第24話感情爆発!


「・・固ったっ!・・ダメだ!」


剣で攻撃を試みるも、甲羅によって弾き返される。

甲羅の中に身を隠した巨大な亀に、僕は手こずっていた。

数回エンカウントしたアメーバーとフナ虫を倒した所で、新しいこのモンスターが現れた。

攻撃を仕掛けて来ない亀だが、剣での攻撃が通らずに困っていた。


「・・・ねぇ、バフォちゃん・・・なんか無いの?さっきみたいな、ズバッと倒すヤツ?・・火の玉は1つ付いてるよ?」


「・・・もうそろそろ教えていいでしょうかね?坊ちゃんが馬鹿みたいに亀に攻撃してるのも見飽きた所でしたし・・・」


・・・何かあるなら、最初から教えろよな。

必死に攻撃してる僕が馬鹿みたいじゃないか・・。

・・ぐぬぬぬ・・・ま・ま・、しょうがないな、まだ初心者だし・・・。


「次は、赤の火の玉にカーソルを合わせて、プッシュしてくださいね。先ほどと同じで効果時間は短いですよ!」


「わかった、やってみるよ!」


僕はカーソルを赤色の火の玉に合わせプッシュクリックした。

すると次の瞬間、僕の体から赤色のオーラが放出される。


「坊ちゃん、それはSTR・DF、マジックバリアなどをUPさせる赤の感情になります。そのまま亀を攻撃してみてください」


バフォちゃんの言葉にうなずき、僕は目の前で甲羅に閉じこもっている亀に、剣を振り下ろした。

赤いオーラを纏った剣は、亀の甲羅をまるで豆腐の様に軽々と切り裂いた。

僕に倒された亀の体は空中に霧散して、その中からまた感情玉が放出され、手に持つ剣の宝石に吸収された。


「す、すごいよ!バフォちゃん!さっきまでの僕が馬鹿みたいに、簡単に亀を倒せたよ!やったー!」


「モンスターの能力や行動に合わせて、プレイヤーが火の玉を選ぶ事が出来れば・・序盤のモンスターを倒すのは比較的簡単にできてますよ!ベェ!ベェ!ベェ!」


剣の宝石は先ほど亀から放出された感情玉を、吸収して淡く光っている。

色ごとに分けられた能力はどれも魅力的な設定だった。

やっぱり戦いはこうでなくちゃね!もっとモンスターと闘いたいな!


「・・他の色は・・・ま、感情ゲージを貯めてからね」


僕はゲージを貯めるために、その場をぐるぐる回ってエンカウントするのを待った。

しばらくすると、アメーバが3体出現してそれを、剣で簡単に倒した。

ゲージの火の玉が1つ点灯した。


「バフォちゃん、1つ付いたよ?次のを教えてよ?」


「わかりました!それじゃあ、また最初に居たエリアに行きましょう!」


僕はバフォちゃんの言葉通りに、もと居たエリアを目指し歩き始めた。

その間もモンスターと数度戦い、快勝する事が出来た。

時間にして数分、僕はもと居たカルマからすぐそばのエリアにやって来た。


「この辺をまたぐるぐるしてください。目的のモンスターがエンカウントするはずです!」


「わかったよ、バフォちゃん!」


慣れてきた僕は満面の笑みで、フィールドを歩いて行く。

正直楽しくなって来たな、モンスターを倒す爽快感が病みつきになりそう。

その時僕の背後から、ブンブンと羽音が聞こえて来た。

僕は瞬時に後ろを振り向いた。


「・・・!・・・ハエか!」


僕の目の前に、家で見慣れたハエが1匹現れた。

ハエは僕の目の前を、颯爽と飛び回っている。

手に届きそうなスピードで、行ったり来たりしている。

これなら簡単に倒せそうだ!僕は剣を手にハエに飛び掛かった。


『ブン?』


剣が当たる寸前の所でハエは僕の攻撃をかわした。

その後数分間僕の攻撃はハエに命中する事はなかった。


「・・・・・肩が痛くなって来た・・・ねぇ、バフォちゃん、次のを教えて?」


「そうですね、頃合いですね。坊ちゃんが空中に馬鹿みたいに剣を振る姿も見飽きてきました!ベェ!ベェ!ベェ!次は緑の火の玉をプッシュしてください」


僕はバフォちゃんにムカつきながらも、言われた通りに、緑の火の玉にカーソルを合わせてプッシュクリックしてみた。

すると先ほど同様に、僕の身体から緑色のオーラが放出される。


「さっきまでと同じです!効果時間は短いので、そのまま攻撃してください!」


「わかった!」


僕はバフォちゃんのアドバイス通りに、攻撃をかわしまくっていたハエに剣を向け飛び掛かった。

先ほどと同じように、剣が当たる瞬間ハエが動き始めた。

しかし、剣の軌道が修正され、あれほど当たらなかったハエに直撃した。

僕に倒されたハエは空中で霧散し、感情玉を放出、宝石への一連の流れで終了した。


「す、すごいよ!バフォちゃん!あんなに苦労したのに・・・一撃って・・・緑は何?」


「はい、緑は命中UPです。主にLレンジの武器を使うプレイヤーに好まれる能力です。オート命中補正と銃の玉・弓やの鏃をリロードする時間も短縮されます。もちろんS・Mレンジのプレイヤーも使えますよ。

