第46話アデュー
「ベリリウム(Be)の魔法は剣と盾の効果を上げるか・・ただし10%で毒になる!なんでだよ!
盾に魔法を付与したい時は、空中に向かって唱えればいいみたいんだな。これでまた、戦闘の幅が広がったぞ!どんどん行こう!」
僕は敵を求めてフィールドを歩く。
リアルな波の音と海独特の香りが、僕をさらにゲームに没頭させてくれる。
こうやって何かに集中している時は、日常生活の些細な事が脳みそから消えてくれて心地よい。
あれこれ新たに覚えた魔法の使い道を模索している僕の前にモンスターが現れた。
「また、サワガニかよ!行くぞ!」
目の前には6対のサワガニが蠢いている。
僕は自分の体に向け魔法を唱えた。
「ヘリウム(He)!」
身体の周りに現れた緑の風を、適量吸い込む。
そして剣に向けて、もう一つ魔法を唱えた。
「ベリリウム(Be)!!・・・良かった、毒にならなかった!」
「ちっ!」
何が『ちっ!』だよ!このクソ羊!
冗談なのか本気なのか・・・ああ、まあいいや!
モンスターのカニたちも僕に向かって来てるから!
無視無視!
「やっぱり!そういう事か!」
ヘリウム(He)の魔法で体が持ち上がろうとするが、プレイヤーが地面に踏ん張ると浮かび上がらないみたいだ!
感覚で言うとトランポリンみたいな感じかな。
前回ヘリウム(He)の魔法を使った時に、そんな気がしてたんだよね。
これなら・・地上のモンスターに効果的!
「おらっ!」
僕はサワガニの突進攻撃を、ジャンプしてかわして宙で体を反転させた。
そして攻撃力の高まった剣で、サワガニの殻を背後から切り裂いた。
魔法付与のおかげで、硬い殻に難なく剣が入って行く。
最初苦戦したのが嘘のように、サワガニ達を撃破した。
そして感情玉が放出され、僕の剣に吸い込まれる。
「よっし!これでゲージMAX!サワガニの倒し方も覚えたぞ!」
「やりますね!体の動きが滑らかでしたよ!昔の就職童貞豚ゴミ魔王様から、すると大した進歩ですよ!ベェ!ベェ!ベェ!」
・・・魔王様に向かって尊敬ってもんがないのかよ!このヤギ!
毎回暴言がエスカレートしていくって・・・僕じゃなきゃ・・・ま、いいや。
この子にひとつひとつ反応してたら、切がないもんな。
のこりMP3か・・・回復するか迷う所だな・・・回復薬高いからな・・このゲーム。
思案している僕の目の前にモンスターが現れた。
軍隊アリ(働きアリ)が6匹、こちらに向かってくる。
僕は前回倒した方法を思い出した。
「へへへ!ハイドロゲン(H)!」
右手から放出された、青い球体が、近くの岩のオブジェクトに直撃した。
僕は前回同様アリたちが寄ってくるのを待った。
だが・・・・。
「あ、あれれ?アリたちが逃げていく!クッソ!魔法もったいないだろ!こうなったら!」
僕は魔法を吸収した岩を両手で抱え、アリ達に向けた突撃した。
『軍隊アリ(働きアリ)は混乱して、逃げ惑っている』
そりゃそうだろうな!敵が自ら突っ込んでくるんだから、そして手には爆発する岩・・・くらえ!!
僕はハイドロゲン(H)を吸収した岩をもって、アリ達がいる場所まで接近。
岩の中心部が光だし、徐々に輝きを増し、そして耐え切れなくなった瞬間、爆発した。
「アデユゥウウウウウ!!!!」
『ボン!!』
「ギャァ!」
アリ達は全滅した。
僕は大ダメージを受けた・・・無茶しやがって!!
ま、面白い経験だったな。
「名づけて『旅は道連れ・アデュー殺法』!」
「いやいや!坊ちゃん!違うでしょ!ベェ!メガ●テとかでしょ!そこは?!」
いやいや、やめろよ!バフォちゃん!
大企業には逆らうんじゃいよ!長いモノには巻かれようぜ!
出来る限り媚売って行こうぜ!ガンガン巻かれていこうぜ!
命令されようぜ!
「ふぅ!とりあえず!HP回復っと!もうちょっとで、自爆して死ぬ所だったな・・危ない!危ない!」
「ちっ!」
ちっ!じゃねーよ!
ホント腹立つわコイツ!
「もう、新しい執事雇うかんな!テメェー!」
「いやいや!ごめんなさい!リストラだけは堪忍やで!なんでもしますから・・。
いや、何でもはしませんから・・お願いしますよ!坊ちゃん!ベェ!ベェ!ベェ!また、即死豆腐買って来てあげますから・・?ね?機嫌なおしてくださいよ!」
「火に油じゃねーか!全然ッ!謝る気なしって!いっそ!清清しいな、バフォちゃん!死ねってか!コラ!」
バフォちゃんは涙を流して爆笑している。
鼻からはうっすらと光るものが・・あれはきっと見間違いじゃなかったはずだ・・・。
ああ、ムカつくけど・・面白いっていう変な感情。
新しい執事雇ってもな、信頼関係を構築するのにまた時間が掛かりそう。
その分バフォちゃんは話やすいからな・・僕人見知りさんだからな・・リストラはまたの機会にしよう。
僕は近くにあった大き目の岩に手を添えた。
『warning!!warning!!』
「は?」
音に驚いて僕は顔を上げた。
すると大きめの岩が目の前でイソギンチャクへと変化した。
「岩じゃなかったのかよ!くっそ!MP回復!・・・大きくなるとイソギンチャクも気持ち悪いな!うにょ、うにょしてる!」
「坊ちゃん!気を付けてくださいね!ベェ!イソギンチャクの中には神経毒を持つタイプが存在しています。迂闊に近づくとその毒で動けなくされてしまいます!
