第48話棒と栗
「よしっ!体力回復~♪よし冒険に行こう!」
「ちょっと坊ちゃん!付き合って下さいよ!ちょっとデートみたいな感じでねぇ?ベェ?いいでしょ!どうせこの後一生デートする期会なんて訪れないんですから♪」
「五月蠅いよ!普通に誘えよ!いちいち心に響く毒を吐くんじゃないよ!僕は深く傷ついたよ!もっとオブラートに包めよ!ったく!」
僕はベットから起き上がり、身支度をした。
はは、可憐さんとデートしたいな・・・へへへ♪
「?なに鼻の下伸ばしてるんですか?いつもにもまして気持ち悪いですよ?坊ちゃん?ベェ?」
「う、うるさい~!!どこに行くんだよ!バフォちゃん!」
僕はバフォちゃんに尋ねた。
バフォちゃんは嬉しそうに口を開いた。
「ええ、おススメの店があるのでソコに・・・・きっと坊ちゃんも気に入ってくれますよ♪ベェ!」
「・・・・」(不安しかない)
~3分後~
「ここです!ここ!坊ちゃん!すこし歩き疲れたと思いますけど・・・ベェ?」
「・・うん・・・」(クッキング番組みたいな、はしょり方だったな)
僕の目の前に大きな栗?みたいな建物が現れた。
えっと・・・商業地区だったな・・・確か・・・バフォちゃんとしゃべりながら来たから・・・記憶にないって言うね・・・はは。
何を表してるのか分からないけど・・・栗に棒が突き刺さっている。
なんだか胡散臭い、匂いしかしないんだけど・・・だってバフォちゃんのおすすめの店だからな・・・。
「さぁ?店内に入りましょうよ!ベェ?坊ちゃん?ホラ?あの豆腐もココで買ってきたんですよ!」
「・・・」(不安しかない)
僕は一歩店内に足を入れた。
店内は木造で統一されていて、温かみのある雰囲気が漂っている。
広さはコンビニ1件分ぐらいかな・・そこまで大きくない。
中央に店の主人らしき男が座って作業をしている。
「こんにちわ~♪また、来ちゃいました、ベェ!」
「やや、いらしゃいませ!おや?そちらの方は・・初めましてですね!ワタシの名前は棒田栗蔵(ぼったくりぞう)と言います!以後お見知りお気を!」
「・・・・」(不安しかない・・・知り合いたくない・・・)
僕は危険を察知して出来るだけ、息を殺して二人の経緯を見守る事にした。
栗蔵の見た目は身長160cmぐらいで恰幅のよい小太りおじさん。テカテカのオールバック。
服装は黒色の着物を着ていて、オーデコロンの匂いがプンプンしてくる。・・・正直・・臭い!付けすぎだろ!?
でも、突っ込まないようにしよう・・出来るだけ穏便にこの店から出ないと・・ろくなことにならない予感。
店内には小粋なBGMが流れている。
アコースティクギター、メインの演奏で聞いていて癒される。
この店のテーマソングみたいだな。
『でっかい栗の木の下で~あなたとわたし、楽しくあこぎましょう♪』
「・・・・」(ひっでー歌だなっ!もう大体この店の方針が分かったよ!)
僕は項垂れながら、店内を見回していく。
あこぎな店なのに、お客さんがぽつぽつと買い物をしている。
栗蔵がバフォちゃんと話し始めた。
「どうでした?あの『殺人豆腐』は?意中の相手思いは伝わりましたか?あれだと個人差はありますが・・イチコロで・・」
「・・・え?ははは!そ、そうですね!ベェ!ベェ!ベェ!」
「・・・・」(渡された人ここにいるよ!やっぱ殺すき満々じゃねーか!笑って誤魔化せてねーよ!クソ羊!ここから出たら覚えてろよ!)
僕はバフォちゃんをまじまじと見つめた。
バフォちゃんはエア口笛を吹いて誤魔化そうとしている。
栗蔵は訳が分からず笑っている。
「何屋さんなの?ここ?」
「ええ?なんでもございますよ!高級セレクトショップです!・・・たとえば今、大人気『殺人豆腐』です!仕入れが3万円で・・・売価が30万になりますね♪」
「ベェ!安い~♪」
なにが安い~だ!高いよっ!
