第47話消える友達


「よしっと、新しい魔法を覚えたぞ!」


僕はレベルアップで上昇したステータスをメニュー画面から確認した。

今がレベル6でHPが37でMPが19か・・・だいぶ強くなったぞ!

ボロン(B)とカーボン(C)の消費MPが5か・・・結構消費するな!

でも、試したいし!


僕は早速新しい魔法を試すことにした。


「ボロン(B)!!!!」


魔法を唱えた瞬間、右手から無色透明な液体が放出された。

液体はすぐ近くにあった、水たまりに吸い込まれていく。

次の瞬間、水たまりがぐつぐつと蒸気をたて沸き始めた。


「おお♪何が出るかな~♪何が出るかな~♪!理科の実験見たいですね♪坊ちゃん?ベェ?」


「・・・・」


そのサイコロ振りたくなるような、ご機嫌ような歌やめろや!

怒ったライオンからパクつかれるだろう!

ま、何がでるか僕も楽しみだけど・・。

辺りに白い霧状の蒸気をまき散らして、なおも沸き立っている水たまりを僕は見つめた。


視界を遮っていた白い霧を、風が吹き飛ばし、水たまりの中から球体上のスライムが現れた。


『スララララ!!!』


「スライム?」


スライムは辺りを見回し、近くに立っていた僕に突撃してきた。


「は?敵なの?うそ?」


一瞬の出来事で僕の体はたじろいだ。

防御する暇もなく、スライムが僕に飛び掛かって来た。


「くっ!?」


目をつむり僕は覚悟を決めた。

・・・・・あれ?何もされてない?

胸の所にぷにょぷにょとした手触りが・・・。

僕はおそるおそる両目を開いた。


『スララララ!!!』


スライムが僕の体にぐりぐりと頬ずりしている。


「きゃわうぃ!!!(可愛いと言っています)」


うわぁ!手触りが気持ちいい。

ずっとぷにょぷにょしていたいな。

味方なんだな、この子。


「あはははは!バフォちゃん!見て見て、ホラ!おっぱい!あはははは!」


「ははは!そうですね♪坊ちゃん!出来るだけ早く死んでください~♪セクハラですよ~♪ベェ!」


ま、いいや。バフォちゃんも毒舌も、今は受け流そう。

それにしても可愛いな、スライム。

でも水色でプルプルして・・・美味しそう!

料理好きだからかな、なんでも一度は食べてみたいっていう欲求が湧くんだよね。

一口だけ、そう一口だけ・・食べれるかな?


「えいっ!」


『ス、スラッ!』(なにすんじゃい、痛いねん!といっています)


僕はスライムの体をちょっとだけちぎって、口に入れた。

咀嚼してみると、見た目と反して無味無臭だった。


「・・ん・・なんかラムネとかの味がしそうな感じだったんだけどな・・・あれ、視界がグルグル・・それに体がフラフラする・・」


ああ、何か最近この感覚ばっかりだな・・。

スライムを食べたすぐ、舌がぴりぴりしてきたし・・ま、間違いないだろうな・・ははは・・。

慣れっこの僕はメニュー画面を確認した。



「はい、毒!って・・毒ばっかじゃねーかっ!食べる僕も悪いけどさ・・・くっそ!リチウム(Li)」


「あははははは!ベェ・・オエッ!」


笑いすぎてむせかえってんじゃねーよ!クソ羊!

ったく・・・僕はメニュー画面から魔法効果を確認した。


「えっと・・ボロン(B)の効果はっと・・水場で唱えると、味方になるスライムを生成!ただし1時間で消滅orモンスターから一定のダメージを受けると消滅か・・。

この子と触れ合える時間は短いんだな・・・」


「坊ちゃん!私と一緒で味方ですよ!ベェ!ベェ!ベェ!」


「・・・」


いやいや、アンタはほとんど敵だよ!

いや敵より厄介な時があるよ!

僕はバフォちゃんの言葉を無言で、右から左に受け流した。


「あ!名前つけてあげようかな・・・この子に!どうしようっかな?ぷるぷるしてるから『ぷるリン』にしようかな・・それとも『ぷる吉』がいいかな・・?」


「いやいや!そこはスラ〇ンとかでしょう?普通?違います?坊ちゃん、ベェ?」


普通じゃないからな僕は。

よし!決めた!


