ブレインズレイディオクラブ

「ラヂオか」オレは問いかけた、キョウコン先生に。

「レディオか」オレは問いかけた、キョウコン先生に。

「レイディオか」オレは問いかけた、キョウコン先生に。

「そういうのはどうでもいいんだ、気分で選べよ。アモスフィアでもさ。言葉なんて統一性を求めるのはパラノイドアンドロイドって言われるぞ、テキトーに済ませて、統一性薄めて、それでこそだろ、わかりいいんだ。いいんだよ、伝わればなんでも。”あなたはデヴィッドさんですか?”、”あなたはデビッドさんですか?”、いまの日本でならどっちでも同じこと言ってるようなものだ、だからいいんだよテキトーでそんなの」そう言ったキョウコン先生。キョウコン先生は、アトモスフィアのことをアモスフィアって言う癖がある。

「”ラヂオ”はちょっと、俗っぽいっていうか。言うなら”レディオ”か”レイディオ”かな」オレは言う。

「そういえば、ブレインズレイディオクラブっていう団体のこと知ってる?、もうあれは一時期しかネット上には公開されていなかったよ、2017は。でも結構のことが載っていた、それは何か、ミニスカート履いた女子高生が自転車乗ってて、風でスカートがめくれて御襁褓履いてたっていう現象と似てないが似ているんだ。その団体は、”レイディオ”って言ってるよな。オレが教えてやったんだけどな。君も死んだようなその右目、メカにしてヘッドをレイディオにしろよ。ザ・セカイ系、って感じにさ。もっと強くなれるぞ、戦闘能力上がってバトルもの展開できるぞ、義眼からレーザーとかさぁ」キョウコン先生はそう言う。

「その団体ってなんなんですか」オレは言う。

「元ワル、いや、今もワルって言うほうがテッカクか。あのな、ワルはワルでもみんな頭がレイディオなんだ、主に幹部の。もうそれは、ワル界では少なくとも敵なしって感じでな、普通じゃ相手にならないなんてのはわかるよな?、構成員数は百人を優に超しているぞ」キョウコン先生が言う。

「そんな人らが普段なにを」オレが言った。

「普通に就職してるぞ。忙しく働いてる。ニートのもいるが」キョウコン先生が言った。

「アーチスト?」オレが言った。

「お手伝い、だとか、部下みたいな感じなのかな。まあ幹部のはそういう気質もあるようだが、アーチストの気質がさ」キョウコン先生がそう言った。

「なにかしてくれるんですか?」オレが言った。

「ああ、なにかおもしろいものつくったって言っていたよ、呼ぶか?」キョウコン先生が言った。

「まあ気になりますけど、ワルは……。面倒にならないといいのですが」オレが言った。

「大丈夫だぞ。案外理解あるさ。べつに暴走族がいっぱいいるとかでもない、ブレインズレイディオクラブっていうあの団体結構わかってるんだ、ワルが暴走族に行くってのが当然と思ってるのはワルをなにかわかってないよ。が、元は学校で一番不良だったとかさ、そういうヤツらだ、犯罪したことあるヤツだらけだぞ、ドエグいって感じで苦手なのいるよそりゃ。まあだからといって暴走族のがエグくなくていいやつだってのとはまた違うよ」キョウコン先生がそう言った。

「幹部の人は気になりますね」オレが言った。

「ICU中退、率いっているのは。ワルがワルと仲の荒れすぎた結果自省し自制心を養っていておとなしい感じになってるワルの向上心を買ってる、ようは計画的にワルが集められているから単なる暴力団とかそういうのとわけが違う。そしてメカなワルだ、世紀末感あるだろ」キョウコン先生が言った。

「そうですね」オレがそう言った。


 オレは、ただの陰鬱な16歳のように見せて、実は友だちにはワルしかいない、中学時代、オレと一緒に警察に捕まった犯罪者はオレの遊び仲間に何人もいたんだ。高校でワルになったようなのには興味がない、むしろオレはそういうのとは交わりたくないんだ、その”交わる”って性的な意味はない。ブレインズレイディオクラブ、それが、友だちだという意味ではない、まだ会ってない、さっきキョウコン先生が呼んだ。オレが会うのはまだ後だ。でもオレは、キョウコン先生と出会って、ワルの、あのダチたちこそが、至高だっては思わないんだ、キョウコン先生のつくり出す世界こそが至高、オレはいまこの段階に来ている、オレはこれを進歩だと思っているんだ。


「東海三県一周の旅、ブレインズレイディオクラブの。それ、やっぱり愛知県にもヤバいって感じのとこ、あってさ、あま市の髑髏塔とかな」キョウコン先生が言う。

「なんなんすかそれ」オレが言った。

「人骨が飾ってあって、壁全体に地獄の絵だ。建築法にも反している、あきらかにガイキチな塔があるんだよ、野生動物的だ。ものすごく低俗な宗教団体の使っていた塔だよ、廃墟だ」ブレインズレイディオクラブの幹部と思われる全身イレズミだらけで筋肉質の青年が言った。

「彼が幹部だ。いいぞ、スウィッチオンしてよ」キョウコン先生が言った。


 急なことだった。オレは、さっきと別の場所にいる。

「あの、これなんなんですか」オレは訊いた。

「言ったらネタバレ。言わないほうが酔いしれる」キョウコン先生の声がした。


 オレたちは今、あきらかに別の世界としか思えない場所にいる。サイケデリックな、不思議な空間、どこか懐かしい。

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