稲妻トリップ 7 十年前


 遠い旅の途中です、と彼らは言った。


 名もなき楽団です、と、初めはそう言っていた。


 こんな海まで、ようこそ。お疲れでしょう、お茶でもどうですかな?


 と、パパが言って、彼らを自宅の工場内へと招いた。それがきっかけだった。


 パパは自称・発明家で、娘の私から見ても、少し変わり者だった。


 工場内では、大きな機械のモーター音。フル回転の換気扇。


 私とパパは、そんな工場の一室で眠った。夜は機械を止めて、波の音を聞きながら寝た。


 でも、工場の奥には、たくさんの時計を飾った部屋があった。


 そこでは全部の針をズラしていたため、いつもカチカチうるさかった。


 パパは、楽器を持たない楽団に、親切すぎた。


 この部屋は、過去と未来を自由に行き来するための研究室なんです、と彼らに教えた。


 妻は、病気で亡くなりました。僕は、過去へ行き、妻を助けるために、タイムマシンを作りたいのです。


「我々は、人類の生まれる前へ、ゆきたいのだ」


 彼らはパパに詰め寄った。


「我々、人間どもは、生まれてはいけない、汚らわしい生き物だった。過去へ行き、現在を変えるのだ。お前の力で」


 それから毎日、パパは夜になっても働いていた。今思えば、強制的に働かされていたのだと思う。


 私は仲良しだった、近所の男の子の家で、寝泊まりすることになった。それはリュウくんの家だった。


 リュウくんのパパは漁師で、いつも海の船の上。リュウくんのママはそのお手伝いで、昼間は家にいなかった。


 私とリュウくんは浅瀬で遊んだ。小魚やカニが動いているのを見たり、キレイな貝がらを採ったりして過ごした。


 その日は、海が荒れていた。


 楽団たち……いや、その宗教団体は、高波に飲まれそうな工場から避難していて、朝から姿を現さなかった。


 パパは時計の部屋で、一人で何かをしていた、と思う。


 私はリュウくんと貝の取り合いになっていた。子供だったから仕方ないと思うけど、それはとってもキレイだったの。


 リュウくんがくれなかったので、私はパパに言いつけてやろうと……? そうだ、慰めてもらおうと思って、一人で工場に帰ったんだ。


 パパの時計の部屋に行くまで、大きな機械のある場所を通る。


 外の嵐の風にも負けず、機械がすごい音を出して動いていた。


 機械から伸びた先端に、雷のように光るものが、キラキラと発生していた。


 私はそれに両手を伸ばした。どうしてだろう。恐怖よりも、好奇心のほうが勝ってしまった。


 熱いよ、パパ。体が痺れて動かないの……。


 パパは、私を抱えて病院へ走る。


 橋を渡ってすぐの街で、向かってきていた彼らに会った。


 そのあとのことを、私はもう覚えていない。


 私はリュウくんの家で育てられ、リュウくんと本当の兄弟のように暮らした。


 大人になった今でも、シェアハウスをするくらい仲がいい。


 テレビから流れる朝のニュースを、私はそのリュウと一緒に、アパートで見ていた。


 彼らが捕まったという知らせを聞きながら、それでも私は、心が晴れなかったのはきっと、パパがどこへ行ったのか、誰も教えてくれないと、すでに知っているからなのだろう。


 それはもう、十年も前に起きたこと……。


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