今のモンスターみたいに動きが早いタイプに有効なものになります」


僕はまた感情ゲージを貯める為、エンカウントを繰り返した。

ミミズは楽勝、ハエに苦戦しながら、何とかゲージが1つ溜まった。


「ねぇ、バフォちゃん!ゲージ溜まったよ?残りの一つを教えてよ?」


「はい、わかりました!次は左手にある森の入り口付近に目当てのモンスターが居ますので、そこまで移動しましょう!あ、坊ちゃんは魔王ですからワープでお手がるに移動できますから!言うの忘れてました・・・でも有料ですよ!ベェ!ベェ!ベェ!」


なんでも、金、金・・・資本主義バンザーイ!

えっとワープ・・ワープ・・・あ、あった!

・・・・・・え・・・高ッ?・・・え、料金高菜イ?


「・・・え、森に移動するだけで・・3000円もかかるの?高くない?」


「はい、高いですよ?ボッタくりですから!!坊ちゃん、オカネモチでしょう?それぐらいケチケチしないで・・・」


僕はワープする事に躊躇った。

ぼったくり・・・・・・歩こう!

僕は森を目指して歩き出した。

え、近くない・・・もう着いたんですけど?森!


「え、もう付いたね、森?ワープ料金ボッタくりでしょ?どう考えても!」


「はい、ボッタくりですよ?さっきも言ったじゃないですか?ベェ!ベェ!ベェ!耳の鼓膜まで腐ってるんですか?坊ちゃん?」


言いたい放題言いやがって!

僕が戦闘に慣れたら、リストラしてやる・・・・。

森に到着した僕は目当てのモンスターとエンカウントするため、そこら辺をぐるぐる歩き回った。

その時、森の陰から可愛らしいウサギが現れた。


「ウサギか・・・こいつじゃないでしょ?目的のモンスターは?」


「いや、坊ちゃんコイツです!ラッキーうさぎです。次は黄色の火の玉をプッシュしてください!」


こいつ?ちょっと可愛いけど?

何の変哲もないモンスターっぽいけど・・・?

とりあえずバフォちゃんの言う通りにしてみよう。

僕はカーソルを合わせ、黄色の火の玉をプッシュクリックしてみた。

次の瞬間、僕の体から黄色のオーラが放出される。


「?」


僕の目の前に、木で出来た入れ物が現れた。


「・・・なにこれ?バフォちゃん?」


「あ、おみくじです!入れ物の中心にボタンがあるので押してください!」


僕は言われるがまま、木のボタン(おみくじ)を押した。


『ダラララ~タラ!!スピードDOWN!!』


僕の周りに効果音と、音声が流れた。

先ほど現れたラッキーうさぎに目を移すと、移動速度がもの凄く遅くなっている。

まるでハイスピードカメラによるスローモーションの映像のようだ。


「さ、坊ちゃん!今の内です!懲らしめてやりなさい!ベェ!ベェ!ベェ!」


・・・・水戸黄●みたいな、掛け声やめろや!

しかも、その流れだったら、僕・・・家来役じゃないか!このクソヤギ!


「・・・・ちっ!」


釈然としないまま、僕はラッキーうさぎに斬りかかった。

動きが遅くなったラッキーうさぎは、僕の剣で簡単に倒された。

そして霧散して・・・宝石・・吸収・・以下略。


「黄色は何?おみくじ?」


「はい、黄色の能力はゴールド&アイテムドロップ率2倍とデバフ・おみくじになります。他のもいろいろ中身はありますので、実際に引いてみてくださいね!ベェ!ベェ!ベェ!」


今の黄色で4種類の火の玉の説明は終わった。

この能力を駆使して、ダンジョン・50の塔を攻略を目指す事となる。

一風変わったシステムに、僕は魅了されていた。

この調子で戦闘をこなして行こう。


「あ、あの坊ちゃん?まだ、説明が残っていますので、感情ゲージをMAXまで貯めてください!私は坊ちゃんの腰の所で昼寝でもしてますので、溜まったら・・・教し・え・て・ね♪」


絶対ふざけてるよな!?お前!?

くそ・・・おふざけ+ちょっとエロいワード・・・・ぐぬぬぬ!・・・大好きです~!

よっしゃあ、さっさとゲージMAXにしてやる!

どんどん掛かってこいモンスター!!!


~30分後~


「・・・・ゼェ・・・ゼェ・・・ヒュ・・・・はぁ、はぁ・・・・ゲージMAX・・・きっつ!!!」


何とか感情ゲージをMAXまで貯める事に成功した。

赤、青、緑、黄色の火の玉を使わずに、モンスターを倒すのは思っていたより難易度が高かった。

日頃運動不足な僕には、結構な運動量だった。またちょっと痩せたかもしれない。


「・・・・ムニャ・・ムニャ・・・この・・・ポークビッ●が!!あ!坊ちゃん?!ベェ!ベェ!ベェ!あれ、私ったら・・・本当に寝ちゃったみたい!テヘ★ペロ!」


テメーどんな夢見てやがんだ!

