AM04:00「夢は覚めないで欲しいから。-DAWN-」

「ん……?」

潮騒の音で、目が覚めた。

いつの間にか、寝てしまったらしい。

「んっ、く、ふぁ〜……」

大きく伸びをして、欠伸をする。体から眠気が抜けていき、意識は完全に目覚めた。

隣を見ると、八嶋さんは静かに夜明けを眺めていた。その横顔は穏やかで、見ているこっちもなんだか和んだ。

「綺麗だね、朝日」

「はい……。いつも見ているものとは違って見えてるので、とっても新鮮です。

ーーーーーーあ、おはようございます。富川さん」

穏やかな笑顔とは裏腹に、声は少し弾んでいた。隣にいる彼女と目が合い、お互い少し恥ずかしくなって笑った。

「おはよ、八嶋さん」

「はい。ああ、これはもう大丈夫なので、お返ししますね」

そう言って彼女が羽織っていた上着を差し出してくる。僕はありがとう、と言って受け取った。

それが何を意味するかは言うまでもないだろう。

「……もう、帰ろう。流石に風邪をひくよ」

そう言って立ち上がって僕の服の裾を、彼女は優しくギュッと握っていた。

「……八嶋さん?」

「……ぁ」

ごめんなさい、と言って彼女は手を離した。

僕がどうしたの?と理由を聞くと、彼女はこう答えた。

「……夜が明けたら、夢は終わってしまうんです。楽しかったことも、嬉しかったことも、全てこの夜に置いていってしまうんです」

今日のことも全部、と彼女は消えかかった声で呟いた。

彼女は、楽しいこの時間を終わりにしたくないと言っているんだ。

そこらの人なら、我儘だと聞く耳持たないだろう。

でも、僕は違う。

「……八嶋さん。もう一度、写真を撮ろう」

頭よりも先に、体が動いていた。彼女の手を優しく引いて立ち上がらせる。

「……え?」

「前と同じように。……時間は止まらないでしょ。だから、この写真に収めておくんだよ。いつでも、思い出せるように」

それを聞いた彼女は、どこか泣きそうな笑みを浮かべて、海の方へと歩いて行った。

一歩一歩、力強く。大切にしながら。

「……撮るよ!!」

彼女が位置についたのを確認し、声を張り上げた。


ーーーーーー彼女が横顔を向ける。



あの時は後ろ姿を撮ったのに。


その意味が分からず、ズームインして、僕は息を呑んだ。




彼女の頬を、一筋の雫が伝っていく。

彼女は泣いていたんだ。

「……」

僕はその横顔をはっきりと写すまいとズームアウトして、一呼吸置いてからシャッターを切った。







そして、楽しい夢は終わりを告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る