さぁ!突撃です!坊ちゃん!一回だけ刺されてみましょう!」
「やかましいわぃ!話の前半と後半の食い違い方、半端ないな!バフォちゃんもう神経毒に脳みそやられてるよ!」
僕はエリアボスから距離をとった。
ってか、一体何体エリアボスいるんだよ!多すぎだろ!
ボスばっかじゃねーか!
「・・・どうやって倒そうかな」
エリアボスのイソギンチャクから距離をとる僕。
しかし敵は待ってはくれなかった。
僕の体に無数の触手が伸びてくる。
「あわわわ!わ!」
右手の剣で必死に触手を切り裂いていく。
しかし数の暴力で、そのまま体に触手が絡みついた。
触手はそのまま僕の体を締め上げていく。
「ぐ、ぐわあああああぁ!!」
「もっと!もっと!締め上げちゃって、イソギンチャク!!ボンレスハムみたいですよ!かっこいい~♪坊ちゃん!ベェエ!」
「や、やかましわぃ!クソがっ!」
僕は身体に巻き付いた触手を切り裂いた。
拘束から逃れ、僕はさらにイソギンチャクから距離をとった。
「あれ・・フラフラする・・毒か!」
もうちょっと慣れっこさんになって来たな、この感覚。
それなら・・。
「ベリリウム(Be)!!それにヘリウム(He)!」
もう毒ってるから、毒になっても怖くないもんな。
剣に魔法を付与して、後は敵が大きいから浮力を使って多角的に攻撃してやる。
「行くぞ!イソギンチャク!」
僕はヘリウム(He)の風を吸い込み、地面を強く踏み出した。
魔法で浮力を得た体は、日常生活では絶対に経験できないような軽さだった。
だめだな・・・このゲームハマっちゃうわ!楽しすぎっ!
厄介な触手を減らす作戦で行こう!
「おりゃ!おりゃ!こっちですよ♪!・・・早くて追いついてこれてないな!よし、追撃だ!」
触手を切り裂くと、イソギンチャクの速度が遅くなった。
きっと触手の再生に時間が掛かるんだと思う。
僕は空中でイソギンチャク目掛け手をかざした。
「リチウム(Li)!!」
電気魔法(小)だけど、海辺の生き物には効果的だろう。
ゲームなんかの設定だと殆どそうだし・・・。
「ギヤァァァ!!!」
「ビンゴ♪」
リチウム(Li)が当たったイソギンチャクはビリビリと痺れている。
・・・そろそろヘリウム(He)も切れそうだし・・・。
僕はイソギンチャクの身体の上部を目指し、ジャンプした。
びゅうびゅうと風切り音が僕の耳に聞こえ、風が体を吹き抜けていく。
「ん、風が気持ちいな!触手に隠れていたコアみたいなものが、痺れてむき出しになったな!きっと、あそこが弱点だ!!・・・くらえ!!!」
僕はむき出しのコア目掛け、剣で突き攻撃を放った。
『カン!』
「なっ?硬っ!」
高い金属音を出して、剣はコアにはじかれた。
体勢を崩されれながらも、僕は地面になんとか着地した。
「・・・今がチャンスなんだけどな!・・・・使うか・・久しぶりに必殺技!!」
イソギンチャクの前に立ち、僕は精神を集中させた。
僕は右手に握りしめている剣を見つめた。
剣の中央に装着されている宝石から、黒いオーラがもくもくと立ち込めている。
感情ゲージに目を移すと、4つの感情が色どり豊かに周り、その背景が黒く輝いている。
僕は光輝く黒い光をプッシュした。
押すと同時に僕の体から、黒いオーラが溢れ始める。
右手で握りしめている剣に意識を移すと、黒いオーラも同調するかのように右手に移動を始めた。
僕は剣を天地に構え、剣に意識を集中させる。
オーラが十分に集まった所で、僕は剣を地面へ振り抜いた。
『必殺!Emotional!burst!!!(感情・爆発)』
イソギンチャク目掛け、巨大な黒い斬撃が飛んでいく。
斬撃は敵の体を包み込むかのように貫いた。
僕はコアが粉砕されるのを確認した。
エリアボスのイソギンチャクはその場で霧散して、感情玉を放出した。
いつもより大き目の感情玉が、僕の剣に吸収された。
「よっしゃ!!やったー!ボス撃破~!!」
ボスを倒して喜ぶ僕にさらに嬉しいガイダンス音が聞こえて来た。
『レベル!UP!!!新しい魔法、ボロン(B)・カーボン(C)覚えました!』
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