このポーク●ッツが!!ってどんなシチュエーションだよ!

・・・・あれ、もしかして・・・僕の着替えをガン見してた時の、感想なんじゃ・・・・。

そ、そうさ、僕のは小さいよ・・・。でも僕の銀河は広いんだ!!!(意味不明)


「それじゃ、最後の説明を!坊ちゃん気付いたかもしれませんが、フィールドを歩いているモンスターが居るでしょう?あれが、その場所のエリアボスと呼ばれるモンスターです。

じゃあ、いっちょ突撃してみましょう!ベェ!ベェ!ベェ!」


「は?僕レベル1だよ?勝てるわけないじゃん?ムリ無理むりムリ無理むり!」


僕は高速で顔を左右に振った。


「・・・ちっ!肝っ玉のち・・・いや玉が小さい・・・いや、棒が・・・ぼ、坊ちゃんなら大丈夫ですよ!ベェ!ベェ!ベェ!」


ベェ!ベェ!ベェ!にこ(営業スマイル)じゃねーよ!

今の前半ひどすぎだろッ!僕じゃなきゃ自殺してるよ!

・・・・良かった打たれ強くて・・・これも可憐さんのおかげだな♪


「・・・しょうがないな・・本当に大丈夫かな・・・クソッ、やってやる!」


僕は近くを徘徊していたモンスターに体当たりをした。


『warning!!warning!!』


画面が暗くなり、僕の目の前に巨大なモンスターが姿を現した。


「・・・でっかい木だな・・・これ・・・レベル1で勝てるのかよ!」


僕は体格差に絶望して、半ば呆然とその場に立ち尽くしていた。

目の前には僕の身長の3倍ほどの巨大な木が現れた。

頭の上に『トレント』と表示されている。ま、森だしね。

あ、これ摘んだな・・・僕。ここで死ぬのか・・・。


「はいはい、あきらめたらそこで・・・ですよ!坊ちゃん!剣をよく見てください!」


「・・・え?」


僕は右手に握りしめている剣に目を移した。

剣の中央に装着されている宝石から、黒いオーラが放出されている。

感情ゲージを見ると、赤・青・緑・黄色が点灯して回転している。

そしてその背後が黒く光り輝いている。


「これがゲージMAX時に使える必殺技になります!さぁ!モンスターにその感情をぶつけてください!プッシュ!プッシュ!坊ちゃん!」


僕は回転する4つの火の玉の背後の、黒い光をプッシュクリックした。

押すと同時に僕の体から、黒いオーラが先ほどの倍以上放出され始めた。

その時僕の頭の中に、男の声が聞こえて来た。


『この世は数多の感情で出来ている・・・さぁ、感情を爆発させろ!!』


言葉を聞き、僕の体があらかじめ知っていたような動きを見せる。

身体に纏っている黒いオーラが、剣に集まり輝き始めた。

巨大な木のモンスターを目掛け、僕はオーラを纏う剣を振り抜き・・そして叫んだ!


『必殺!Emotional!burst!!!(感情・爆発)』


剣から放出された巨大な黒い円状のオーラが、巨大なモンスターの体を粉々に吹き飛ばした!

一瞬の出来事に・・僕はただたた驚いている。

トレントの体の中から巨大な感情玉が放出され、僕の剣に吸収された。


「え?凄すぎ・・・!え、一発!今の巨大なモンスターが・・・・」


僕は自分の手を見つめる。


「どうでしたか?エモーショナル・バーストの威力と爽快感は?坊ちゃん?」


「うん、まだ・・・手が震えてるよ!すごい必殺技だね!」


僕は手の震えを抑えて、今の出来事を思い返していた。


「色で説明しましたが・・・人間の感情には、喜、怒、哀、楽があるでしょう?このゲームではこの感情が色に分けられています。

喜が黄色、怒が赤色、哀が青色、楽が緑色になります。覚えてくださいね、坊ちゃん!」


「うん、わかった!でも、感情ゲージの背景の丸い黒は何なの?意味があるの?」


僕は感情ゲージを確認しながら、バフォちゃんに尋ねた。


「あ、はい。これは属性を表していますよ!ベェ!ベェ!ベェ!坊ちゃんは闇だから、黒色ですね。光属性だと、白色に剣が輝くそうです!」


「へぇ、そうか・・・これは面白いね!爽快感がクセになりそう!」


嬉しがる僕の耳に、嬉しい知らせが届いた。


『レベル!UP!!!』


「やったー!レベルアップ、結構戦わないとレベル上がらないんだね。でもこの調子でもっと強くならなきゃ!」


僕は右手の剣を握りしめ、そしてまた戦いを求めフィールドを歩き始めた。


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