第30話オブジェクト


「ねぇ?バフォちゃん?魔王ってさ?魔法とか剣術スキルとか・・・最初から覚えてるんだよね?」


「ええ、そうですよ!でもレベルを上げないとMPが足りないので、どうせ使えませんよ?ベェ!ベェ!ベェ!メニューには表示されていますが、魔法名が黒くなっているでしょ?」


新しい魔法ハイドロゲン(H)を覚えたけど、なんか釈然としない。なにその親切設計?

ほら、他の異世界物語みたいに最初から無敵で無双プレイみたいな・・・そんな設定だと思ってたのに・・。

でも最初からそれだとプレイしていて、すぐ飽きそうだな!苦労して主人公を強くして、クリア!そして強くてニューゲーム、2周目をプレイ!それが一番王道の流れだしな!

ま、しょうがない・・・か。


今のステータスがレベル3 

HP28・・・でダメージを食らって6・・流石に序盤だから、しょぼいな。

MPが6で、さっき覚えたハイドロゲン(H)の使用MPが3って2発しか打てないし・・・早く強くなりたい!


「あ、坊ちゃん!このジョブ・ガチャの世界では魔法は3方向に使用可能な魔法が存在します!まずは自分と味方プレイヤー、敵モンスターと敵プレイヤー!そしてオブジェクトやフィールドに!

1つの魔法でも効果が違う事がありますので、実際に使用して確かめてください!ベェ!ベェ!ベェ!1回使うと魔法の説明画面に効果が表示されますので便利です!」


「ほう・・なるほど!」


ま、習うより慣れろだしな!

どう使うんだろう魔法?ま、適当にやってみるか!

僕は自分に向けて右手をだし、そして魔法を唱えた!


「ハイドロゲン(H)!」


青い粒状の詠唱エフェクトが、僕の周りを包み込む。

あれ?なんだか体が活性化してきたみたい!傷が・・・!


『HPが30回復!』


先ほど座礁クジラの血肉爆発で受けたダメージが、瞬時に回復した!

HPも回復したし、これでまたしばらくモンスターと戦える!

レベルを上げてMPに余裕が出てきたら、ハイドロゲン(H)の他の効果も調べないと!


「坊ちゃん!専門的な魔法使いだと、魔法同士を合成して使う事ができるそうです!他にも高速詠唱とか同時詠唱とか!カルマの街の道場街に専門施設がありますよ!高速詠唱にだと『アナウンサー早口講座』とかですね!生麦生米生卵!言えた!・・老若なんにょ!にゃんにょ!にゃんの!?・・・若者からお年寄りまで!・・・・坊ちゃんも時間がある時にレッツトライですね!ベェ!ベェ!ベェ!」


アナウンサー早口講座って・・絶対違うだろ!それ!

しかも早口言えてないから!老若男女なんか途中であきらめてるだろ!

・・・バフォちゃんの話す事って、どこまでが本気なんだろう?不思議なヤギだな!


「・・・あ、ホントだ!呪文もスキルも名前は表示してあるけど・・・暗くなってるな・・さっき覚えたハイドロゲン(H)は明るくなってるけど」


「そういう事です!でもレベルを上げれば使えますので、安心してください!普通のプレイヤーだったら修行して覚える事になるんですから!魔王特権ですよ?他にも魔王だけの専用技もありますし!ベェ!ベェ!ベェ!」


しばらくバフォちゃんと話した後、僕はまたフィールドを歩き出した。

すると草むらからモンスターがこちらに突っ込んでくる!


「うわぁ!・・・・イキなりぶつかって、痛いな!・・・次はバッタか!」


僕はバッタに向け戦闘態勢をとった。

仮面ライダ●の顔っぽいバッタじゃなくて、三角形の身体をしたバッタか!

小さい頃よく意味もなく捕まえてたな!そして野に返す!キャッチ&リリース!

よし!いつもの様にサイズがデカいけど、ゲームの中だし倒してやるぜ!


「坊ちゃん!正式名称はオンブバッタ(負飛蝗)ですよ!バッタに似た仲間の種類ですから、間違えないでくださいね!ベェ!ベェ!ベェ!」


「あ、ホントだ!頭の上に表示してあるね!」


丁寧な訂正ありがとうございま。

バッタの青臭い香りが僕の鼻に香ってくる。

細部まで無駄にリアルな作り込みだな!

うーん、小さい時は分かりにくいけど・・・大きくなると目と口の場所がハッキリと分かって気持ち悪いな!

さっさと倒そう!


