第23話感情・青


一歩町の外へ出ると、そこには広大なフィールドが広がっている。

右手には海、左手には森へ続く道が、それぞれに分かれている。

目の前には五重塔がそびえている、ここからだと少し距離がありそうだ。


「ね、バフォちゃん?また違ったゲージが表示されたんだけど?なんか火の玉みたいなの?これなに?」


「あ、それは感情メーターですよ。それは敵と戦った時に説明しますので、この辺をぐるぐる歩いてください。エンカウントしますので!」


僕はストラップになったバフォちゃんに言われるがまま、目の前の草原を右左・前後と行ったり来たりしてみた。

RPGをしたことがある人なら分かってもらえそうだけど・・・お金や、経験値を稼ぐ時とかにする行動の一つだね。

僕はキョロキョロと辺りを見ながら、その場を動き回った。

その時!僕の背後に影が現れた。

よっしゃ!初モンスターだろこれ!やってやるぜ!

僕は剣と盾を手にして、素早く背後を向いた。



「は?ミミズ?」


「ですね~♪」


僕の目の前に、人間サイズのミミズが現れた。


『ミミズはこちらに気付いていない!!』


僕の目の前のメニューにそう表示される。

たしかにミミズは近くの落ち葉を夢中で食べている。

そして食べた後は糞をぷりぷりとまき散らしている。

そしてまた食べ始めた・・・出したり、入れたり忙しい奴だな!


「・・・最初はスライムとかでしょ?普通・・・ま、いっか!」


「・・スライムですか?」


僕の問いにバフォちゃんが首をかしげている。

そして一呼吸おいて、何か閃いたようだ。


「あ、あのウニュウニュした奴でしょ?それでしたら、右側の海の方に居ますよ!まずはこいつを倒してから行きましょう」


「う、うん。わかったよ!バフォちゃん!」


気を取り直して、僕は目の前のミミズに背後から切りかかった。

ミミズは抵抗することなく、僕の剣で切り裂かれた。

その時切り裂かれた、ミミズの体がその場で霧散していく。

そして霧散した場所から、カラフルな玉がが放出される。


「え?!」


ミミズの体から出た玉が、僕の剣に吸収された。

よく見ると剣の持ち手部分に、大き目の宝石が取り付けられている。

玉を吸収した宝石は、淡い光を放ち始めた。


「やりましたね、坊ちゃん。ミミズ撃破です。すこしですが、経験値を手に入れたはずです。この調子でレベルアップを目指しましょう!ベェ!べェ!べェ!」


「あの、バフォちゃん?今のカラフルな玉は何?」


僕は剣の宝石を見つめたまま、ストラップのバフォちゃんに尋ねてみた。


「ああ、今のは『感情玉・Emotion ball』と呼ばれているモノです。モンスターに一定のダメージを与えた時や倒した際に放出されます。敵の強さに応じて大きさも大・中・小があります。

そしてプレイヤーが使っているウエポンの中央につけられている宝石に吸収される仕組みです」


「この火の玉みたいなのと関係あるの?」


僕は目の前にあるゲージを見つめながら、バフォちゃんに聞いてみた。


「はい、まさにそれです。感情玉を一定数貯めると、その火の玉が光って行きます。四つ火の玉が回ってるでしょ?今はゲージは黒く暗転してるはずですが」


「うん、そうだね。なんか黒くなった火の玉みたいなのが、4つ回ってるよ?貯めたらどうなるの?」


このジョブ・ガチャの戦闘システムはちゃんと覚えておかないとな。

だけどちょっと変わったシステムで、なかなか面白いじゃん。

僕は初めてゲームをする時の、ちょっとした高揚感を感じていた。

ストラップのバフォちゃんが僕の問いに応える。


「ま、実際に貯めてからにしましょうよ?習うより慣れろですよ?ね、坊ちゃん?」


「わかった!じゃ、海の方に行ってみよう!まずはスライムを倒さないと」


僕はそのまま、右手にある海を目指して歩き出した。

風に乗ってここまで潮の香りが届いてくる。

ゲームとは思えない臨場感、く~早くレベル上げてダンジョンを攻略しに行きたいな!

僕は海の方を目指して歩き始めた、でも相変わらずのジャージ姿。

魔王の鎧は人目を引くから、今は城の物置に封印してる、いつか使おうと思ってる。


「さ、坊ちゃん!海ステージに到着です!」


「砂浜に照り付ける太陽・・遠くを飛ぶ海鳥・・・・岩場の影を蠢くフナ虫・・・間違いないよ!バフォちゃん、海だよ!僕が知ってる海だよ!」


僕の目の前の岩場を、海でよく見かけるフナ虫が走り過ぎていく。

細部までこだわっているのがよくわかる、僕は砂浜のフィールドを行ったり来たりしてエンカウントを待った。

すると僕の上空からモンスターが降って来た。


「な?!」


僕の目の前でモンスターがうにょうにょと動いている。

待ってました・・・初スライム!


