第4話
レイナたちと別れて走っていくと、森の奥に湖を見つけた。周りには小さくて綺麗な花が咲いていて、レイナが見つけたら喜びそうな場所だった。
「あ~もう、カッコ悪いな、僕……」
本当に、心の底からそう思った。だって、レイナは何も悪いことなんかしてない。なのに、僕は勝手にネガティブに考えて八つ当たりして、逃げてしまった。
「最低だ………」
ため息を吐いて、その場に寝転がる。空は青く澄み切っていて、この想区にカオステラーがいるなんて嘘みたいだ。
「エク――ったぁ………」
「いたた……。っ、ごめん。大丈夫、レイナ?」
突然、視界いっぱいに広がったレイナの顔に驚いて僕は勢いよく飛び起きる。当然、僕を覗き込んでいたレイナと額がぶつかり、レイナがしりもちをつきながら額をおさえた。
「ううん、大丈夫。それより、あの……さっきはごめんなさい、エクス。けど私、なぜあなたが怒っていたのか分からなくて………」
額をさすりながら言うレイナの視線はどんどん下へと向かう。
レイナは何も悪くないのに、僕から謝ろうと思っていたのに、またレイナに謝らせてしまった。本当にレイナの言う通り、僕って男らしくないな……と、また自責の念に駆られる。
「いや、さっきのはどう考えても僕が悪かったよ。ただの八つ当たりだ。ごめん、レイナ」
短い沈黙のうち、僕たちは顔を見合わせて笑った。
仲直り、できたのかな。こんな風に誰かとぶつかるなんて初めてのことだからよく分からない。
「ところで、聞いてもいいかしら? エクスはさっき、どうして怒ってたのか……」
遠慮がちにレイナが僕を見上げる。ごくんと喉が鳴った。
原因は僕の醜いコンプレックスだ。そのせいでレイナに辛く当たってしまったのに、話さないわけにはいかないだろうと、一つため息を吐いてから僕は口を開く。
「シンデレラに言われたことが、僕のコンプレックスだって話はしたよね?」
「ええ。確か『お姉さんみたい』だって……」
「そう。それまでは、どうでも良かったんだ。村の子たちに女顔だってからかわれても、大人たちに可愛いって言われても。……僕はモブだからね、僕の顔立ちなんて、想区に何の影響もないし」
「………」
「けど、流石に好きな人から姉みたいだなんて言われるのは少しきつかった。姉ってのは、全くの恋愛対象外なわけでしょ? 何というか、軽く突き放されたような気がしたんだ」
「それを思い出したらさ、レイナにもちょっと距離を置かれたような気がして。それから、もしかするとタオたちも同じように思ってるかもって。僕のことを……っ」
そこから先は声が出なかった。『まだ仲間だと認めてくれてないかもしれない』。本気で思ってるわけじゃないけど、口に出すとそれが本当になってしまいそうで怖い。
今度こそ落ち着いて、レイナにあんな
「………大丈夫よ、エクス。私たちはあなたのこと、すごく大切に思ってる。タオもシェインも、それからファムも」
口を閉ざしてしまった僕を、レイナが優しく抱きしめる。しばらくすると、穏やかな声が耳もとに降ってきた。
「少なくとも私たちは、あなたのことを仲間だと思ってるけど……あなたは違う?」
「……違わないよ。僕はみんなのことが大好きだし、すごく大切だ。……レイナ、やっぱり君には助けてもらってばかりだね」
僕が故郷を出た時もそれからも、ずっと彼女には助けられてばかりだ。ううん、レイナだけじゃない。タオにもシェインにもファムにも、僕はいつも助けられている。
僕もみんなを守りたい。みんなとずっと一緒にいたい。みんなからどう思われてるかじゃなくて、その気持ちだけで今の僕には十分なんだ。
だから、僕はもう迷わない。仲間を信じることを、自分の想いを信じることを。
……大切なものを、守りたいから。
__さて、エクスくんを追いかけていったレイナを、私たちも追いかけて来たわけだけど。
「新入りさん……寝てるんですかね?」
「いや、それはなさそうだぞ。見てみろ、お嬢とコントみたいなことやってる」
飛び起きたエクスくんとレイナのおでこがぶつかって……あらら、ほんとにコントみたい。
「さっきの話……みたいだね。よかった、いつものエクスくんに戻ってる」
別れる前、何だか様子がおかしかったのを心配してたけど、いつもの様子に戻ってるっぽくて安心する。
「にしても、新入りさんが八つ当たりなんて珍しいですね」
「だねー。いつもは『人畜無害!』って感じなのにね」
「それ褒めてんのか……?」
そんなことを話しているうちに、レイナがエクスくんの怒っていた理由を聞きだしたみたいだ。
「突き放された……か。好きな人に言われたら無理もないかもね」
「シェインは……シェインも、そういった経験があります。角のない鬼なんて、シェインくらいでしたし」
「……そんなの『空白の書』の持ち主なら誰でもそうなんじゃねーの」
私は自分の故郷がなくなるまでは、代役とはいえ運命を持っていたから、その運命以上に酷いことはなかった。運命の書に何も書かれていないせいでいじめられるなんてこともなかった。
エクスくんの、叫ぶような声が聞こえてきて、私たちはレイナとエクスくんの方を見る。距離を置かれたように感じた、って言ってたね。タオくんたちっていうか、私たちも、同じように思ってるんじゃないかって。
「けど、私は出会えて良かったと思ってるよ、同じ『空白の書の持ち主』であるみんなに。二人はどう?」
特に、レイナと初めて会ったときは、自分の存在意義ができた気がした。善い魔女として、お姫様を守るんだって、そう思った。
「そうですね。タオ兄と出会わなかったらシェインは今もあの想区で仲間外れにされてるんじゃないでしょうか。タオ兄、姉御、ファムさん、もちろん新入りさんも。みなさんと一緒にいるから、今のシェインがあるんだと思います」
「……だな。オレもシェインと一緒じゃなかったら、あそこを出る決心なんてせずにどっかで野垂れ死にしてただろうな。それに、坊主がどう思ってようが、少なくとも坊主はオレたちの大切な……仲間だ」
私たちが話してると、レイナがエクスくんをぎゅっと抱きしめた。声が小さくてよく聞き取れないけど、このことは後でネタにしていじってやろうと決意した。
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