第13話最後の雑談
『リーブ!』
僕の周りを包んでいた、眩い光が徐々に消え去っていく。
頭にはめたブレインがすこし重く感じながら、僕は体を起す。
いつもより、すこしだけ自分の体が重く感じた。
「・・・いててて!」
ブレインを頭から外し、自分の部屋に目を移す。
部屋に置かれている、電源の消えているパソコンに自分の姿が映った。
長時間ブレインを被っていたお陰で、自分の髪型がいつもと違い、メルヘンチックなはね方をしている。
僕はそれを手櫛で直しながら、母の居る1階を目指して歩き出した。
しかし廊下を歩く僕の鼻に、味噌の良い香りが届いてくる。
僕は急ぎ足で、下の階に向かった。
「ご、ごめん!母さん、ご飯の準備手伝えなくて!今から手伝うよ?」
「あら、起きて来たの?銀河!いいのよ、私も料理好きだから!作るのも、食べるのもね♪はい、完成!」
アンティークのテーブルには、純和風のメニューが並んでいる。
生野菜に、玄米ご飯、生みそを使った味噌汁と、おかずの野菜炒めが並んでいる。
「ん~♪どれも美味しいよ!母さん!野菜の味が活きてるね、もうすこし食べようかな?」
「いいわよ、まだあるから!どんどん食べてちょうだい!」
僕はご飯のお代わりをついで、テーブルに戻った。
それを見計らい、母が僕に切りだした。
「ね、ところでゲームの中はどうだった?仕事見つかったの?銀河?」
「うん・・・・そうだな・・仕事はまだなんだけど・・・最初は僕目掛けて、罵声が凄かったかな・・」
「え?」
母は僕の話を聞き目を丸くしている。
「そこの会社・・大丈夫なの?初日からそんな・・・会社説明会の段階で新人に罵声を浴びせるなんて・・・酷い会社じゃないの?嫌だったら断りなさい?銀河?」
ああ、これは母がだいぶ誤解しているみたいだぞ!
どうにかして、誤解を解かないと・・・。
「いや、ちゃんとした会社・・じゃなくて、ゲームなんだけど・・・人間関係というか・・・そう言えば、今日初めて悪魔にも会ったよ!」
「あ、悪魔?え、サタニストの人も同じ会社に勤めてるの?上司が?大丈夫なの、銀河?母さんその会社は辞めた方がいいと思うわ!」
あれれ、駄目だこりゃ!
全然話がかみ合っていない!
どんどん母の顔色が変わって行く。
「いや、違うんだよ!母さん。その子は女の子の悪魔なんだけど・・・いや?最初は男だったっけ?」
「え?二刀流の人なの?男の子なの?女の子なの?悪魔なの?
母は僕に話ながら、だいぶ混乱している。
「ああ、あのね・・・女の子なんだけど・・その子がカメラを撮って、僕がスッポンポンで走っていく動画を撮ったら皆が見てくれて・・・」
「な、な、な?!新手のAVかなんかなの?それ、無理やりなの?しかもそれを見てて、どこが楽しいのかしら?意味不明だわ!」
母は話を聞き、場面を想像して首をかしげている。
「だ、大丈夫だよ!母さん!借金が約10億出来たけど、何とか払っていくから!」
「じゅ、じゅ、じゅ、10憶~~~!!あ、ああ、ああ、駄目だわ!私の可愛い、銀河が社会の食い物にされていく!ああ、目眩がしてきたわ~!」
うわぁ!
どんどん話がややこしくなってきたぞ!
母が頭を回し、混乱している。
「ぎ、銀河!じゅ、10億で何を買わされたの?悪徳セールスでしょ、それ!」
うん、ゲーム内で必要な家を買っただけなんだけどな・・。
でもちゃんと話せば・・・わかってくれるはず!