「よっしゃ!スライムぶっ倒してやる!」


「ちがいますよ?坊ちゃん!スライムじゃありませんよ!よく見てくださいね、ベェ!ベェ!ベェ!」


僕は首をかしげながら、モンスターを注視した。

よく見るとモンスターの頭の上に『アメーバー』と表示されている。


「・・・ぐぬぬぬ!どうしても変わったモンスターを出現させたいんだな!このゲーム!・・・とりあえず、倒す!」


僕は剣と盾を持ちアメーバーとの距離をつめる。

アメーバーはうにょうにょするだけで、行動パターンが読めない。

僕は意を決してタイミングを見計らい、アメーバーに斬りかかった。


『Bon!!』


アメーバーの体は僕の剣で切り裂かれた。

剣にドロッとした粘液が付着したような感触が伝わってくる。

ミミズを倒した時と同じように、霧散したアメーバーの体から感情玉が放出された。

そのまま僕の持つ剣に吸収され、中央の宝石が先ほどより強く光始める。


「まだまだ感情メーターをMAXにするには、もっと感情玉を貯めないといけませんね、坊ちゃん!この調子でモンスターを倒してください!」


「うん、わかった!レベルも上げないといけないしね」


僕はそのまま砂浜をぐるぐると歩き回る。

ミミズに・・アメーバー・・・次は何だろう・・・。

絶対このゲーム作った人、変人だろうな・・・。

その時僕の目の前の空間から、モンスターが突然飛び出して来た。


「でっか!気持ち悪っ!」


僕の目の前に、巨大なフナ虫が2匹現れた。

フナ虫達は足を動かしている!気持ち悪い!


「うぇ、大きくなるとビジュアルの破壊力が凄いな・・・とりあえず斬りかかってみるか!」


僕は剣と盾を構え、巨大なフナ虫を目掛けて走りだした。

フナ虫に近づいた瞬間、僕は剣を・・・・・って、あれ、追いつけない!

巨大なフナ虫は僕から一定の距離に走って逃げた。


「・・・実際のフナ虫みたいな行動しやがって!まて~!」


僕は重たい体にムチ打って、巨大なフナ虫を捕まえるべく走る。

・・・追いつけない!7キロやせたけど・・・まだ73キロはあるから・・あまり足は速くないし・・。

くっそ、虫のクセにちょこまかと!しかも2匹が連動してるような動きがさらに腹が立つ!虫にまで馬鹿にされるなんて・・。


「・・・しょうがないな。まだ初心者ですからね!坊ちゃんは・・。感情メーターはどうなってますか?1つぐらい溜まってませんか?」


「・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・・え?・・・ちょ、まってね・・・・うん!1つ付いてるよ?どうして?」


僕はくたくたになりながら、バフォちゃんの話を聞いた。


「1つ溜まってるなら、手でカーソルを青色の火の玉に合わせてみてください!坊ちゃん!」


「・・・?青でいいの?よくわかんないけど・・・・えい!」


僕はバフォちゃんが言うとおりに、青色の火の玉をプッシュクリックしてみた。

すると次の瞬間僕の体が、青色のオーラを放出し始めた。


「え?なにこれ?どうするの?バフォちゃん?」


「効果時間は短いですから!とりあえずさっきみたいに、フナ虫を追いかけてください!」


僕はよくわからないまま、フナ虫を目指して右足を踏み込んだ。


「え?」


『フォン!!』


僕の体が一瞬にして逃げ回るフナ虫に追いついた。

フナ虫の逃げる先の僕は回り込んだ!


「おりゃ!!くらえ!!」


僕はそのままのスピードで、フナ虫1を切り裂いた。フナ虫Aでもいいか。


『Bon!!』


フナ虫Aの体は霧散した、僕の勝ちだ。

僕は青いオーラを纏ったまま、フナ虫Bを追いかけた。

先ほどとは違い、フナ虫Bはなすすべなく僕の剣で切り裂かれた。

え?簡単!なにこれ!さっきと全然違う!体の切れが凄い!僕の体じゃないみたいだ!


「すごいよ!今の!青いオーラでズバッ!っと、何今の?」


「青はスピードアップの能力になります。短い間ですが、プレイヤーのスピード・詠唱速度をUPさせる感情です。他のもありますので、実際にプレイしながら覚えていきましょう!」


僕はバフォちゃんの話に頷き、またモンスターを求め砂浜を歩き始めた。

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