第14話バイト


『ピピピピピピ!ピーーー!!』


目覚まし時計の音を聞き、僕はストップボタンに手を伸ばす。

一瞥もせずに僕は目覚ましを止めた。

昨日母にゲームの中での事を話した事を思い出した。


「まだ母さんはジョブ・ガチャの事詳しく知らないみたいだったな!・・・僕も始めたばかりだし・・・とりあえず、仕事をしてスキルを磨かないと・・」


僕は素早く着替えを済ませ、朝食をとるため1階のキッチンに向かった。

今日も母の作る手料理の匂いが、廊下を歩く僕の鼻に香ってくる。


「おはよう!母さん!・・・今日も美味しそうな物ばかりだ!」


「おはよう、銀河!もう朝食出来てるから、食べましょう!」


僕と母さんは食材に感謝を込めて、朝食を食べ始めた。

ご飯をかきこみ、その後味噌汁を飲みは始める僕。

その時。



「ねぇ、銀河!10憶・・借金があるんでしょう?母さん・・・なんとかしてあげようか?・・・・この家を売れば・・・・何とか・・・払えると思うの?」


僕は味噌汁を豪快に宙に吐き出した。

いやいや、ゲームで家(城)を買ってリアル(現実)の家を売るなんて!

それにこの家10憶もするの?初耳だよ!

母さん・・・ホント父親からいくら巻き上げたんだか!


「だ、大丈夫だよ!母さん!そんな事しなくても、借金は僕は返していくから!」


「そうなの?魔王ってのに無理やりさせられて・・・脅されて・・借金の名義人にされたんじゃないの?大丈夫?」


僕が吐き出した味噌汁を、母は冷静に雑巾で拭きながら尋ねてきた。


「だ、大丈夫だよ!自分で決めた事だから・・・ゲームでたくさんのスキルを身につけて、現実で仕事を見つけれるようになるよ!」


「そう・・母さん、心配で心配で!あなたはもう大人のつもりかもしれないけど、母さんにしたらいつまでも、可愛い子供なんだから!どうしようもない時は、遠慮せずに母さんに相談してちょうだいね?銀河?」



いくつになっても親は子を心配してくれる。

時に嬉しく、時に煩わしく感じてしまう。

僕はもう大人だと自分では思ってるけど、母さんからしたらあぶなかっしいんだろうな。


「今日はジョブ・ガチャの中で仕事をしてみようと思ってる。そして現実でも仕事が決まるよう頑張るよ!」


「そう、頑張ってね!銀河!母さん、応援してるから!」


朝食も食べ終え、僕はいつもの様に食器を洗い戸棚にしまう。


「あ、銀河!母さん今日は病院に行ってくるからね!お昼ちょっと過ぎぐらいまで、かかるかもしれないけど・・・。仕事かんばってね!」


「うん、気を付けてね!母さん」


僕は母さんと言葉を交わし、自分の部屋に向かう。


「あ!」


「?どうしたの?母さん?」


母が腕を抑えている。


「?ちょっとチクッとしただけ、蚊に刺されたみたい!」


「そう?ならいいけど・・・」


母は腕をかきながら、身支度を始めている。

僕は気を取り直し、自分の部屋に向かった。


「魔王か・・・」


昨日、ゲームの中で起きた出来事を思い返した。

今までの人生の中では、ありえない出来事の数々。

僕はワクワクした気持ちを感じつつ、ジョブ・ガチャを起動した。


『ディープ・イン!』



「お帰りなさいませ、いつも銀河様!それではホームよりゲーム開始となります!ジョブ・ガチャをお楽しみください」


まばゆい光の中で、昨日僕を案内してくれた、チュートリアル女の子の声がした。


「ベェ!ベェ!ベェ!坊ちゃま、お帰りなさいませ!」


「う、うん」


眩しい光が消え去り、目の前にバフォちゃんが立っている。

キョロキョロと周りを見回すと、どうやら我が城『カスデ・ムショクナ・モンデ』の中のようだ。


「やぁ、バフォちゃん。おはよう」


「おはようございます、坊ちゃま!今日は何にして遊びますか?」


バフォちゃんのアットホームなお出迎えに、僕はちょっぴり嬉しい気持ちになった。

だけど、何して遊びますか?って卒業してから、今まで十分遊んできましたよ!無職なもんで!

今日は真面目に仕事を探そうと思ってるし。


「いや、バフォちゃん!今日は仕事を探そうと思ってるんだ!」


「え?動画でお金稼ぎましょうよ?楽でしょ?ね、もう一本撮りましょうよ?今、動画サイトは空前のバブルですよ?ビッグウェーブですよ?乗りましょうよ!ね、坊ちゃん!」


メイド姿のバフォちゃんが、一瞬でプロデューサーの衣装に変化した。


「いや・・・ま、また今度ね!ちょっとやってみたい仕事があるんだ!」


「そうですか?なら、また今度ですね」


僕はカ・ム・デの出入口に向かい歩き出した。


「あ、ちょっと待ってください!坊ちゃん!これに着替えてください!」


バフォちゃんの手には黒色のジャージ・上下セットが乗っている。


「え?なに?これに着替えろって事?」


「ええ!そのままの鎧姿だと『おれ魔王!』って宣伝してるのと一緒ですよ。これで変装してください。それとも昨日と同じシチュエーションでまた動画とりますか?」


いやいや、もう勘弁してほしい!