「うん、お城を買ったんだ!名前がカスデ・ムショクナ・モンデっていうね!」
「だ、騙されているわよ!銀河!早くリコールしなさい、そんなもの!母さんの知り合いに、腕利きの弁護士がいるから相談してみるわ!」
ああ、駄目だ!
話せば話すほど、誤解が深まっていく!
でも、正直に話せば、母さんもわかってくれるよね。
そうだよ、きっと!きっと、そうさ!
「あのね、母さん!僕が闇の・・その・・・あの・・・つまり・・・・そう、魔王になったんだ!悪魔たちのボスってことさ!」
僕は鼻をかきながら、ちょっぴり自慢げに母に説明した。
「ああ、銀河が・・・。サタニストのボスになるなんで、どこでどう子育てを間違えたんだか!」
「だ、大丈夫だよ!母さん!」
僕はできるだけ、いつもどうりの表情で母に話した。
「ゲームなんだからさ、母さん!明日はちゃんと仕事を探してくるから!現実でも使えるって言われてる『失われた技術・ロストスキル』が仕事を通じて学べるって言われてるし。もともと僕の目的はそれだし!」
「本当に大丈夫?その二刀流の女にたぶらかされてるんじゃないの?新手のAVに出演されられたり・・・10憶もするバカみたいな家を買わされたりして・・・」
母が真剣な表情で、僕に言い聞かせてくる。
「銀河!あなたも男の子だから恋愛する事は、母さん反対じゃないのよ!でも、そんなぶっ飛んだ子より、もっとあなたにピッタリな子がいるんじゃないの?どう?」
母の誤解を聞きながら、僕の脳裏に可憐さんの顔が浮かんだ。
僕は可憐さんとのヒストリーを思い出しながら、母の質問に答えた。
「うん・・・そうなんだよね、母さん。・・・実はそうなんだ!気になってる人が・・・・。ちょっぴり男勝りな人なんだけど・・例えば殴りかかってきた男3人を同時に殴り飛ばしたり、僕のみぞおちを容赦なく打ちぬいたり・・・それに、昨日は本当に殺されかけたんだ!でも、そんな所もステキな人がいるんだ!」
「ぎ、銀河・・・あなたって・・・・!今分かったわ!あなた女を見る目が絶望的にないのね!・・・いい、よく聞いてね?銀河、その子もかなりぶっ飛んでるわ!止めときなさい!」
母さんの言い分もわかるけど・・・。
そりゃ無理だと思う。僕は毎日可憐さんの事を考えてるし・・。
それで幸せだと感じる事ができるし、でも彼女を傷つけようとか悲しませようとかいう気はないよ。
ただただ見つめていただけだしなぁ!あれ・・これって・・・立派なストーカーじゃないか・・・・まいっか!
「だ、大丈夫だよ!母さん!僕も自分の道は自分で決めて、切り開いて行きたいんだ!だから・・・その・・しばらくは見守ってて欲しい!生意気かもしれないけど・・・」
僕は自分のありのままの気持ちを母にぶつけてみた。
「・・・そう、わかったわ!母さんも見守ってるから、困った時は相談してね!母さんが出来る事は協力させてほしい!・・・そう、あなたも少しづつ大人になっているのね・・・・嬉しいやら・・・寂しいやら・・・」
それ以上母は、僕の事に追求してくる事はなかった。
僕たちは食事を終え、二人で食器を片付け始めた。
しかし二人の間に、わだかまりのようなものは出来なかった。ちゃんと僕の本心を伝えたからだと思う。
いつもどうり些細な話をしながら、僕と母は使った食器を片付けた。
母は松葉杖を付きながら、自分の寝室へゆっくりと歩いて行く。
また、すこしだけ病気が進行しているのが、僕の目にもわかる。
このありふれた大切な時間がいつまでも続く事はない。
この時の僕はそれが、分かっているつもりで本当には分かっていなかった。
そう、大切な母と過ごす時間に終わりが近づいている事に。
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