第2話
「エクスさま! 見てください、あそこ! 綺麗な花が咲いてますよ!」
「……だってよ、エクスくん? 行ってあげたら?」
「ファム……。この状況、おもしろがってるよね」
「あ、バレたー?」
「ファムさんだけじゃありませんよ、新入りさん。シェインもタオ兄も楽しんでます。こんな姉御を見られるのは、そうそうありませんからね」
「だな。普段のポンコツなお嬢とはまた違ったおもしろさがあるな!」
「エクスさま! ほら、あっちにも何だかヘンテコな実が!」
ファムやシェイン、タオにからかうように言われる僕の腕をレイナがぐいぐいと引っ張る。いつもの背伸びした感じの『調律の巫女』とは違い、無邪気な『ふつうの女の子』のようなレイナ。こうしていると少し、シンデレラといたときを思い出す。
「はいはい……。ところでレイナ、その喋り方、疲れない?」
「この喋り方、ですか? でも、いまの私はこちらの方が自然かと……」
「そっか、ならいいんだ」
不思議そうに答えるレイナの口調は、やっぱりいつもとは違っていて。調子が狂うっていうか、知らない人を相手にしているみたいで、なんとなく落ち着かない。
「どうした、坊主。お嬢があんな調子だと落ち着かねーか」
「タオ……。まあ、ね。いつものレイナとは違うから、ちょっと調子が狂う、かな」
「わからなくもないな。いつものポンコツ臭がしねーからな、今のお嬢は」
「ポンコツって……」
タオと話していると、シェインがレイナに何か耳打ちしているのが視界に入ってきた。きっとろくでもないことを吹き込んでいるんだろうけど、その内容までは分からない。
「―やってみればわかると思いますよ、姉御。大丈夫です、絶対うまくいきます」
「わかりました、それでいいなら、やってみます」
シェインが僕の視線に気づき、にやりと笑う。レイナはシェインに向かってこくんと頷くと、こっちに向き直って僕の位置まで近寄ってきた。
今度は何を言うんだろうか。正直なところ、今のレイナの口調には助かってる。いつものレイナと違うから、彼女の今の状態が異常であると再認識して何とか衝動を抑え込むことができるから。
「エクス、好きよ」
「――え?」
真面目な顔で何を言うかと思えば、何だ、『好き』か……ん?『好き』⁉
「レレレレ、レイナっ⁉ いきなり何を言うの⁉」
少し遅れてこの状況を認識した僕の頭は混乱状態。とっさに対応できるわけもなく、軽くパニックに陥る。そのせいで、レイナの口調が元に戻っていることにも気づけないでいた。
「だから、好きって言ってるの。意味がわからないわけでもないでしょう?」
「いや、意味がわからないよっ⁉ レイナは惚れ薬のせいでそうなってるって、昨日も話したよね⁉」
「そんな薬なら、もう切れてるわ」
「え……?」
__少し前。
「……姉御。今の状態で迫っても、エクスさんは『薬のせいだから』と本気にしませんよ」
シェインは、この状況をもっとおもしろくするべく、姉御に耳打ちをしました。思った通り、姉御はすぐに食いついてきて、シェインの話に耳を傾けようとしてくれました。なので手筈通り、タオ兄に目配せし、新入りさんを引き付けておいてもらいます。
「シェインたちの見る限り、新入りさんは姉御に迫られてまんざらでもない様子です。でも、さっきも言ったように『薬のせいだから』と本気で取り合ってないんです」
「ふむふむ……」
「そこでシェインたちは考えたわけです。惚れ薬のせいで取り合ってもらえないのなら、それが切れたことにすればいい、と」
「惚れ薬が、切れたことに―?」
「はい。とりあえずは、言動に注意してみてはいかがでしょう。そうすれば新入りさんも取り合ってくれるようになるのでは―」
と、そこまで話して、新入りさんがこっちを見ているのに気づきました。タオ兄、もう少しちゃんと引き付けておいて欲しかったですが……まあ仕方ありません。
「―やってみればわかると思いますよ、姉御。大丈夫です、絶対うまくいきます」
「わかりました、それでいいなら、やってみます」
こうして、シェインとタオ兄、そしてファムさんで結託し、姉御と新入りさんの恋路を応援することにしたのです―。
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