ぼったくってんじゃねーか!しかも仕入れ値、口に出して言ってるし!
スゲーなこの人!よくそんなで売れるな!
「我が家は代々商売人の家系でして・・亡くなった祖父が今際の際に言い残した『出来るだけボッタくれ!』という言葉を胸に、日々商売に勤しんでいるわけで・・・グスッ!」
「いいお爺さんですね。グスッ・・めっちゃいい話ですね?でしょ?だしょ?坊ちゃん?」
「・・・」(どこに泣く要素があったんだよ!こっちはドン引きだよ!)
僕の目の前に『殺人豆腐』を差し出す、栗蔵。
そして頼んでもいないのに、商品説明を開始した。
「高いよ~!高い~!はい、寄ってらっしゃい!見てらっしゃい!この豆腐そんじょそこらの豆腐です!(キリッ!ドヤッ!)」
「た、タダの豆腐じゃねーか!それになんだよ!高いよって!高いよって!安いよだろ?そこは!?・・あ!・・・つい・・突っ込んじゃった・・・」
栗蔵は僕の顔を見て、したり顔で笑っている。
ムカつくな・・・なにこの敗北感・・・。
栗蔵がパフォーマンスを開始すると、店内に数人いたお客が寄ってくる。
いや・・寄ってくんじゃねーよ!ただの豆腐だって、言ったぞ!こいつ!(栗蔵の事)
「はい、皆さんお集りください!見る目のあるお客さんも、見る目のないお客さんもささ!どうぞ!どうぞ!若い方も、よぼよぼの皺くちゃの人もどうぞ!どうぞ!」
「・・・・」(売る気あんのかよ!思ってる事全部言ってるし・・・どっかのクソ羊見たいだな・・・)
栗蔵のトークはさらに滑らかになっていく。
「はい、ココに取り出したりまするわ!ただの豆腐!ですが・・言い伝えによりますと、この豆腐を意中の相手の頭にぶつけると・・あら不思議?即死します!凄いでしょ!?
・・・でもでも、ほら?信じてないでしょ?皆さん?それじゃ・・・ワタシが実際に頭にぶつけたいと思います!目をかっぽじってよくご覧ください!」
「・・・・」(目かっぽじったら失明するよ!馬鹿野郎!)
僕は栗蔵が死ぬ瞬間を見逃さぬように、目を見開いて注視した。
ってか死んでくれ!頼むよ!全世界の願いだよ!
そして・・・次の瞬間!
「・・・・行きます・・・・!!!はっ!!!!」
勢いある掛け声と共に、栗蔵は頭に豆腐をぶつけた。
そして・・・・・。
「・・・・ふぅ・・・今日は調子が悪いようですね・・・死にませんでした!・・いや・・違うんですよ!・・豆腐の角に頭をぶつける入射角度に問題が・・・ぶつぶつ・・・あはは、本当の事を言うと、ワタシの体は呪われていまして・・・・。
これまで108回頭にこの豆腐をぶつけたのですが・・・死にませんでした・・・・自分でも何度この身体を呪った事か・・・。でもでもでも、耐性の無い人が実際に死ぬシーンがありますので・・・こちらです!ご覧ください!」
栗蔵は頭に豆腐のカスを付けたまま、近くにあったディスプレイの電源を入れた。
「あ、この豆腐は後で美味しく食べますので・・醤油で♪」
頭に豆腐のカスを付けたまま、栗蔵が笑っている。
はいはい、食べ物を粗末にしなアピールはいいから!
スイッチを操作して、動画が始まった。
「え?ば、ばふぉ・・・・もがもが」
動画の中に映っていたのはバフォちゃんだった。
僕がそれを言おうとした瞬間、背後からバフォちゃんに口を押えられた。
くそっ!放せ!クソ羊!・・・く、苦しい!ホントに死んじゃうよ!
