ストライダー

神楽旭

変革を遂げた戦い

1

「ふあ……」

一人の青年が、コックピットの中でデカいあくびをかました。

年は十六から十七。ここが『特殊な環境』でなければ、彼は高校生と言ったところか。

本来思春期真っ盛りで、青春を満喫すべき彼が、最新機器てんこ盛りなコックピットに居座っているのには理由がある。

彼はクリストフ・ヴィンス。『資本主義連合』と呼ばれる国の軍に身を置く、正規の軍人だ。

「おいクリストフ。バカの一つ覚えみたいにあくび乱射してねえで、火器管制システムの調整しろよ」

「悪いね。昨日遅くまで十八禁な動画漁ってたんだ」

「気ぃつけろよ。軍の情報監視システムは甘くねえ。諜報部の連中が不自然に前かがみになりながら、お前の性癖ドストライクな動画をガン見してるかもしんねえんだから」

「怖いよね。『社会主義同盟』の監視社会もびっくりだよな。……アダムス、ライフルの照準補正システム715番から972番まで要チェック。あとバルカン砲の追尾システム死にかけだからデバッグとリビルドよろしく」

「……誰かプログラマー呼んできてくんねーかな。システム系列はサッパリだわ」

寝不足の頭でキッチリ仕事をこなす有能パイロットクリストフ。

「えー? システム関係の整備って、整備兵学校でやんないの? 俺、パイロットの基礎整備実習で余った部品使って対戦車ミサイル作っ」

「あー良いよもう喋んな。お前の武勇伝はメモ帳にでも書き殴ってろ。対戦車ミサイルブッパして主力戦車スクラップにしたんだろ」

うんざりしながらプログラムと睨めっこを続けるアダムス。何だかんだ言いながらやるあたり、彼も根は良いのかもしれない。

『クリストフ。雑談中大変申し訳ないが、出撃準備だ。ウチの基地の近くで、『宗教国家連邦』のイカレ頭どもがドンパチかましているから、ちょっと行ってタコ殴りにしてこい』

「俺『宗教国家連邦』だけは嫌いなんだよな。やり過ぎ都市伝説みたいでやらせ感半端ないし」

『好き嫌いは構わんが、襲撃された友軍部隊は壊滅。『ストライダー』のパイロットが捕虜になったら、好き放題やられるぞ。敵も欲求不満だろうから、後は分かるだろ?』

「……可愛い可愛い美少女だったら、止められても行ったんだけど」

『ガタガタ抜かす前にさっさと行けよ馬車馬』

「……ウチの上官がブラック過ぎる件」

それを小声で呟くと、地獄耳な上官殿が『あぁ?』と声をあげた。これ以上言うと顔面グーパンにローキックの刑が追加されかねないので、だんまりを決め込むことにした。

クリストフはコックピットのハッチを閉め、周囲の整備兵に出撃を伝える。

「『オプティカルスナイパー』、出撃します」

退屈な日常は、唐突に破られた。これが、彼らの戦争の幕開けだった。

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