スノーフレークのせい
~ 十二月十九日(水) 天青 ~
スノーフレークの花言葉 清純
昨日の、お姉さんな姿を見て。
一緒にお買い物をしている間もドキドキしてしまい。
素直にそんな感想をもらしたら。
「……今日はなんの真似です?」
「お姉さんなの。あら道久くん、今のお話はノートに取っておいた方がいいの」
お姉さんと言うより、お姉さま風になってしまった
これはいくらなんでも似合いませんし。
「ほら、ちゃんと授業を聞くの、道久くん」
語調のせいで。
いつもの「君」が、ひらがなに聞こえて腹立たしいのです。
軽い色に染めたゆるふわロング髪を、妖艶系の海外女優さんのように片目を覆った感じにセットして。
そこに美しいスノーフレークを挿していて。
ほんとに見違えるようではありますが。
「あら道久くん。そこ、スペルが間違ってるわよ? 仕方のない子ねえ」
「いい加減腹立たしいので廊下に立たせてくださいよ先生」
さっきから無視を決め込んだ。
救世主に助けを求めてみたところ。
随分とめんどくさそうにため息をついて。
ようやく重い腰を上げてくれました。
「藍川。それは何の真似だ」
「昨日道久君が褒めてくれたってママに言ったら、今日は百回お姉さんしてきなさいって勅命を出されたの。今のでやっと五十回目なの」
「そういう下心は感心せん」
「これ、下心なの?」
良くも悪くも清純な穂咲さん。
ほんとに分からずやっていたようで。
先生はうぐっと一言唸ったかと思うと。
「……今日だけだからな」
あえなく尻尾を巻いて逃げて行きました。
やれやれ。
何という役立たず。
俺が落胆のため息をつくと。
「だめよ道久くん。ため息をつくと、幸せが逃げちゃうわよ?」
五十一回目のお姉さんをされました。
下心は無いようですが。
下心の塊からの指示で動いているわけで。
そんな事実を聞いては。
ちょっとだけ嬉しく感じていたお節介が。
心からうっとうしくなったのです。
「さて、今日は先生が優しい感じだからこいつらを出すの」
「やめなさいよ劇団員とか!」
久しぶりですね。
君がドラマのストーリーを俺に教えるために出す役者の皆さん。
ポケットティッシュやハンカチと言った小物の数々に。
ありとあらゆる文房具。
中でも、悪役として黒く塗られたのにカッターで切られて赤く塗られたままの消しゴムさんは俺のお気に入り俳優ではありますが。
「そんな堂々とした内職がありますか。すぐにしまって……、あ」
俺が穂咲の机に手を伸ばしたら。
自分の消しゴムを落としてしまいました。
「やれやれなの、道久くん。あたしが取ってあげるから、さっきのスペル間違いをこれで消しておくの」
そう言いながら渡してきたのは赤黒消しゴム。
こんなので消したら。
ノートが殺人現場です。
「普通の貸してくださいよ」
「わがままね、道久くんは。……はい」
「先っぽぶった切った!」
あわれ、一年半もの間穂咲の筆入れに入っていたベテラン役者さん。
カツラだったことをカミングアウトなのです。
そして勝手に席を立って消しゴムを拾った穂咲に。
さすがに先生は何かを言いたそう。
いえ、いつものように。
大声をあげたのは俺だということで。
こちらにとばっちりを食らわせる気でしょうか。
「秋山。……いや、藍川。…………いや、むむむ」
「それ、悩むことですか? 先生の矜持に従えば済む話でしょう」
そう言いながら、携帯の電源を入れて先生に渡すと。
不慣れな手つきでメッセージを打ち込み始めました。
そして送信音を鳴らした後、突っ返された携帯には。
こんなメッセージ。
『藍川のお母様。私は、藍川の担任です。急なお話に困惑されるでしょうが、授業が終わったとお嬢様より連絡があるまで、立っていなさい』
即、スタンプが届いたのですが。
そうではありませんよ、おばさん。
土下座は、立っているとは言わないのです。
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