第二話『愛しの病んでるラ』

妖精さん:「……なんか続いてる……」


おっさん:「メイン作品の『おっさんのdie冒険』には、個性的なヒロインが多いですよね」


妖精さん:「……そうかな……?」


おっさん:「そんなヒロイン達が突然正気を失ってしまったら、一体どうなるのでしょうか! と思いましてね」


妖精さん:「……知りたい……?」


おっさん:「気にはなりますね」


妖精さん:「……そっか……」


おっさん:「そう言えば昔の話になりますが……作者には狂った可愛い女の子に、痛みも無く殺されたい欲があったそうですよ」


妖精さん:「……ふーん、そっか……」


おっさん:「話を戻しますが……一度だけでも良いので、私も皆さんにもみくちゃにされてみたいですね!」


妖精さん:「……じゃあ、しのうか……」


おっさん:「えっ?」



 暗転。




 ◇――ヤンデルラは誰だ――◇


 目が覚めると……よくある廃校の教室の中。部屋の中央には蝋燭が二つ、淡い輝きを灯して佇んでおりました。

 辺りを見回したおっさんは……本編に登場してくるナイスガイ、ポロロッカさんを発見。ポロロッカさんは辺りを見渡し、少しだけ混乱している模様。


「……オッサン……! 嫌な予感しかしないんだが、此処は何処だ!!」


「よくある廃校ですね」


「よくあってたまるか……!! こんな場所に居られるか! 俺はここを出るぞ……!」


 テーブルの上に置いてある蝋燭を一つだけ手に取り、教室の扉を開けたポロロッカさん。教室の外に立っていたのは――。


「あらポロロッカ、奇遇ねぇ~」


「……おいバカ、スティレットを俺の方に向けるな……!」


「ポロロッカが悪いのよぉ? わたし、こんなにポロロッカの事が好きになっちゃって……」


 妖しく頬を紅潮されているリュリュさん。

 これは、危険な紅潮……では無く、兆候です。


「……リュリュ?」


「今まで我慢してたんだけどぉ、なんかもう抑えられなくてぇ……好きな人の全部を知りたくなっちゃったわぁ~。適当な人を開いてみたけれどダメ、心臓はちゃんと五個取り付けてあげるわ。だから……――お腹の中も――見 せ て !」


「――あああああああああああああああああああああああああああ――――ッッ!?!? 俺は……逃げる!!」


 リュリュさんを押しのけて、廃校の何処かへと走り去っていったポロロッカさん。


「きゃっ! うふっ、鬼ごっこねポロロッカぁ~。大丈夫よぉ、ちゃあんと心臓を五個に増やしてあげるからぁ~」


 ポロロッカさんを追いかけて闇の中へと消えて行ったリュリュさん。お二人はいつも通りで羨ましい限りです。

 おっさんも部屋に置かれていた蝋燭を手に取り、教室から外に出ました。するとそこに立っていたのは――。


「うふふ、勇者様? 勇者様が昨日、知らない女の子と話した言葉数は258。トイレに行った回数が14回。どちらも少し多いと思うのだけれど……大丈夫なのかしらっ!」


 ――ッ! ――ナターリア!?!?


「えと、突っ込みどころは満載なのですが、その両手に持っている血濡れのククリナイフは何ですか……?」


「まぁ! 勇者様がプレゼントしてくれた物なのだけれど、忘れちゃったのかしらっ!」


 眼帯に覆われていない白銀の瞳が、暗闇の中で妖しく光ります。


「い、いえ、そういう訳では――」


「でも大丈夫よ勇者様、勇者様といっぱいお話したあの子も、今は綺麗なお花なのっ! ……ねえ、勇者様?」


「お、落ち着いてください……」


「わたしは十分落ちついているわ。……ねえ、知っているのかしら勇者様は」


「な、なにを……」


「ここの教室の扉ってスライド扉でね、横に開くのよっ!」


 ――ヤバイ。


 死んだ曾おばあちゃんが言っていました。唐突に扉の話を始める女の子だけは、どんなに美人でも諦めない――と。


「恋する女の子がね、好きな人の全部が欲しくなるのは当たり前の事。わたしは勇者様の腕が欲しい、足が欲しい。胸が欲しいお腹が欲しい腰が欲しい――耳が欲しい鼻が欲しい目が欲しい舌が欲しい――全部――!! ぜーーーッッんぶっ! 大切に保管したあげたいのッ!!」


 おっさん、足が震えてたまりません。失禁していないのが不思議な程です。


「ああ違うの……!!」


「しょ、正気に戻りましたか……?」


「勇者様が悪い事をして罰を受けているんじゃあないの、私が良い事をしてご褒美を貰っているんだわっ! 雨の降る朝に千切れ腕、雪の降る夜には目玉干し。星の綺麗な夜に見る勇者様の流れ足は……きっと、素敵なものであるに違いないわっ!!」


 …………?


