君の色

 もし彼女の写真を撮るとしたら彼女にこんなおもちゃみたいなカメラを見せなくてはいけないそう考えると恥ずかしくなりやめてしまおうかと思った。しかし、彼女の気持ちが知りたいその気持ちと比べてしまえばそんな恥ずかしさなんてちっぽけなものだった。

 そうして僕は学校帰り彼女にこう、言った、

「僕もカメラ持ってるんだよ、フィルムカメラ。君の持ってるカメラからしたらおもちゃみたいなものだけどね」

 すると君は目を輝かせて

「カメラ!?すごい!一緒だね!2人で写真取りたいな〜」

 僕はこの時のためにカメラが好きになって今まで写真を撮ってきたんじゃないかそう思えるような笑顔で君は言った。それから僕達は月に2、3度度休日両方に用事がない時に2人で写真を取りに行くようになった。君の撮る写真はどれもが綺麗で繊細で羨ましかった。僕の撮る写真なんかとは比べ物にならなかった。でも僕はそんなことより彼女のことばかり考えていて写真に集中なんて出来なかった。そんなことが半年くらい続き、少しずつ腕がついてきたかなと思うようになった頃でもまだ君の写真だけがなかった。そんな日々が続いていたある日、また彼女と一緒に写真を撮りに行った。その日は母の日で彼女は真っ赤なカーネーションを買いそれを抱えていた。それを見て僕は少し寒かったため赤くなってしまった彼女の耳と指先とその赤いカーネーションがとても綺麗だと思い咄嗟に彼女の写真を撮った。その、フィルムカメラで。「その時はいい写真が撮れた」そんな思いが1番だったが現像し終えた写真が帰ってきた時ふとそのカメラが人の気持ちを移すのだということを思い出した。彼女の気持ち…知りたいような知りたくないような何だか反則をしているみたいで胸が締め付けられた。それでも、僕は彼女の気持ちが知りたい一心で、その写真を、見た。

 彼女の胸には抱きかかえられた真っ赤なカーネーション。そしてそのカーネーションの赤よりは薄い、優しい赤。これは「乙女色」だ。そんな写真の彼女はカメラを向ける僕にあの時写真屋さんで見た写真のような表情で僕を見ていた。僕は、何も考えられず自分が何を思っているかもわからずただただ、目頭が熱くなった。僕は今何思う、何を思っている!わからない…いや、


 僕の手元には人の気持ちを写すカメラがあるじゃないか。


 僕は家の洗面所の鏡の前に立ち、カメラを覗き込みシャッターボタンを、押した。僕はすぐさま現像してもらいに写真屋さんに飛び込み現像を頼んだ。時間がかかるのにも関わらず、店先で待ち続け僕は現像が終わった瞬間に、その写真を受け取った。初めてこのカメラで撮った「僕」の胸のあたりには彼女と同じ、乙女色の靄がかかっていた。

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