第29話同時と全力

「さぁ、いい加減に尻から離れて、冒険しないとね!バフォちゃん!」


「ええ、そうですね!でも坊ちゃんも、口からよだれ垂らして喜んでましたね!ベェ!ベェ!ベェ!男なんて女の子のビジュアル見るだけで、すぐ興奮しますからね♪チョロいですよね♪」


え?そんな訳ないよ!

僕は可憐さん一筋だし!

・・・そりゃ・・町で可愛い女の子を見ると、すぐ脳内でハネムーンに出かけるけど・・・犯罪じゃないよ!

だってまだ捕まってないもん!僕の妄想は銀河級さ!(意味不明)


「どうかしましたか?坊ちゃん?なんかアホみたいな顔してますよ?ベェ!ベェ!べぇ!ま、いつもの事ですけど!」


「・・・」


僕はバフォちゃんに、いつものようにボロカスに言われながら町の外を目指す。

しばらく歩くとフィールドへと続く門までやって来た。


「・・装備を整えて・・・よし行くぞ!」


僕は経験値を積むため、モンスターを求めフィールドを歩きだした。

今がレベル2か・・・もっと強くなってダンジョンに行きたいな。

でも実際に死ぬゲームだし、焦りは禁物だ。

僕はカルマの街を出て、左手の森エリアにやって来た。


「今日はどんなモンスターが出てくるかな?楽しみだ!」


「あ、坊ちゃん早速モンスターが来ましたぜ!ベェ!ベェ!ベェ!」


バフォちゃんの声を聞き、僕は素早く後ろを振り向いた。

そこにはスーパーで見慣れた形をした、赤いモンスターが立っていた。


「と、トマト?」


僕の目の前に蔦をうならせたトマトのモンスターが現れた。

モンスターだけあって、僕の体と同じぐらいの大きさだ!

しかも同時に3体も・・・でも少しづつ体つきが違う。

頭の上に『慣行栽培』『有機栽培』『自然栽培』と表示されている・・・何が違うんだろう?

今度調べてみよう。


「とりあえず、切り刻んで塩付けて食ってやるぜ!」


僕はカッコつけながら剣と盾を構えた。

そんな僕をバフォちゃんが「何いってんの?お前?」って顔で見つめている。

一瞬固まった僕だったが、気を取り直して三種類のトマトの方を向きなおした。

巨大なトマト達はウネウネと蔦を動かしているが、攻撃してくる気配がない。

僕は右手に握りしめた剣で攻撃を放った。


「おりゃ!」


僕の攻撃を受けて3種類のトマトたちはあっけなく倒された。

最初の方のモンスターだし、そこまで強く設定されてないんだろうな。

トマト達から感情玉が放出され、剣の宝石に吸収された。

メニュー画面の感情メーターが溜まり、火の玉ゲージが一つ点灯した。

これで黄色、赤色、青色、緑色の中から一つ能力を使う事ができる!

どんなモンスターが現れるか分からないからな、火の玉ゲージはストックして行きたい。


「あ、坊ちゃん!感情メーターの説明ですが、話してなかった部分があるので・・ゲージを2つ貯めてください」


「え?あ、うん!わかったよ!バフォちゃん!」


バフォちゃんの言葉を聞き、エンカウントの為また歩き出した。

先ほど倒したトマトの場所に差し掛かった時、蠢くモンスターが僕の前に飛び出した。


「うわ!きもっ!うにょうにょしてる・・・」


僕の前に巨大な幼虫が2匹現れた。

モンスターの頭上に名前が表示されている。

「ヨトウムシ」「オオタバコガ」

幼虫のモンスターは僕を一瞥もせず、トマトの残骸を必死に食べている。


「虫に、無視されてる・・・僕って・・・とりあえず倒す!」


僕は緑糸と茶色の体をした、食事中の幼虫に剣で斬りかかった。


「どりゃ!」


幼虫たちは剣で切り裂かれ、その場でキラキラと光を放ち霧散した。

感情玉が放出され、剣の宝石へと吸い込まれた。


「よしっ!2つゲージ溜まったよ!バフォちゃん!」


「はい!それじゃ適当にモンスターとエンカウントしてください!ベェ!ベェ!ベェ!」


適当にって・・エンカウント確率はなん分の一って、あらかじめ設定してあるから・・。

納得いかなかったが、僕はバフォちゃんに言われる通り適当に辺りを歩いて行く。

その時僕の背後から、ブンブンと羽音が聞こえて来た。

僕は瞬時に後ろを振り向いた・・・この音はまたハエかな?


