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「お、来やがったなこの野郎。美少女なんか連れやがって羨ましいッ!」
格納庫に入るなり、アダムスが掴みかかってきた。ヨハンナの方に行かないように気を配りながら、それを軽く受け流す。受け流されたアダムスは、近くの壁にキスするはめになった。
「クリストフ。調べてみたら、レーザービットも調整の必要がある。自律機動プログラムにエラーがあるらしい」
「うわあめんどくさ……」
「簡単な調整なら儂にも出来るが、プログラムはお前にしかアクセス権限が無い」
レーザービットは実験兵器であるため、一般の兵には機構がほとんど公開されておらず、システム面の調整や、簡単な整備ならパイロットや整備兵にも可能だが、本格的な整備や、システムの書き換えは、軍の兵器工廠でしか出来ない。
「……レーザービット、私も見たかったですけど、私は『敵国人』ですから……」
「ヨハンナ、『資本主義連合』の人間じゃないの?」
「あっ、いえ、何でもないです!」
手をブンブン振って話題を流そうとしたヨハンナだが、クリストフの顔は難しい表情のままだ。
「そうだクリストフ。お前さん、ハンドガン撃つ時、握り方が雑だろう」
「げっ、バレてる……」
「整備兵を甘く見るな。グリップが不自然に歪んでおった。銃身で無いから良いものの、銃を抜いた時に、落としたりしかねんぞ」
「すいません。確かに最近、強めに握ることが多かったかも……」
「分かれば良い。お前さんは物分かりの良い男だからな。……アダムス! いつまで伸びてる! さっさと装甲板の点検にかかれ!」
床で伸びているアダムスを叩き起こすと、彼に発破をかけた。
「先輩、『オプティカルスナイパー』のレーザーライフルは、何か特殊な機構などがあるのですか?」
「特に無いけど、照準系統に人工知能使ってるらしいよ。意味があるか分かんないけど」
「なるほど……。先輩は、近接戦闘は苦手なのですか?」
「機体の運用思想では近接もいけるけど、俺自身はあんまり……」
クリストフの戦術理論自体が『中・遠距離から狙撃して撃破する』といったものなので、仕方無いと言えばそうなのだが。
「熱心だね。何かあるの?」
「軍の本部から、新しい機体の乗り換えを提案されたんです。第二世代の機体ですが」
「第二世代かあ。最新鋭機じゃなくて不満?」
「いえ。最新技術まみれの機体より、中古の技術を使ったものの方が、慣れやすいんです」
「相手の技術の進歩に置いてかれないかなって思ったんだけど……」
「機体の差を実力でカバーするのが一流パイロットですよ。先輩」
至極真っ当な事を言われ、言葉に詰まるクリストフ。彼の操縦技術も高い部類に入るが、機体の性能に頼っていた部分が多々あった。
「……アサルトライフル二丁と、ビームサーベル、あっ、手榴弾も欲しいですね!」
「手榴弾って効果あるの? 破片手榴弾じゃあ、対人くらいしか使えないよ」
「先輩、対『ストライダー』用の手榴弾なら、破片じゃなくて、爆発で壊すタイプのヤツですよ」
「ああ、『ストライダー』で手榴弾使ったこと無かったから、うん。……すいません……」
「ヨハンナ。一応俺はお前の指導官で世話役なんだけど、何か教えてほしい事とかある?」
「特に無いですけど、模擬戦がしたいです」
「模擬戦かあ。……良いよ。俺が相手になるか分かんないけど」
パイロットで言えばクリストフは『多少上手い凡人』だ。『世界一の天才』であるヨハンナに勝てる確率は低い。
「私は普通の人ですよ。ちょっとだけ操縦が上手くて、人より運が良いだけで、天才なんかじゃありませんよ」
「『強い人ほど謙遜する』って言うじゃん?」
「先輩、年上の意地をみせるときですよ! ここでヨハンナ・アルファーノを下して、指導官としての実力差を見せつけるべきです!」
「本人に言われるとすっごい微妙……」
しかし、パイロット歴はクリストフの方が若干長い。先輩が後輩に負けるなんて、カッコ悪い事は出来ないのだった!
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