 ナターリアは一体、何を言っているのでしょうか。同じ星の言葉だとは到底思えません。

 一言一句逃す事無く聞いていた筈だというのに、一言一句たりとも理解する事が出来ませんでした。


「大丈夫よ勇者様っ! 内臓の一片まで、愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して――ッッ!! 愛し尽くしてあげるわっ!!」


 ――ヤバイ。


 本編とは比較にならない程にヤバイです。

 どうしてこうなってしまったのでしょうか、おっさん、走って逃げ出しました。


「うふふふふふふふふふふふふっ! どうして逃げるのかしらっ! でも大丈夫、少しだけ待ってあげるわっ! わたしは勇者様の事を待てるレディーなんだものっ!」



 走る事しばらく……走れ疲れたので適当な教室の中へと転がり込みます。

 無限に続いているのではないか、と思える程に広い校舎に、鳥肌が止まりません。

 おっさんが逃げ込んだ部屋は保健室だったらしく、人体模型やらベッドやらが置かれておりました。おっさんは適当なベッドへと腰を下ろします。


「オッサン、大丈夫ですか?」


「――ッ!?」


 声を掛けてきたのは、片手に水を持っているエルティーナさん。シスター服に身を包んでおり、完全な正装です。


「お水……助かります」


「いえ、大丈夫ですよオッサン。好きなだけ休んでいって下さい……と言っても、制限時間が存在しています」


 悲しそうな顔で水を手渡してきて下さったエルティーナさん。


「エルティーナさんは普通……なんですか……? 水に毒とかは……」


「入っていません」


「えと……大丈夫なんですか? 今回の趣旨として……」


「ええ。本当は血濡れメイスを持って登場する予定だったのですが、勢いだけで執筆しているナターリアさんの部分で、作者様が気疲れを起こしてしまったらしく……私はインターバル要因との事です」


「……ふぅ……」


「オッサン、あと二人ですよ」


「へっ?」


「元々はトゥルーが情欲して追いかけ回したり、ポロロッカさんが致されている場面に遭遇したりと色々考えていたようなんですが……ナターリアさんパートでかなり満足してしまったとの事です」


「おじさんっ! そろそろ時間だよ!」


「こ、コレットちゃん」


「後半戦、頑張ってね!」


「逝ってきます」



 保健室から出てみると、場所は変わらずの廃校。作者の気疲れも多少は回復し、後半戦のスタートとなりました。

 作者、夢に見ない事を祈るばかり。


「さて……残り二人は一体誰が――」


 ――ドッゴーン!!


 校舎内の壁を数十枚単位で破りながら姿を見せたのは――ッッ!?!?


「はぁ゛……はぁ゛……ンっ……ハグ、してやろうか?」


 案の定――シルヴィアさん。


「まっ、待ってください!」


「私はもう……十分に待ってやった。一週間も我慢したんだ。そのツケを、今スグに清算してもらうぞ――!」


 口の端から、液体窒素以上に危険な液体を地面に垂らしたシルヴィアさん。その顔は、完全に危険な物質をキメ損ねて禁断症状が出ているようなお顔。

 本編でも起こらないと保証できない分、リアルさがあって恐ろしいです。何故、シルヴィアさんの体液は恐ろ汁なのでしょうか。


「はぁ……はぁ……ンンッ――! ふんっ。い……イクぞ……?」


「こ、来ないで下さい! 汁あるキラーのシルヴィアさん――否、シリアルキラーシルヴィアさん!!」


「断る――!!」


 両腕を広げて一直線に突進してきたシルヴィアさん。咄嗟に壁際へと飛んで――回避に成功。

 シルヴィアさんは違う壁へとハグをキメ、壁をグシャグシャに破壊し尽くしました。


 ハグはね……ハグはねシルヴィアさん、もっと優しく、包み込むようにしないと駄目なのですよ。でもね、シルヴィアさん。

 シルヴィアさんだけは――優しくても、ハグをしないで下さい。


 直線状に突っ込む事しか出来なくなっているシルヴィアさんを振りきり、何とか教室の一室に逃げ込む事に成功。部屋の中にはホルマリン漬けのカエルやポロロッカさんが浮いており、リュリユさんがポロロッカさんに愛おしげな目を向けておりました。


「……どうだった……?」


「よ、妖精さん! どうもこうも怖かったですよ!!」


「……そう……」


 褐色ロリータ形体の妖精さんは背後に両手を隠しながら……一歩、近づいてきました。


「何を、隠しているのですか……妖精さん?」


「……さびさび丸……」


「それ、ただの錆びた菜切り包丁ですよね?!?!」


 おっさんは逃げ出そうと体を起こ――――せません。


『ぃたくなぃょ』


『だぃじょぅぶ?』


『でばんもらったよぉ』


『ぅれしぃなぁ』


 おっさんを拘束していた影は――真っ黒な顔の人型たち。妖精さん、こんな助っ人を呼ぶのはインチキです。


「……ゆっくり、さしてあげるね……」


「ちょちょちょ! せめて一思いにグサッと!!」


「……痛くないよ……やさしく、ころしてあげる……」


 妖精さんは優しく微笑んでおり……それは、おっさんが始めて見る慈愛に満ちた表情でした。包丁が体内へと入ってくると同時に、妖精さんの唇が迫って来ます。


 ゆっくりと……本当にゆっくりと、唇と包丁が――――――。






 ◇


「……おわりだって……」


「へっ?」


「勇者様、楽しかったわっ!」


「おい、ハグが出来なかったぞ」


「お疲れ様です、オッサン」


「一体何が……?」


「……さくしゃが、満足したってさ……」


「ぐっ、キスは欲しかったです!」


「……本編でもしてないのに……?」


「欲しかったです!! ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」


「……またチャンスはあるよ……タブンね……」





――――次回はあったり無かったり――――。


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