・・でもでも、後頭部に胸が当たってるから・・へへ。
他のお客さんはまじまじと、栗蔵の動画を見つめている。
動画の中のバフォちゃんが豆腐を取り出して、頭にぶつけた。
すると、嘘くさい演技でその場に倒れた。
そして動画の中の、白衣姿の栗蔵が、倒れたバフォちゃんのバイタルチェックをしている。
・・・え・?嘘だよね?こんなので騙されないよね?ステマだよ?買っちゃだめだよ?みんな?分かってる?
「か、買った!10個くれ!」
「わ、私にもちょうだい!ひい、ふぅ、みぃ、アイツにも消えて欲しいからな・・・5個ちょうだい!!」
ふぁ?え?
この人たちもサクラなの?
え?どんだけお人よしだよ?
今の動画のどこに信じる要素だったのか、こっちが聞きたいよ!
茶番劇にしても酷かったぞ?!
『殺人豆腐』は飛ぶように売れていく。
そのすぐそばで栗蔵と、バフォちゃんが灰汁(あく)どい顔で笑っている。
そして栗蔵がバフォちゃんに、丸めて輪ゴムで止めた現金を客にばれないように渡している。
「・・・・ボソボソ(いい演技でしたよ!謝礼です)」
「・・・ボソボソ・・・(ベェ!ベェ!旦那!毎度・・・またお願いします!グベェベェベェ!)」
「・・・・」(お前らグルだったのかよ!バッチリ見えてるよ!目かっぽじって見てるよ!)
栗蔵は客に殺人豆腐(ふつうの豆腐)を高額で売りつけていく。
清算を済ませお客が居なくなった事を確認して、僕は栗蔵に話しかけた。
「さ、詐欺だろ!こんなの!心が痛まないのか!」
「はぁ?お兄さん?かぁ~何もわかっちゃいない!本当に見る目がない、その目は節穴ですね!いや~、お目が低い!」
何だよ!お目が低いって!高いだろ!
いちいち、腹立たしいな!どっかの羊みたい・・・あ!だから栗蔵と仲がいいのか!納得!
「お兄さん!お客はワタシのエンターテインメントを見に来てるんですよ?豆腐を買って行ったんじゃありませんよ!
意中の相手が死ぬかも・・という期待をシズル感を購入して行ったんです?分かります?あーはん?」
「・・・」(全然わかんねーよ!ただの詐欺師じゃねーか!・・・早くこの店出よう・・)
店を出ようとした僕のだったが、目をくぎ付けにする商品が目にとまった。
「ぷ、ぷるリン!きゃわうぃ(可愛いと言っています)・・ふぁ?これ欲しい・・・」
僕の目の前に、等身大サイズのぷるリンの人形が現れた。
質感といい表情といい、城に持って帰って枕元に飾りたい!!
「ああ・・。お客さんはそういったものがお好みでしたか。
そちらは仕入れ1万円を、特別プライス10万円のご奉仕特価で販売させていただいております」
「か、買う・・・」
1時間で消えないぷるリン・・・最高!
いや待てよ・・2体買ってオッパイにして楽しむのもアリだな・・グヘヘ!
「お?おーい?お客様?あれ、意識がどっかに小旅行してますね!GWですからね♪」
「ベェ!ベェ!ベェ!発作みたいなもんですから!たまにこの変態坊ちゃんは、こうなるんですよ!」
しばらくして意識を取り戻し、僕はスライムの人形の代金を栗蔵に支払った。
「お客さん!他にもインテリアに最適な絵画などもありますよ!
私がコンセプトを決めて仕入れて来たジャンル・・その名も『お金まきまき上げたアート』と言う新ジャンルのブランドです!」
「こ、コーヒーラテアートみたいに言ってんじゃねーよ!アンタやっぱりクソ野郎だな!」
「?ええ、よく言われます!(キリッ!ドヤッ!)
はぁ・・疲れた・・とりあえず、店を出よう。
「バフォちゃん、行くよ!店出るよ!」
「あ、はい!じゃあまたね♪栗蔵さん!」
「ええ。また、いっしょにあこぎましょう!」
何だよ!あこぎましょう!って!
・・・意味がなんとなく伝わるから怖いよ!この2人!
僕は両胸にスライムを入れて、店をあこぎ・・後にした。
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