二次専だったはずのオレの三次愛好論理哲学論考

 これは、ある、”二次元女しか愛せない一生だ”と思っていた、男の話。

 高校一年生の春、オリエンテーション。

 まさかオレがもう二年ってほぼ三次元派になり、そこから三年ぐらい経って、絶対的に二次元派から、三次元派になるとは思わなかったんだ。

 三夜サキュアという、メイドのキャラが好きだったオレ。

 オレの名前は”竿田ケンスケ”。

 こんなこと人前では言わないが、オレはホクロがあまり好みではないと思うんだ。外国では、魅力の象徴のように扱われるらしいが、だからといってオレはそういったものにながされたりはしない。外国ではなくても、ホクロはセクシーだと言うオレと同世代ぐらいの男はいるが。

 ホクロを好めない、オレ。ある意味だから二次元が好きだった。二次元にもいるホクロキャラ、あれはいったいなんなのか。オレには理解ができないんだ。でもいまオレは三次派だ。

 無粋さとは、時にその混沌的なところが性的興奮に繋がるのだとオレは知った。オレは、いわゆるいい女の、実は意外と整っていないクソみたいなところが好きなんだ、ビッチが好きだ、美人の。


 2010年。

 入学式で。ブリーチ金髪は校則で禁止とされているが堂々としてきたワルがいた。かっこいいと思っているのだろう、孤高の高校生主人公だと言いたげなそのドヤ顔。

 オリエンテーションで。ブリーチ金髪ワル野郎は黒染めしてきた。

「このオリエンテーション、なんかノリはオリの中って感じだ。オリだけにさ」日高は言う。

「オレワルだった。オレ、学校行ってなかったんだ」ケンスケは言う。

「なんでさ」富士川という名前の高校デビュー系ちょいワル男は言う。

「三次元の女見るのがつらくなったからだよ」ケンスケは言う。

「それ、ヲタクじゃん」富士川は言う。

 ケンスケは、騙されている。確かに、中学校時代のケンスケの周りの男は、ごく一部がヲタクで不良。でも、それは、ケンスケがあるワルにいじめを受け、引きこもりになった、これを解決するため、ヲタクを理由にワルたちは、ケンスケに再接近してきたのだ。再接近するものの、ヲタクを見下してヲタクぶって再接近なのだ。とても、生粋のヲタクたちはこれを変な話だと思うだろう。

 同じ部屋のクラスメートの六人で、オレたちは語り合った。ワルがオレを含めて四人、もう二人はインドアなヲタク。

「おれは橋下」”ジン”という名前のナンバーワンホストっぽい容姿(身長180センチぐらいでこの六人の中ではもっとも長身。次に背が高いのは175センチぐらいの日高と、ケンスケ。六人の中で唯一メガネをかけている野村は155センチぐらいで、その辺の女子高生と同じぐらいである、登下校時は女子高生の近くを歩いているからその小ささがよくわかる)の橋下は言う。

「おれは富士川」数箇月後の現社の授業で、ある教師からは”ホモウケ良さそう”と言われるが、べつに言うほどかっこいいわけでもない富士川は言う。

「オレは竿田」ケンスケは言う。

「野村」野村は言う。

「長野。家も長野寄り。多分みんなよりも離れてるよ家」長野は言う。

「自分日高」日高は言う。

「野村は三次元は?」橋下は言う。

「いやっ、僕も、二次元」ふたりのうちのひとりであるヲタクの野村が言う。

「好きなキャラは誰」ケンスケは言う。

「しずこちゃん」野村は言う。

「トラえもんの?」橋下は言う。

「そう」野村は言う。

「おまえ上級者すぎるだろ」ケンスケは言う。

「日高くんはどっち派?、次元は?」富士川は言う。

「おれも、二次元」なんか誇らしげに言う日高、容姿はシロクマの擬人化に見える。

「部活動どうだったよ?、おれテニス部で、ラケットはミズノジスト」富士川は言う。

「おれバレー部だった。もう嫌だあんなの。テレビでも見たくないよバレーは」日高は言う。

「オレもラケットミズノジストだったよ」ケンスケは言う。

「前衛?、後衛?」富士川は言う。

「前衛だよ。アヴァンギャルド」ケンスケは言う。

「ていうかみんな内申は?」富士川は言う。

「18」日高は言う。

「うそぉ?、それでここ入ってきたの?」富士川は言う。

「いや、でも熊澤っていうのは、もっと上、オール3以上はあるだとか」日高は言う。

「おれはオール4以上あっても第一希望受からなくてほぼ底辺のここ来たっていうやつ知ってるぞ」富士川は言う。

「普通に偏差値60以上はある大学も入れる人は入れるみたいだからな、この学校でも。ここの高校時代で英検準1級も受かった人いるようだし。オレは英会話塾行ってたが、そこの英語得意な先生も準1級は受かってなかった」ケンスケは言う。