「お前の名前はぷるリンだ!ヨロシクな!後、55分ぐらい・・・うぅう!グスッ!」


『スラッ!!』


「なんで泣いてるんですか?坊ちゃん!バカなんですか?ベェ!?」(また唱えればいいだけなのに・・・)


僕は涙を拭いて思った事を口にした。


「でもさ?それだった・・・ぷるリンをちぎってモンスターの口に投げ込めば・・・毒にできるってことだよね?・・・・アリだな!」


『スララララ!!』(無しだよ!)


「坊ちゃん!ベェ?スライムがなんか言いたそうな顔してますよ?」


とりとめのない事をしている僕の視界の端に、黒い物体が横切ったのが見えた。

咄嗟に僕はソチラに体を向けた。

ぷるリンは僕の胸から地面に着地した。


「じょじ・・G・・じゃなかった。次はゴキブリかよ!ビジュアルの破壊力が凄いな!デカくなると気持ち悪い!頼むから飛ばないでくれよ!」


「坊ちゃん!ベェ!満月の夜とかにゴキブリ飛びますよね!あれ、わたし大好きです♪」


「バフォちゃん!どんな好みだよ!それ!飛ぶゴキブリほど怖いものはないよ!」


僕とバフォちゃんがゴキブリを前に会話をしていると、ぷるリンがゴキブリに突っ込んでいった。

ぷるリンはゴキブリの足にかじりつき、ゴキブリの動きを止めている。

しかし嫌がったゴキブリがお返しに、ぷるリンの体をかじり始めた。

ぷるリンの体は徐々に小さくなっていく。


「ぷ、ぷるリンーーー!!くっそ!舐めやがって!くらえっ!ボロン(B)!!!」


僕はゴキブリ目掛け、ボロン(B)の魔法を唱えた。

次の瞬間右手から、薄茶色の球体が放出された。

ぷるリンのおかげで身動きの取れないゴキブリの体に、ボロン(B)の魔法が直撃した。


「よしっ!直撃・・・・ってあれ?」


魔法が直撃した瞬間、ゴキブリはその場にひっくり返った。

そしてそのまま、絶命して霧散して消え去った。

放出された感情玉が、僕の剣に吸収される。


「い、一撃?」


「効きましたね!魔法効果があってたのかもしれませんね♪ベェ!」


僕はメニュー欄から魔法効果を調べた。


「えっと・・ボロン(B)の敵への効果はっと・・・虫系に大ダメージか!これは使えそうだな!

その分消費MPに気を付けないといけないけど・・MP回復薬はたんまり買い込んでるから大丈夫っ!」


「べ、ベッ!ぼ、坊ちゃん!あれ!!」


バフォちゃんの視線の先を見ると、ぷるリンがその場でうずくまっている。

僕は慌ててぷるリンのそばに駆け寄って、ぷるリンを抱きしめた。


『す、スラ・・』


「ぷ、ぷるリーーーーーーン!!!!!」


「・・・・・」(いやいや、また唱えればいいだけで・・・なにこの茶番劇・・・ベェ?)


僕の両手の中でぷるリンの体が徐々に淡くなっていく。

両目から涙が止まらない・・ぷるリン行くな!やっと友達になれただろ?

MP5を使って・・くっそ!!こんなこっとって・・・!!


『ス・・・・』


「ぷるリーン!!!!!!」


「・・・・」(ボロン(B)唱えるたびに、毎回この茶番劇をするのかな?坊ちゃん?ベェ?楽しみ~♪)


僕の両手からぷるリンの感触が消えた。

僕はその場で両膝を付いて項垂れた。


「ち、ちくしょう!ちくしょう!」


「坊ちゃん!次行きましょうか?」


「え?あ・・うん!そうしよう!」


僕は気を取り直して、その場で立ち上がった。

ちょっぴり悲しいけど・・しょうがない事だからね。

また、ぷるリンに会いたくなったら、水辺でボロン(B)を唱えるとしよう。


「どうしますか?坊ちゃん?冒険続けますか?ベェ?」


「ん、ちょっと疲れたから・・一回城に帰ろうかな」


僕は涙を拭いて城を目指した。

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