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「いたいた。『宗教国家連邦』の第二世代。何だっけ……、『トール』だっけ?」
『宗教国家連邦』軍の第二世代『トール』。近接格闘型の機体で、背面にマウントされた巨大なハンマーが、主要な兵装だ。
『友軍機へ……。敵機のハンマーにお気をつけて……』
女性の声。これだけで、欲求不満クリストフのモチベーションはオーバーロード状態だ。
敵機がハンマーを振り回すが、別に射程に入らなければ良い。
「火器管制システム、570番から700番までオープン。レーザーライフルの発射サイクルは1000にセット。射撃開始」
クリストフの一声で、ライフルが火を噴いた。光速の弾丸は敵機のハンマーを吹き飛ばし、続く第二射で、正確にコックピットを貫いた。
「お嬢さん、大丈夫です……うお、ヨハンナ・アルファーノだ! すげえ……本物だ……!」
『資本主義連合』の『ストライダー』パイロットにして、世界一の天才。ヨハンナ・アルファーノ。
「私の事を……、知っているんですか?」
「軍のパイロット教本で見たよ! 『パイロット養成の完成形』だって!」
しかし、当のヨハンナの顔は暗いままだ。
「……あれ? 俺、何か変なこと言っちゃった系……?」
「いえ。何でもないです。……私の機体はスクラップになってしまったので、部隊まで乗せてってくれませんか?」
夢にまで見た美少女との相乗り。クリストフにこれを拒否する理由は無いし、ブラックな上官に止められても、無理やりやるつもりだった。
「ウチの上官が何て言うかな。……良いや。乗りなよ」
「ありがとうございます。先輩」
生まれて十六年。ついに美少女から『先輩』と呼ばれたクリストフは、上官にシバかれようともこの超絶美少女を保護するんだと心に誓った。
「ヨハンナ・アルファーノは我々第一七戦略機甲大隊が保護しました。……『一八』から『一七』へ、彼女の管理権限の移行をお願いします」
画面の向こうの包帯まみれの男________第18戦略機甲大隊指揮官『アルベルト・シュタインブルク』は、立派な口髭を蓄えた口をモゴモゴ動かし、不機嫌そうに返した。
『ヨハンナは我が部隊の要だ。『一八』のバックアップ部隊なんぞには渡さん』
「おかしいな。これは我が部隊の諜報部のタレコミなんですが……『部下の兵士やパイロットを見捨て、ボロボロになって逃げ出した指揮官がいる』と。おや、大佐。どうしたんです? 顔色が優れませんね」
『アルフォート中佐……、貴様は何を言っている……?』
「大佐。良い事を教えましょう。『敵前逃亡は重罪』。それも作戦指揮を執るべき者がおめおめと。……ああ大佐。貴方は優秀な指揮官だった。貴官の指揮で死んだ兵は、何と言うでしょうね……」
『もういい喋るな!!』
「ちなみにこの回線は、軍本部に監視されている。貴官の先ほどの言葉、証拠隠滅ととられても、何も言えないわよね? んん?」
『くっ……』という屈辱に耐えかねたような声を最後に、通信は途切れた。
「精々臭い飯を食いながら後悔なさい。兵を無駄死にさせた事をね」
オリヴィアはぐっと背伸びをし、タバコに火をつけた。
『ちょっと良いかしら?』
「……エイベル少佐。私の部屋に入るなら、その気持ち悪いカマ口調を今すぐやめなさい」
「やあねえ。やっぱりオリヴィアちゃん、Sっ気があって良いわあ……」
「……まあ良い。ヨハンナ・アルファーノの容態は?」
「身体的には良好だけど、精神面に心配が残るわね。……原隊でも年の近い子はいなかったし、『友達』に飢えているのかもねえ……」
「どうするつもり?」
エイベルはしばし考え込むと、
「クリストフ君と一緒にしたらどうかしら?」
ニッコリとこう返した。
「同じパイロットの身……、年も近いわね。悪くないわ。エイベル少佐、その案、頂くわ」
一歩間違えれば悪人になりかねないような笑みを浮かべるオリヴィア。エイベルはクネクネと腰を動かしたのだが、それがオリヴィアの癪に障ったらしい。数秒後には、エイベルの顔にグーパンが叩き込まれた。
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