第14話 公文書隠しとエアフォース・ワン
「公文書、行政文書のありかた」についても政府は妙なことを言い出した。職員が触れることのできないコンピューター内のバックアップデータは公文書でないという。まったく同一内容のデータなのに。データの保存先が省庁の中か外かなんて関係ない。そもそも、バックアップというのは、元の情報が失われるリスクを回避するために保存されるものだろ。元の情報が保存されている間は厳密には「ホンモノ」でない“コピー”として扱うとしても、何らかの理由で元情報が失われた瞬間に「ホンモノ」扱いをしなければ本来、バックアップする意味がない。特に今の政府は平気でルールを捻じ曲げてしまう。ったく、そんな屁理屈言うために官僚になったんじゃないだろうにな。君たちみたいに、サンドウッチマンの富澤になった気分だよ」
と横須賀。
「確かに『ちょっと何言ってるか分からない』ですね。ところで先生、映画『エアフォース・ワン』観たことあります? ハリソン・フォード主演の…」
千穂の言葉に『何で映画の話? チーちゃんったら、何が言いたいの?』と広海は思った。
「エアフォース・ワンか。大統領専用機がハイジャックされる話だな。公開当時、映画館でも見たし、BSでも何回か見たな。オレはゲイリー・オールドマンが好きだ」
横須賀が答えた。
「そうそう。『レオン』で薬中毒の警官役だったゲイリー・オールドマンがテロリストを演じているヤツね」
話題を共有できた千穂は満足そうに続けた。
「ネタバレで悪いんですけど、墜落直前の大統領専用機から並んで飛んでいる空軍機が大統領役のハリソン・フォードが救助した瞬間に、パイロットが『こちら、エアフォース・ワン』ってホワイトハウスと交信するじゃないですか」
「大統領が搭乗しているからのエアフォース・ワンだもんな。エアフォース・ワンって名乗ることが、大統領の無事を意味してるわけだな。アメリカらしく、シャレオツだな、って思ったよ」
横須賀もセリフの意味に気づいていた。
「『こちら輸送機ナニナニ。ただいま大統領を救助しました』だと普通ですもんね。スマート、スマート」
めぐみも感心している。
「それと一緒ですね。バックアップ。ただのバックアップが元情報が紛失した、いや削除した瞬間に公文書になるって意味で」
千穂は敢えて紛失と削除を並べて喩えた。
「そういうことだな。ハリウッド映画に比べると、官僚や政治家の屁理屈はシャレオツでもなければスマートでもない。もう少し、学校で習う試験に出る知識より巷に溢れる娯楽映画でも見た方がいいな」
木で鼻をくくるように横須賀。
「映画のセリフだけでなく、表情も勉強した方がいいと思うな、オレは。政治家や官僚のお歴々には。国会の委員会で苦し紛れに答えている表情にはどうにも好感が持てない」
更に恭一が追い打ちをかける。
「表情を読み取られまいとしているみたいだけど、逆効果よね。テレビのバラエティ番組とかに出ている企業コンサルタントにお願いすればいいのに」
最後にダメを押したのは悠子だった。
「でも、そういう人って多くは東大卒じゃないから、プライドが許さないのよ。頭下げることに」
自分の喩えで話題が広がったことに千穂も饒舌になる。
「でも安倍さんも菅さんも東大卒じゃないぜ」
「安倍さんは成蹊、菅さんは法政。安倍さんは父さんの晋太郎さんは東大出身だけどな。総理や官房長官じゃなかったら見向きもしないんだろうな」
幹太も耕作も言いたい放題だ。
「それもこれも、人事を握られているからだよな。総理や長官に頭が上がらないのは」
「分っかり安~。官僚の行動スタイル」
同級生のように会話に入ってきた横須賀に幹太がタメ口で答えた。
「ということで、官僚の論理構成は破綻した。『バックアップ・データが公文書に当たらない』というのは当たらない」
横須賀は総理や官房長官を真似て見せた。
「トマソンですね」
「日本人だったら池山だな。ブンブン丸」
「カンちゃんもマスターも調子に乗り過ぎよ。千穂ちゃんもめぐみちゃんもついてこれないじゃない。せめて勇人や哲人、ギータにしてくれなきゃ。選手が古過ぎて…」
悠子が二人をたしなめた。ちなみにトマソンは元読売ジャイアンツの助っ人外国人。池山は元ヤクルトの遊撃手、池山隆寛だ。ともにバットを振って三振するイメージが強かった。悠子が挙げたのは読売ジャイアンツの坂本勇人、ヤクルト・スワローズの山田哲人、ソフトバンク・ホークスの柳田悠岐だ。
「ダメですよ、悠子さん。坂本も山田もギータも当たるから。せめてバットに当たらない人にしてくれないと…」
幹太はとかく話の腰を折りたがった。
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