「・・・・蜂だった!」


僕の目の前に、巨大な蜂のモンスターが1匹現れた。

空中を素早く飛び回りながら、僕との間合いを測っている。

次の瞬間、尻についている針をこちらに向け突撃してくる。


「うわっと!」


『カン!」


左手に構えていた僕の盾に、衝撃と高い金属音が響いていくる。

このゲームで初めてモンスターから攻撃を受け、全身に緊張感が走った。

荒くなる呼吸を整えながら、執拗な針攻撃を盾で防いでいく。


「ね、ねぇ!バフォちゃん!せ、説明まだ?僕、結構必死なんだけど・・」


「ええ、見てわかりますよ!坊ちゃんが無様に防戦してるのも、見飽きた頃だったんで!ベェ!ベェ!ベェ!

素早くて攻撃が当てづらいモンスターですね!2ゲージ同時にプッシュして『同時点火』を発動してください!どれが有効かは、自分で考えてくださいね!」


くそっ!どうすればいいかな?

黄色のデバフおみくじ、赤色のSTR系アップ、青色のスピード系UP、緑色の命中系UP・・。

同時に2つ使ってこの状況を好転させる!よしっ!


「行くぞ!蜂!」


針攻撃を盾で防いだ次の瞬間、僕はすぐさま青と緑を同時に点火した。

僕の周りに青と緑が混ざったオーラが放出される。


「ベェ!ベェ!ベェ!同時に使うと、1つで使う時より能力と効果時間が長くなりますが・・ほんのすこしです!坊ちゃん、急いでくださいね!」


僕はバフォちゃんの言葉にうなずくと、すぐさま飛び回る蜂に向け右足を踏み込んだ!


『ブフォン!!』


「うわぁっ!」


僕の体は蜂を飛び越え、意図した場所より遠くに着地した。

蜂のモンスターは僕のスピードに付いてこれず、戸惑っている。


「な!・・さっきより、早くなってる!調整しないと・・」


今の失敗を活かし、すこしだけ力を抜き右足を踏み込んだ!

しかし踏み込みがズレて、蜂から離れた右側に向かってしまう。

その間にも僕の纏うオーラは、徐々に少なくなっていく。


「くそっ!一か八かだ!」


右側に着地する瞬間、右足で蜂のモンスター目掛け力強く踏み込んだ!

目で蜂を捉えながら、空中の蜂目掛け僕は飛んだ。

ものすごい早やさの中、僕は必死に右手の剣を蜂のモンスター目掛け振り抜いた!


『グギャ!』


着地した瞬間、後方から蜂のモンスターの断末魔が聞こえた。


「・・・はぁ!はぁ!はぁ!・・・なんとか・・間に合った!倒せたよ!バフォちゃん!」


「ええ、なかなかいい動きでしたよ!ベェ!ベェ!ベェ!同時点火は戦況に合わせてプレイヤーが使う事になります!どれがいいかはわかりませんけど!」


僕は素早い蜂のモンスターを倒した。

現実ではありえない、素早い動きを体験して、僕はすこし高揚していた。

切り裂いた剣をまじまじと見つめ、また少しこのゲームの魅力に夢中になっている。


「あと一つ、説明が残っていますので!ゲージを4つ、MAXまで貯めてください!私は寝てますので!ベェ!ベェ!ベェ!」


そう言うと僕のループエンドでバフォちゃんは眠り始めた。


~30分後~


「・・・・ゼェ・・・ゼェ・・・ヒュ・・・・はぁ、はぁ・・・・ゲージMAX・・・ホントきっつ!!!」


前回同様、感情ゲージを使わずにモンスターを倒すのは大変。

でもおかげでモンスターの攻撃パターンもわかって来た。



「・・・・ムニャ・・ムニャ・・・この・・・ウイニ●ミニ野郎が!!・・あれ!坊ちゃん?!ベェ!ベェ!ベェ!あれ、私ったら・・・本当に寝ちゃったみたい!テヘ★ペロ!」


また僕のナニにケチ付けやがって!

誰がウイ●ー坊やだ!?実際の商品名出すんじゃねーよ!

お子さんが大好きなウインナーなんだぞ!僕は小さい頃「おいしい、おいしい」食べてたよ!


