第3話
「惚れ薬の効果が切れたって本当なの、レイナ?」
「本当よ。まさか疑ってるの?」
「いや、そんなことは―。けど、ならさっき僕に好きだって言ったのは……」
「お姫様が本当だって言うなら本当なんじゃないのー、エクスくん?」
「ちょっとファム! お姫様って呼ぶのは禁止だってば!」
確かに口調はいつものレイナだし、ファムへの接し方も普通だ。ということは、本当に惚れ薬が切れた……の、かな―?
「新入りさん、新入りさん。さっきから姉御がちらちらそっちを見てますよ」
考え込んでいるとシェインに袖をつつかれ、レイナの方を指さされる。
「あ、あぁ、ごめん。どうしたの、レイナ」
「どうしたの、じゃないわ。私はエクスに好きって………だから、その……エ、エクス……は……?」
途中から顔を真っ赤にし始めて、最後には振り絞るように声を出していた。こういうところは素直でかわいらしいと思うし、何て言うかすごく……反則だとも思う。
レイナに僕の気持ちを問われ、少し考える。が、彼女の惚れ薬が切れているなら、答えはとうに決まっている。
「……うん。僕も大好きだよ、レイナ。君にはたくさん助けてもらったし、僕たちは仲間だもんね!」
「ちっがーうっ!!!!!!」
僕が答えると、タオ、シェイン、ファムが声をそろえて叫ぶ。それから一気に僕との距離を詰め、早口で言葉を紡ぐ―。
「そーゆーことじゃないんだよ、エクスくん! レイナはもっと違う意味で君のことを好きだって言ったんだよ!」
「そうですよ、新入りさん。せっかく姉御があそこまで言ってるのに意味を取り違えるなんて、どういうことなんですか?」
「あのポンコツなお嬢がまっすぐ伝えようとしてんだぜ? だったらそれを正面から受け止めないと男じゃないだろ!」
―が、三人が同時に喋っているのでよく聞き取れない……。
「むぅぅ……。いいわよ、別に。エクスなんか、エクスなんか………頑固だし、鈍感だし、ちゃんと私の気持ちと向き合ってくれない……男らしくないわ!」
故郷の想区に居た頃、村の子供たちから女顔だとからかわれてきたことを思い出し、少しショックを受ける。
やっぱりレイナも、それに……シンデレラも、そう思っていたんだろうか。
「エクス……? ごめんなさい、本気で思ってるじゃないの。って言っても信じてもらえないかもしれないけど……。あの……怒った?」
「……いや、大丈夫だよ」
それに、言葉や態度に表していないだけでタオやシェインもそう思ってたりするかもしれない。彼らに限って、馬鹿にするなんてことはないと思うけど、それでもやっぱり―。
「おーい、エクスくん? お姫様がオロオロしちゃってるよー?」
「やっぱり怒ってるわよね、エクス……。ごめんなさい、言い過ぎたわ。どうしたら許してもらえる? 私、何でもするわ」
最後の言葉に耳が反応した。
……なんでも、する―? レイナはそんなことを言う意味を分かってるんだろうか。簡単に口にするけど、その言葉の重みを分かってるんだろうか。それを、
「……レイナ。『何でもする』なんて簡単に言わない方がいいよ。僕だって一応、男なんだよ?」
「え? ええ、そんなこと分かって―」
「分かってないよ、レイナは―!」
そこまで言って、ようやく我に返る。視界に入ってくるのは、レイナの怯えたような表情と、タオたちの驚いた顔。
「―っ。ごめん、僕―ちょっと頭冷やしてくる」
「あ、おい! 待てよ、坊主!」
止めようとするタオの声を背中に、僕は森の中を脇道に走っていった……。
__坊主がオレたちから逃げるように走り去ってから少しして。
「ど、どうしましょう! エクスさま、すごく怒ってましたよね⁉」
坊主がいなくなったことでお嬢の喋り方は薬インの状態に戻っちまった。このお嬢だと、なんか調子が狂うんだよなぁ…。
「まぁまぁレイナ、落ち着いて。深呼吸、深呼吸~」
「そうですよ。焦ってたって何も始まりません。けど……」
「……坊主の反応は、やっぱ気になるよなぁ」
『男らしくない』と言われただけであんなにショックを受けることはないんじゃないか―? と、そんな考えが脳内をよぎる。
「……いえ、私、エクスさまに聞いたことがあるんです。前に、
お嬢から聞いた話で、変に納得した。確かに、好きなヤツから同性みたいだと言われたら、キツいものがあるんだろう。
「けど、エクスさまの最後の言葉の意味が分からなくて……」
「あー、僕だって男の子だよーってやつ?」
ファムの問いかけにお嬢がこくんと頷く。
「そうですね……。アレはどういう意味だったんでしょうか」
「何でもするなんて言うなって……何なんでしょう?」
純粋すぎる二人を前に、オレとファムは顔を見合わせる。シェインはともかく、お嬢は知ってると思ってたけど……ま、ポンコツだしな。
「んー、それについてはタオくんが説明してくれるってー」
「はぁああ⁉ おい、ふざけんなよファム!」
「タオ兄、いいから説明してください! ほら早く!」
目をキラキラさせてオレの話を聞こうとする二人から視線を逸らし、お嬢に向けて呟く。
「そ、それより坊主のとこに行ってみたらどうだ? 坊主ならすぐに笑って許してくれるって」
「……はいっ。私、行ってきます!」
苦し紛れの策だったが、意外にもお嬢の反応は良かった。
後は頑張れよ、お嬢―。ま、こっそり覗きに行くんだけどな!
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