目立つのが苦手な僕としては、昨日の様な大勢に囲まれるのは二度とごめんだ。

でも・・・何と言うか・・またジャージって・・いつも着て来たのと似たデザインだし。


「わ、わかったよ!着ますよ!着ればいいんでしょ!・・・ね、バフォちゃんあっち向いてくんない?」


「いいじゃないですか?そんな貧相なモノ見せられても!私は気にしませんよ?」


いやいや、僕が気にするよ!・・・駄目だこの子!

ネジがぶっ飛んでる!どうして僕の周りの女の子は、ルックスはいいのに性格が残念な子が多いんだろう?

ま、可憐さんは例外だけど。


「・・・・・」


僕はバフォちゃんから見られないように、後ろを向いて鎧からジャージに着替えた。


「ぼ、坊ちゃん!今日はお稲荷さんが見えてますよ!ベェ!ベェ!ベェ!」


・・・・ちくちょう!いつか仕返ししてやる!

僕はいつも着ていた色違いのジャージ姿になった。


「でもよかったですね?魔王の鎧返してもらえて?」


「・・・・・そうだね・・そりゃ奪い取った人に土下座までしたんだらか・・・当然だよね」


たった今自分から追いはぎをした男達に、僕は土下座して魔王の鎧を返してくれるように懇願した。

裸の僕が土下座する姿に同情したのだろう、男達は息ピッタリに右手を差し出してきた。

そう、返すから金をよこせと・・・・・ちくしょう!

だけどその現場を見ていた、他のプレイヤーたちから大ブーイングが起こった。

男達はしぶしぶその場を後にした。顔は覚えたから、強くなったら絶対やり返してやろうと思ってる。




「それじゃ今日は商業地区に行こう!バフォちゃん!」


「DとCの間が商業地区ですよ?坊ちゃん!とりあえず向かいましょう!」


僕たちは城を出て、闇の街・カルマを目指した。


~歩き出して数分後~


「案外・・魔王ってバレないもんだね?」


「そうですよ、あの鎧を着てなきゃ・・皆気付かないもんです!人間って生き物は、そこまで周りの人を気にしてませんからね!ベェ!ベェ!ベェ!」


バフォちゃんと会話をしながら、歩いて数分後。

僕たちは目的地の商業地区にたどり着いた。

目の前にはゲームの中とは思えない、商店の数数が並んでいる。

魚屋・肉屋・八百屋・酒屋にスイーツショップ、それに飲食店が僕の目にとまった。

その奥には道具や武器屋、それに宿屋などが続いている。ホントに沢山の施設が立ち並んでいる。


「ねぇ、この店ってプレイヤーが経営してるんでしょ?どうやるの?」


「はい!プレイヤーが経営していますよ!最初はバイトとしてNPCにこき使われますが、その間に経験知を貯めてスキルを開放していくシステムです。

現実での仕事を通して学んだスキルも、ゲーム内でステイタスとして反映されます。そこがこのジョブ・ガチャの人気のポイントでもあります。スキルが上がっていくと、店の中での役職も自動で上がっていきます」


僕はバフォちゃんの説明を聞き、自分が高揚しているのが分かった。

自分の実力を上げてゲーム内での居場所を見つけたいと思っている僕。

面接で何度も落とされている僕としては、ここでスキル上げ自分の中に本当の実力を蓄えていきたい。

そうすれば現実で仕事も見つかり、迷惑をかけっぱなしの母にすこしでも恩返しできると思う。

早く自立して一人前の男にならないと!


「ねぇ?バフォちゃん、店を経営するにはどうすればいいの?」


「え?坊ちゃん、何の店を経営するんですか?・・・好きな店でバイトして、スキル上げて店長になって、それから経営に関する知識を勉強して、それから店舗を借り入れ・人材を雇って営業を開始する感じですね。

それで1年に1回確定申告をする流れですね!あ、ジョブ・ガチャで払ったジョブ・コインはすべてジョブ・ガチャ運営の収入になります。国には税金を払わなくていいみたいですよ!」


そっか、結構やることあるんだな~!

漠然とした甘い考えだった僕は、やる事の多さに少し戸惑った。

でもやってみないと、自分に合った職業か分からないもんな。

頑張ってみよう!



「ところで坊ちゃん、どんな店で働くつもりですか?坊ちゃん?」


「・・うんとね、料理を勉強したいんだ!最初は、母さんの負担を少しでもって考えで、食事を作る手伝いをしてたんだけど・・・やってみると結構楽しくて・・・男の僕がこんな事言うと可笑しいかもしれないけど・・・」


バフォちゃんの質問に答えた僕。

言い終りバフォちゃんの顔を見つめた。


「え?なんで泣いてるのバフォちゃん?」


「ええ、話やな~!私めっちゃ好きなんですよ、そんな話!べべべべべッ!」


バフォちゃんは大きな音を出し、涙と鼻水を拭いている。


「あ、スッキリした!いいんじゃないですか?坊ちゃん?好きな事なら性別は関係ないですよ?とりあえず、もう感動したのはおさまったんで、どこで働くかさっさと決めてもらえますか?ベェ!ベェ!ベェ!」



僕の人生に関わる事なのに『さっさと決めろ』ってこのクソヤギ!

いつかジンギスカンにしてやる!覚えてろ!



「・・・じゃ、あそこの定食屋で働いてみる」


「はい、わかりました!坊ちゃん!とりあえず、入店して店の中の責任者にバイト採用してるか聞いてみましょう!」


僕は頷き、一軒の定食屋に入店した。

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