「・・ゲージ溜まったよ!クソ羊!」


「あれ?なんで怒ってるんですか?くそ魔おu・・坊ちゃん?・・ま、いっか!それじゃまた、エリアボスに突撃してください!次は海にしましょう!ベェ!ベェ!ベェ!」


僕は言われるがまま、海を目指して歩き出した。

なんか釈然としないけど、まだ初心者だから、今はこのバフォちゃんに従うとしよう。

しばらく、歩くと僕の目の前にフナ虫蠢く、いつもの海が見えてきた。


「到着したよ?バフォちゃん!エリアボスはっと・・エリアボス・・・・」


僕は辺りをキョロキョロしながら、エリアボスを捜索した。

その間もエンカウントが発生しなかった。

たまにRPGであるよね、敵が出てこない時「お?ラッキー!」って思った瞬間出てくるんだよね!


「ほら!出てきた!」


浜辺を歩く僕の目の前に、巨大なモンスターが現れた。


「あれ?でも動いてないよ!あのモンスター?」


「突撃~♪」


バフォちゃんは嬉しそうに、僕に突撃を促した。

あんた僕で楽しんでるだけだろ?・・・しょうがないな!

僕は言われるがまま、巨大なモンスターに突撃した。

モンスターに触れた瞬間、エリアボス専用の戦闘画面にチェンジした。


『warning!!warning!!』


「でっかいクジラだな!レベル2で勝てるのかよ!」


僕の目の前に巨大なクジラのモンスターが現れた。

モンスターはこちらを見つめている。

しかしピクリとも動かない!


「あれ?これって楽勝なんじゃない!ゲージ使わなくても・・・」


エリアボスの頭上には『座礁クジラ』と表示されている。


「坊ちゃん!最後の説明です!4つゲージが貯まると『エモーショナル・バースト』が使えますが、感情ゲージを使った必殺技がもう一つ存在しています!

それが・・・『全力・アタック』です。喜怒哀楽すべてのボタンを同時に解放して、モンスターに攻撃を加える事が出来ます!4つ溜まった状態で、ゲージの中央部分のボタンを押してくださいね!それじゃあ、実際に解放してみましょう!」


「うん!わかった!やって見る!」


バフォちゃんの話を聞き、僕は言われた通りゲージ中央のボタンをプッシュした。

すると次の瞬間、僕の体から巨大でカラフルなオーラが放出される。

そして画面の端の方でデバフおみくじが、自動で発動していく。


「坊ちゃん、オーラの色はカスタマイズできます。あとで好きな色にしてくださいね!それと全力アタック時はデバフおみくじは自動で発動します!ベェ!ベェ!ベェ!全力アタックはすべての能力アップ&効果時間がいつもより、長めになります!ですが早くしないとオーラが無くなって行きますので、急いでくださいね!」


『ダラララ~タラ!!パワーDOWN!!』


よし!モンスターの攻撃力も下がった!

今のうちに攻撃だ!

僕は座礁クジラに全力で攻撃を放った。


「くらえ!おりゃ!うおりゃ!」


全ての能力が上がっている、今が好機!

僕の攻撃を受けても、座礁クジラは動かない!

その間にクジラの分厚い皮が切り裂かれていく。

クジラはなすすべなく、力尽きようとしていた・・・その時!



『ドバーーーーーン!!!!』


力尽きる刹那、クジラの体内から夥しい血肉が放出される。

意気揚々と剣で攻撃を加えていた僕に、容赦なく血肉が襲い掛かる。


「うわぁぁぁ!」



数トンにもなる夥しい血肉に僕は呑み込まれた。

ドロドロとした血肉を必死に掻きわけて、地上に這い出る。

息を切らして僕は、命からがら血肉から逃れる事が出来た。


「・・・はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・やばかった!HPゲージもかなり減ってるし・・・もう少しで死ぬ所だった・・・」


「坊ちゃん!浜辺に打ち上げられているクジラに迂闊に近づいたら危ないですよ!時間経過で爆発する事があるんですよ!専門家が来るまでは近づかないように!わかりましたか!私は知ってましたけど!!ベェ!ベェ!ベェ!」


くそっ!知ってたら教えてくれよ!

危うく死ぬ所だったんだぞ!

デバフおみくじでパワーDOWN引いてなかったら危なかったな!

このゲームで初めて死を感じた僕。次からは、もっと考えて動かないとな・・・。



死にかけてテンパる僕の耳に、嬉しい知らせが届いた。


『レベル!UP!!!新しい魔法をハイドロゲン(H)覚えました!』


「・・・よし!とりあえずこれで、レベル3か・・・新しい魔法も覚えたし・・・やるぞ!」


僕は晴れ渡る空に向け、拳を突き上げた。

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