第15話 総理補佐官の“和泉っち”もやりたい放題

 「あのさ、『彼女はもともと、午後は休暇を取っているから。ボクは休暇ではなく、出張です。僕の場合は特別職なので、勤務時間がないのですが』って、いいの?」

と広海。彼女が疑問を呈したのは、厚生労働省の大坪寛子審議官との京都の観光地での親密ぶりを週刊文春にスクープされた和泉洋人総理補佐官のコメントだ。

「大坪審議官もさ、『午前中は公務だが、午後は半休を取った』って説明しているけど、出張ってそういうもんなの? 半分仕事で半分観光なら、新幹線代も公私半々にしなきゃおかしくない? あなたの遊びの分も税金ですか? って」

めぐみも週刊誌は読んでいた。

「補佐官との不適切なカンケイについても『男女って……(和泉氏は)だいぶおじいちゃんですよね。いくつだと思う?』って答えたらしいけど、そんなこと聞いてんじゃないのよね。頭いいはずだから、本人も分かっていると思うけどね。18歳のJKが言うなら分かるけど、審議官も52歳でしょ、って話。あなたは独身かも知れないけど、“おじいちゃん”は妻帯者なわけで」

千穂も大坪審議官のコメントを暗記していた。週刊誌は京都以外での二人の仲睦まじい関係を抑えているからか“第一弾”で「不倫」と“決め打ち”していたが、千穂はまだハグやスプーンの共有、手をつないだりの事実だけなので「不適切」に留めて続けた。

「私思うんだけど、大坪さんって和泉さんが官邸の総理補佐官じゃなくて、建設省? 今の国交省の幹部のままだったらハグしたり京都に不適切な出張なんか行ったりしてないと思うの。和泉っちが官邸の総理補佐官の一番にいるから。考え方によっては、総理よりも大きな権限持ってるって言ってもいい“権力者”だからよね。広海、そう思わない?」

「女は計算高いからな」

話を振られた広海より早く、幹太が反応した。ちなみに“和泉っち”という呼び名は千穂のオリジナルだ。正確には出会い系バーのホステスの真似ではあったが。

「千穂の言うことよく分かるわ。そして、カンちゃんの言うことも。私もそういう女かもよ」

「おいおい、マジかよ。オレそういう女、苦手だからさ、頼むよ」

「大宮幹太も、やられっ放しか。先が思いやられるな」

恭一の言葉に店は笑いに包まれた。広海と幹太の二人を除いて。

「“出会い系バー通い”って言われた前田っちよりもひどいわよね、補佐官のやってること」

めぐみは加計学園の獣医学部新設に難色を示して官邸から更迭された前文科事務次官のことを思った。

「前川喜平さんのことな。前田っちは、んー、源氏名だから」

「源氏名じゃないでしょ。バーやクラブのホステスさんじゃないんだから。『貧困の調査』って言ってたじゃない。偽名よ、ギ・メ・イ。水戸の黄門様が印籠出す前は『越後のちりめん問屋の隠居』って言ってたみたいに」

「あれ? オレの観たシリーズでは『旅の隠居』だったけどな」

「そっちはちょっと分からないけど…」

幹太と広海もテレビの時代劇「水戸黄門」は知っていた。

「補佐官から『医学用語が分からないから一緒についてきて通訳してくれないか言われた』んじゃないの」

「そんなのメモでいいじゃん。名目だよ名目。一緒に出張行くための。で、役所でも多分二人の仲は“公認”っていうかバレバレで、“ご同伴”の出張もいわば“忖度”の域だったりしてたんじゃないの? ってオレは思う。山中教授への説明の補佐より、審議官とタダ旅行したかっただけのエロ親父だよ。そしてケチ親父。頭の中は、うちの親父と一緒だよ」

と幹太。

「カンちゃんのお父さんが“エロ親父”かどうかは分からないけど、和泉さんに下心ありありなのは確かよね。まあ、旅行の前からそういう仲なんだから、大坪審議官もそのつもりだったんだろうけどさ」

こういう話題に興味津々の女子トークに悠子も参加してきた。

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