「おんどりゃ!!」


僕の渾身の一撃は当たる直前、オンブバッタの背中から一回り小さいオンブバッタが僕に突進してきた。

死角からの攻撃に、なすすべなく僕の体は吹き飛ばされた。


「ぐっあ!・・・痛った!!2匹いたのか!・・名前通りオンブしてたって訳か!」


「ナイスぶっ飛び~!!坊ちゃん!あ、間違えた!・・・つい!・・・テヘ★ペロ!ベェ!ベェ!ベェ!」



どっちの応援してんだよ!

・・・つい!じゃねーよ!

本心見え見えじゃねーか!隠す気もねーってか!

ああ、やばいやばい・・。冷静になれ・・僕!

敵は身近にいるって、あれホントだな!


「くっそ!ダメージ食らったな!感情ゲージもないし・・・物理攻撃で倒すしかないな!・・・そうだ!魔法!」


僕はオンブバッタに向けて、ハイドロゲンを放った!


「くらえっ!ハイドロゲン!!」


僕向けて真っすぐに跳躍していたオンブバッタの体に、ハイドロゲンの魔法が直撃!

魔法が直撃したオンブバッタの体は、空中で凍結してそのまま地面へと落下した。


「あれ?凍ったぞ?でも・・・チャンス!」


地面に落ちて凍り付いたオンブバッタ目掛け、僕はダッシュした!

右手の剣でオンブバッタに攻撃を放った。

2匹いた大きいサイズのオンブバッタは、切り裂かれその場で霧散した。

しかし、もう一匹のオンブバッタの氷が時間経過によって溶けていく。


「やばい!急げ!・・・おりゃあ!・・・・はぁ!はぁ!はぁ!・・・なんとか間に合ったな!」


2匹のオンブバッタを倒すことが出来た。

放出された感情玉が、僕の剣に吸収される。

メニュー画面から、魔法をタップして僕はハイドロゲンの詳細を確認した。


「えっと・・・敵に冷却魔法(小)か!どうりですぐに溶け始めたわけだ!」


ハイドロゲンのオブジェクト効果欄が「???」と表示されている。

うーん、気になるな!どんな効果なんだろう?


「ねぇ、バフォちゃん!MP回復したいんだけど?どうすんの?」


「はい、坊ちゃん!カスで無職な坊ちゃんは、城に帰って寝てください!そしたらHP・MPが回復しますよ!ベェ!ベェ!ベェ!」


言い方っ!このヤギ執事からは、悪意しか感じないな!

しょうがない帰るとするか!


「坊ちゃん!ダッシュですよ!ダッシュ!走って帰ってください!運動ですよ!ベェ!ベェ!ベェ!」


「・・・うるさいよ!やなこった!」


なんでもかんでも言うとおりにすると思ったら間違いだ!

ゆっくりマイペースで帰る事にしよう。


「・・・・・た野郎・・ぼそ、ぼそ・・」


「は?なんてバフォちゃん?」


僕のズボンのループエンドから、聞き取れない音量で話しかけてくるバフォちゃん。

歩きながら、バフォちゃんの方に耳を向ける。


「ぶ、豚野郎が!こ、この豚野郎が!走れねー豚は、タダの豚だ!走れればランデブーになれたのに!ブヒブヒブー!走ってみろよ豚野郎!


