3
「ライフルのレーザー励起装置の交換時期近くなってきたから、交換お願いに来ましたあ」
「……ああ。やっておく」
のそっと出てきたのは日焼けした老人。齢六十を超えているだろうが、その体つきは軍人のそれだ。
「整備主任殿はご機嫌ナナメなんだ。そっとしといてやれ」
一人の若い整備兵が、クリストフに声をかけた。
「爺さんのご機嫌取りも大変だな。同情するよ」
「だろ? ……っていうかクリストフ君。俺さ、格納庫に来る前に見たんだよ。ヨハンナを」
「部隊が壊滅したんだと。可哀想になあ。世話役は誰だろ。俺の予想じゃ、衛生兵の誰かかな」
「だよな。男の衛生兵はみんな『そういう妄想』してんだろ」
「アダムスじゃないんだから……」
「言えてる」
自分の知らぬ間にディスられているアダムスだが、彼の素行が素行なので、自業自得としか言いようが無い。
『クリストフ。お前今すぐ医務室に来い。命令拒否は許さないわよ』
「……今日は機嫌良いな。明日は雨か」
「いつもの声と変わんないけど」
「俺クラスになると、上官の機嫌が声で分かるんだ。微妙な声のトーンでね」
「凄いんだが凄くないんだか分からんな」
「わりと凄い……と思う」
「ああ、来たな」
「オリヴィアさん。今度は何ですか?」
「そう構えるな。別に難しい問題じゃないわ。……クリストフ・ヴィンス中尉。貴官に、ヨハンナ・アルファーノ少尉の指導官兼世話役を依頼する」
『指導官』までは良かったが、『世話役』と聞いて、クリストフの動きが止まった。
「待ってオリヴィアさん。俺男なんですけど。ヨハンナは女子でしょ? 普通女性兵士に任せません?」
「指導官だっつったろ。ただの兵士に『ストライダー』の操縦が出来るわけ無いでしょ」
「クリストフ君。年も近いじゃない? アタシ達、ピンと来ちゃったワケ」
「まあほんとのこと言うと、このオカマ軍医から変に影響受けられるのも困るしね。オッサン臭いし」
「やだあオリヴィアちゃん。その目つき、ベリーキュートよお」
「殺すぞ」
金髪の上官とオカマの漫才もどきに目も当てられなくなったところで、ヨハンナがおずおずとクリストフに話しかけた。
「先輩。ここにいても何ですから、外に行きましょう」
「だね。……あ、でも『ストライダー』のライフルの点検あるからなあ」
「私もご一緒させてください。第三世代機の技術は、興味がありますし」
「学習に余念がないね」
苦笑いを浮かべながらも、『良いよ』と承諾したクリストフ。
「火器管制システムや、兵装関係が知りたいんですが……」
「お、ちょうどライフルのレーザー励起装置の交換するんだけど、見てく?」
「はい! 喜んで!」
キラキラと目を輝かせるヨハンナ。
好奇心旺盛な子供を見ているようで、クリストフの頬も、自然と緩んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます