枯れ葉のせい
~ 十一月三十日(金) 紅柱石 ~
枯れ葉の花言葉 ロマンチック
昨日、怒らせてしまったので。
かいがいしく気を使えば使う程。
なんだか怪しいと言い出すめんどくさい子、
軽い色に染めたゆるふわロング髪をポニーテールにして。
出がけには寝坊したからとなにも挿していなかったはずなのに。
学校に着いたら三枚ほど、頭に枯れ葉が刺さっていました。
ですが、これが奇跡を生みます。
枯れ葉がいつものお花の代わりという可能性を捨てきれず。
クラスの皆が取ってあげたものかどうか悩んで頭を抱え。
そのまま放課後を迎えると。
もやもやとした表情のまま帰って行きました。
そんな帰り道。
穂咲は、駅とは反対へ歩き出すと。
道端から枯れ葉を一枚拾い上げ。
それをお供に、晴れ間続きの土手を下って行きます。
秋になると、しばしば足を運ぶにゃんこ大橋の下。
お魚がいないと言いながら、川を見つめるポニーテール。
物悲しいセピアカラーの風景画。
なのにロマンチックなメロディーが脳裏に浮かぶのです。
冬を運んで来た鈍色の空を遠くに見つめるその目には。
映るはずはないけれど。
魚ならすぐそばにいるよ。
おくれ毛を押さえる、君の首元に。
ちょっと前までは。
どことなく丸くてぽっちゃりしていたその指が。
季節を過ぎるごとに大人びて。
最近では、握る時にちょっぴり戸惑ってしまう。
そんな白魚が冷たい川に身を浸すと。
慌てて跳ねたものだから。
髪から落ちた枯れ葉が一つ。
水面を揺らして船出する。
その行き先は、冬という季節。
手元に、暖かい毛布と。
隣りに、暖かい笑顔が無いと。
辛い旅路となることでしょう。
「……指に付いた納豆のねばねば洗いに来たのに冷たくて洗えないの」
「台無しです」
しかも、今まで気づかなかったのですか?
お昼食べてから二時間以上経ってるのに?
そう、こいつが納豆定食なんか作るものだから。
この寒いのに、換気のために窓を開けて。
体が冷えきっているのです。
パーカー、暖かいですが。
さすがにこれ一枚では辛くなりました。
そう言えば、朝出がけに。
コートを着て行けと言われたものの。
これでいいと玄関で靴を履いた俺に。
紙吹雪をかけたお調子者。
お隣に駈け込んでいたので。
今日も大セール中でしょうね。
……しかし、やはり無理です。
来週からはコートを着ましょう。
俺がくしゅんとくしゃみをすると。
穂咲もくしゅんと真似をします。
君も寒いのではありませんか。
なのにお魚を探し続けていますけど。
俺はそろそろ限界ですので。
パーカーを脱いで、かぶせてあげました。
「ありがとうなの。そろそろ限界だったの」
「そうですか」
「道久君もくしゃみしてたの」
「枯れ葉花粉アレルギーなのです」
「そうなの。大変なの。……このパーカー、道久君の匂いがするの」
そんな事を言いながら。
ほうと息を吐く女の子。
「なんだか優しい感じなの。ちょっと苦手って人もいるかもだけど、あたしは落ち着く匂いなの」
「恥ずかしいこと言わないでください」
「ご飯が欲しくなるの」
「ですから恥ずか……、おかしくないですか?」
「ネギとからしと、あと、岩のりの佃煮を混ぜたくなる匂いなの」
「納豆なのです!」
パーカーのどこかに付いてたのか!
どうりで午後の間、俺を避けて歩く人が何人かいるなと思っていたのです!
臭いって。
本人はすぐに慣れるから分からないのですよね。
でも、避けられていた原因が分かって良かったのです。
………………ん?
ちょっと待って?
「君、俺の臭いがするって言ってましたよね?」
「大体いつも、こんな匂いなの」
なんだか。
人生を諦めたくなりました。
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