「う、うるさい!クソ羊がっ!」


僕は仕方なく・・・走って城まで帰った。


「チョロいな~!坊ちゃん!ベェ!ベェ!ベェ!」


ストラップのバフォちゃんは、笑っている。


~数分後~


「・・・はぁ、はぁ、はぁ!・・・よしっ!体力回復!また戦うぞ!」


不本意ながら走って移動して、僕は汗だくになった。

ジャージからは汗が水蒸気になって、上空へ登っていく。

行きと帰りに数回モンスターに襲われたが、難なく撃退できた。



「良かったですね!坊ちゃん!坊ちゃんの脂肪が成仏してますよ!ベェ!ベェ!ベェ!身体から湯気が出てて、なんだか強そうですね(笑)」


「・・・」


いつものバフォちゃんの悪態はさて置き。

自分の人生の中でこんなに、身体を動かした事などなかったけど・・・。

戦闘での高揚感も味わえるから、簡単にダイエットできそう。

すこしづつ体を動かすコツみたいなのも、掴んできたような気がする。


「よしっ!もっと強くなるぞ!」


意気込む僕の元に、何かが移動する振動が伝わって来た。

咄嗟に反応してそちらを振り向くと、黒い物体が目に移った。

黒い集団が僕の事を取り囲んだ。


「・・・次は蟻か!数が多いな!・・・それに見るからに攻撃的だし!」


「ええ、坊ちゃん!軍隊アリですからね!危険な敵ですよ!殺されないように頑張ってくださいね!ベェ!ベェ!ベェ!」


どの軍隊アリもペンチの様な顎をカチカチと動かし、威嚇の行動をとっている。

頭の上には「軍隊アリ(働きアリ)」と表示されている。


「・・3・・4・・5・・6!6匹も居るし、急に数が増えたな!」


突然、こちらの事などお構いなしに、正面の軍隊アリが一直線に突撃してきた。

軍隊アリの放つ、噛みつき攻撃を左手の盾で防御した。

しかし次の瞬間、盾をかみついたまま、尻に仕込んでる針で次なる攻撃を放つ軍隊アリ。

針攻撃の衝撃に何とか、耐え忍んだ僕。

しかし他の5匹に囲まれて、体中を噛みつかれた。


「痛ったー!僕は美味しくないぞ!噛むんじゃない!ちっくしょうが!」


突然の攻撃を受けて、僕のHPはどんどん削られていく。

身体を掴む軍隊アリの足から逃れるべく、僕は感情ゲージを発動させた。

その瞬間身体の周りから、青いオーラが放出される。

無理やり身体を動かし、軍隊アリの拘束から逃れる事が出来た。

僕はそのまま、アリたちから距離の離れた場所に着地した。


「・・・くそっ!このままじゃ・・・・何かないのか?・・何か?」


軍隊アリは素早く離れた僕の事を探している。

その時、僕の目にある物が留まった。


「・・・ねぇ?バフォちゃん?あのアリたちの中心にある岩って?もしかして?」


「ええ?フィールドに無数配置されている・オブジェクトですよ?ベェ?ベェ?」


バフォちゃんの言葉を聞き、僕はある事を試してみる事にした。

アリたちの中心にある岩のオブジェクト目掛けて、僕は魔法を唱えた。


「ハイドロゲン(H)!」


青い手のひらサイズの球体が、岩のオブジェクトを目指し放出された。

ハイドロゲンの魔法は、動かない岩に直撃した。


岩『・・・・・』


魔法は岩に直撃したが、何も変化が起きなかった。


「だ、駄目か!」


この状況で、魔法を一発無駄にしてしまった・・・。

6匹の軍隊アリは魔法に気が付き、僕の方を向き直った。

カチカチを口を動かして、僕に威嚇をしてくる。

その時、魔法が直撃した岩のオブジェクトが赤い光を放ち始める。

光は岩の中心部から、徐々に輝きを増し、そして耐え切れなくなった瞬間、爆発した。


『ボン!!』


「ギャァ!」


勢いよく散らばった岩のつぶてが、軍隊アリ達に直撃した。

アリ達の体は岩で、ところどころ損傷している。

軍隊アリたちは激昂して、傷に構わず僕へ突進してくる。


「・・・爆発か・・・!・・・それなら!」


軍隊アリ達からを誘導しながら、僕は新たなオブジェクトの周りをゆっくりと回っていく。

激昂して単調になった攻撃を、盾でいなしながら、僕の周りを6匹の軍隊アリが取り囲んでいる。

カチカチを捕食する仕草で、なおも威嚇をしてくる軍隊アリ達。

逃げ場のなくなった僕は、岩のオブジェクトの上に逃げ延びた。


「ハイドロゲン(H)!」


岩のオブジェクトに、残り1発の魔法を放った。

数秒後、岩は赤い輝きを放ち始めた。

タイミングを見計らい、僕は空中にジャンプした。

軍隊アリ達は爆発寸前の岩のそばから、空中の僕になおも噛みつこうとしている。

オブジェクトの岩は、先ほど同様、溢れんばかりの光を放っている。


『ボン!!』


「ギャァァァァ!!」


地上の軍隊アリ達は、岩の爆発に巻き込まれ断末魔を上げている。

僕は飛んでくる岩と爆風を防ぐために、下に向け盾を構えた。


「・・・僕の勝ちだ!」


盾を構えて安堵する僕に、予想外の爆風が押し寄せて来た。

風の勢いを盾でまともに受け、僕は数メートル吹き飛ばされた。


「ぎょえええ!!」


しばらく、アハハ~♪な走馬灯の様な時間を味わい、僕は地面に叩きつけられた。


「ナイスぶっ飛び~♪今日はいつもよりも飛んでますね♪ベェ!ベェ!ベェ!」


地面に倒れた僕は、晴れ渡る空をまじまじと見つめた。


「・・あいてて・・・でも何とか勝てたな・・・!よしっ!」



『レベル!UP!!!新しい魔法、ヘリウム(He)・ルチウム(Li)覚えました!』


空に手を伸ばし、僕は喜びを噛みしめた。

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