「何か雑誌とか買うの?、二次元派さんたちは?」橋下は言う。

「電撃大魔王様とか」ケンスケは言う。

「知らねー」富士川は言う。

「ていうかさ、おれにも二次元のかわいい子教えてよ」橋下は言う。

「いやいや、オレは三次元派にこっちの女教えるほど軟派じゃねえから」ケンスケは言う。

「なんかいまおもしろいアニメでもやってるの?、深夜とか見ないからおれ」橋下は言う。

「『ズラララ♪』とかさ」ケンスケは言う。

「ああズラララ好きだよ、おれも」日高は言う。

「でもあれって腐女子向けだった気が」野村は言う。

「いいだよ、そんなの。寧ろ名作のほうがそういう傾向あるんだよ、かっこいいよ腐女子向けのが」ケンスケは言う。

 別の部屋から不良の生徒たちが入ってきた。

「この竿田、二次元専門だってよ」富士川が言った。

「うそぉ?! まじでまじで?! どえりゃヲタッキーじゃん!」桑原という名古屋出身の男はそう言う。

「ていうかさ、ハトゥネミキュって、なにさ。そろそろはっきりさせようって思った、教えてよ」オールバックで、ほぼいつもポケットに手を入れているクール気味なワルっぽいがなんか寡黙で真面目そうにも見える、黒と灰の配色のヴィトンの財布を使っている、七木という男は言う。

「あー! ミキュ! ミキュ知ってるよおれ。詳しくは知らないけど。竿田ミキュ好きなの?!」桑原は言う。

「ヴォカロか……。ニエトノノシャナのが好きだ」ケンスケは言う。

「おおおおおおお!? なんだよそれなんか難しい言葉来たあああああ!?」桑原は言う。

「ヴォーカロイドっていうさ、アンドロイドがソフトで喋るんだ。ようは電子機械的なものなんだよ」ケンスケは言う。

「おぉ、おお」ヲタクではないものたちがそう言う。

「ていうかさ、もしさ、どっか、駅前とかで二次元の女いたらどうすんの?、二次元派は?」三次元派の質問者は言う。

「お持ち帰りするよ」ケンスケは言う。

「ハハハハッ」そこにいたみんなで笑った。

 オリエンテーションから数箇月後、ケンスケは登校拒否。富士川と長野と桑原は退学。ケンスケと話相手と言ってもいいワルたちは、百人近くが夏休み前ごろの悪同士の抗争で退学させられる。野村は高一の時からいじめを受けその後野村は、高三からワルになり、あの時あの部屋にいたほとんどのやつの人生は、狂ったものとなっていった。日高は日高であれから勉強をしすぎて結果メガネをかけ、真面目に就活して就職したつもりが、昇格した翌日、取引先が暴力団、と、昨日までは上司から安全な会社だと言われ続けていて騙されていた。やや天然ボケ混じりの日高がいつもの態度で接したのがなめていると思われ取引先ともイザコザ、やっと最近、自分がブラック企業にいることに気づき、鬱でいる、高校生なのに夢中になってカードゲームアニメを見て、学校でもそれを語っていた日々を懐かしく思っている。

 中学校のころ、ヲタクにも、二次元派は病気だと決めつけられていた。その決めつけたのは学年二十位ぐらいでクラスで一位の、眼鏡の男。でも意外とオレの入った学校には、二次元派は多いのだ。

 かわいい男子がいる。でも、オレは、当時は、まだ本気で彼のことをかわいいとは思っていない。そのかわいい男子も二次元派。

 オレは、急に、サキュアのことが好きではなくなった。サナネ派になった。より病んだからこうなったのかもだ。サキュアが好きだったわけとは、きっと、余裕が無いから、メイドのように手伝ってくれる人が欲しい、からだ。と思うケンスケ。

 ZYNが作る、『南方』のキャラのサキュア。南方の同人誌は、エグい内容のが多いから、好んでいなくても遭遇率が高く、オレは何冊もそういうものを見ていた。時間止められて気持ち悪い人外にはらませられるとかさ。南方は、そういうとこだけ見せて紹介すれば、外国人キャラも多くいるから国際問題レヴェルで気持ち悪い作品だ。


 ケンスケが、サナネにハマり、サナネの争奪戦にも参加したくなっていた。このころケンスケは、サナネは二次元の女ではないと受け取って、愛していた。

 ケンスケはゲイになった。サナネが男である場合のが、仲良くやれると思ったというのもその理由の一つだ。ケンスケは、”べつに男とヤっても性欲処理はできるだろ”と思えて、昔からちょっとゲイっぽいところもあった、実質バイセクシュアルなんだろう。

 ケンスケはサナネ争奪戦に参加する気はなくなった。が、サナネ争奪戦はまだまだ続く。続いているのだ、あれだけ狂ってサナネを愛していたケンスケすらも気にすることなく。

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