発射する。『プラズマボマー』はゴツい見た目のわりに俊敏で、難なくこれを避けていた。動けるデブのようなものだろうか。
「ビットの駆動系を自律駆動に変更。レーザービット、起動!」
ヒュンヒュンと、レーザービットが意思を持っているかのように動き出す。
「(合計十基。五基は『プラズマボマー』に向けて、残りは『スプラッシュランサー』に牽制で飛ばすか)」
一瞬で戦術を組み立て、実行する。クリストフはキーボードを呼び出し、五基の目標指向プログラムを書き換え、別の目標に向かわせた。
「(ビットは小さいし素早いから、小バエみたいでウザいんだよな。相手のイライラ顔が目に浮かぶよ)」
『プラズマボマー』をライフルで牽制しつつ、『スプラッシュランサー』にも対応する。
「あーあ。『社会主義同盟』と『宗教国家連邦』で殴り合ってくんないかな。弱った二機を俺が倒せば終わりだろ?」
『…………先輩。それは不可能に近いです』
軍用の暗号回線に、割り込みがあった。
「ヨハンナ? どこから回線ジャックしてんの?」
『それは後ほど。……『社会主義同盟』は、その思想の都合上、宗教を否定しています。『宗教国家連邦』も、『社会主義同盟』とは折り合いが悪いのですが……』
「ですが?」
『『資本主義者』と、『異教徒』を見つけた両国は、私達『資本主義連合』をまず潰しにかかります。殴り合うにしても、『共通の敵』を排除してからになるでしょう』
「解説ありがとうヨハンナ。ところで社会主義者を吹っ飛ばす杖と、過激派信者さんを滅多斬りにする剣は無い?」
『RPGのやりすぎですか先輩? ジョークとしては落第点ですよ。全然面白くないです』
「ヨハンナさん辛辣ぅ……。あれか。今日女の子の日だろ」
『帰って来たら先輩の顔を整形しますのでお覚悟を』
『心底見損なった』というような低い声で処刑宣告をすると、一方的に通信を切った。
「うーむ……。女の子って難しいね」
八割か九割くらいクリストフが悪いのだが、彼はそれを分かっていないらしい。とんだ最低野郎である。
「レーザーライフル、発射サイクルを3000にセット。火器管制システム802番から837番までオープン。射撃開始」
今更のように説明するが、『オプティカルスナイパー』に装備されているレーザーライフルは、発射サイクルを設定することにより、『長距離狙撃のスナイパーライフル』、『中距離連射のアサルトライフル』、『近距離制圧のショットガン』として、使い分けることが出来る。
光の弾丸に叩かれた『プラズマボマー』の装甲が、面白いように吹き飛ばされ、一筋のレーザービームが、コックピットに命中した。
怖気づいたのか『プラズマボマー』が撤退を始めた。入れ替わるように『スプラッシュランサー』が眼前に躍り出て、機体の倍の大きさの槍を突き出してきた。
「(ちくしょう! 懐に入られちゃったよ! ……レーザーライフル、発射サイクル600。火器管制システムは同系統を使用。射撃開始」
発射サイクルを下げ、発砲後少しして拡散するレーザー弾を撃ち出した。
近距離にもかかわらず、『スプラッシュランサー』の大槍が、光の雨を防いだ。
「第二世代、やっぱりベテランか!」
『スプラッシュランサー』が海面に向けて銃撃し、高々と水柱が立った。
「(撹乱!? どこから来る!?)」
警告アラームが鳴り響く中、クリストフは周囲を見回す。
アラームが一段と高く、速くなり、機体の背面に、強い衝撃が走った。
「うぐ……っ!!」
固定用ベルトに引っかかり、息を詰まらせたクリストフ。彼の目には、困惑の色が見えた。
「『スプラッシュランサー』……データベース照合。銃撃で水柱とか砂煙起こして、敵機の死角から奇襲か。胸糞悪いな。パイロットはハゲオヤジか?」
『先輩。まずは槍を落としましょう。あれを落とせれば、相手は丸腰のようなものです』
「ヨハンナ……、お前の通信が何の周波数使ってるか、真面目に知りたいんだけど」
『それは帰って来た先輩の顔を整形してから教えますから』
どうやらクリストフの処刑は変わりなく執行されるらしい。美少女の執行人がいるだけ、まだマシか。
「槍か。ライフルの出力上げて、装甲ごとぶち抜いてやりたいね」
『『アレス』は近接戦闘タイプですので、装甲も厚めにされています。槍を壊したら、その分レーザーの威力も減衰するので、成功するかどうか……』
「……整備兵には悪いけど、ハンドガン使うか。体勢崩して一発かますよ」
『先輩って、わりと強引なんですね。部屋の本に描かれてた人みたい』
『部屋の本』で、クリストフの顔色が青くなった。
「よ、ヨハンナさん。もしかしてあなた、俺のベッドの下漁ったりした?」
『色んな物が出て来ましたよ。変な本とk』
「あーダメッ!! それ以上はダメだ! 整形でも処刑でも受けるから、お願い!」
ちなみに勝手に部屋に(しかも男の)入ってベッドの下を漁るヨハンナの行動はかなり異常という事をクリストフは知ってるのだろうか。
「……気を取り直して、レーザー出力上昇。発射サイクルはデフォルトの1000へ。射撃開始」
あえて近距離で『狙撃』を行い、『スプラッシュランサー』の手を破壊。大槍を手から落とすことに成功した。
そこからは早かった。実質武器を失った敵機に対しゴリ押しするだけなので、結果は明白。『資本主義連合』の勝利に終わった。
「さあ先輩。お顔を整形しましょう」
「(『秘蔵作品』の隠し場所がバレた上に)帰ってすぐこれかよ! アダムス身代わりにして良い?」
「ダメです。アダムスさんは格納庫で働いてただけです。でも先輩は、私の心を深く傷つけたのでアウトです。……動いちゃダメです。変なとこに当たっても、治療費は出しませんよ」
素直に殴られることにしたクリストフ。その顔は何故か穏やかだったが、彼は『あっちの方』に目覚めでもしたのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます