第12話Zext


「くそ、ふざけた奴だ!死んだというのに忌々しい!」


ドクターSが居なくなった会議室で、ライフが苛立っている。


「なにか奴の手がかりをつかむ方法はないのか?死屍死屍!」


「は!ライフ様、ドクターS・・奴は神出鬼没で・・・・痕跡は各地で見つかっているのですが、同時に複数の場所で出現したりして・・・発信源がみつけられない状況です。

データとなった今も、我々の邪魔をする厄介な奴です」


片腕になった秘書の話を聞き、わなわなと怒りを堪えているライフ。

顔面が真っ赤に色づき、まるで溶岩のようだ。

身の危険を感じた秘書が、ライフから離れようとしたその瞬間!


「ち、ちくしょう~!!!!」


ライフは、秘書のもう一本の肩に高速で手刀を放った。



「が、ガッ!」


叫び声を上げ、その場に座り込む秘書。

肩の傷を見ると、なんと先ほどと同じように腕が切断されていた。

傷口からはとめどなく血が噴き出ている。

やはりライフの右手の手刀部分が、ナイフのように金属化している。


「ふん!」



ライフの掛け声とともに、金属化していた部分が元に戻る。

そして腕がなくなり血を流し続けている秘書に、ライフが近づく。

肩の傷口に左手の掌底部分を近づけるライフ。

次の瞬間掌底から高温の熱が発せられる。


『ジュ、ジュ、ジュ!』


肉の焼ける音と匂いが、会議室中に立ち込める。


「ひっ!」


先ほどとは違い、秘書は怯えた顔をしている。

ライフが鬼の様な形相に変わっている。


「腕を切られたら、ありがとうございますだろ?貴様はどんな教育を受けてきたんだ?あ?」


「す、すいません!あ、ありがとうございます!ライフ様!!あ、ありがとうございます」


両腕がなくたった体で必死に、ライフに懇願する秘書。

床に両膝を付き、ライフにすがっている。

涙を流し命乞いをしている秘書に、鬼の形相のライフが最後を告げた。


「貴様は首だ!死屍死屍!」


「えっ・・・・・」


ライフの顔を見上げた瞬間、秘書の首筋に一本の剣線が走った。

驚愕の顔をする秘書、だがうまく話すことができない!

ゆっくりと自分の視線が回っていく。

夥しい鮮血が自分の体から放出されている。秘書は静かに動かなくなった。


「ち、この役立たずが!おーーい!死屍死屍!誰か!誰かおらぬのか!」


ライフの怒声を聞きつけ、会議室に新しい男の秘書が現れた。


「おい!この男を持っていけ!食人族に売りつけこい!これで少しはワシの役に立つはずだ!死屍死屍!」


「はっ!」


新しい秘書の男は、腕と首をもがれた遺体を無表情で集めていく。


「ああ、それとコイツの家族を皆殺しにしておけ!見せしめだ!死屍死屍!」


「はい、仰せのままに!」


そう言うと、秘書の男は会議室を出ていった。


「・・・まったく使えない。すぐに人数が減ってしまうな!ま、減ったら足していくだけだから・・・よいが・・・死屍死屍!」


ライフは会議室の入り口ドアを見つめている。

その時、背後から聞きなれた声が聞こえた。


「おいおい!部下は大切にしろよな、ライフ!」


「あ?貴様!!また現れたのか!」


ライフが振り返るとドクターSが窓ガラスに投影されている。


「さすがに悪の親玉だな!言ってる事もやってる事も、めちゃくちゃだぜ!ライフ?ま、お前の場合は悪玉と言うより、化け物だったな?」


「・・・ふん、どこで調べたんだか知らないが、本気で貴様を粉みじんにしてやりたくなって来たぞ!死屍死屍!」


ライフは秘書の男を切りつけた時の様に、怒りの表情を見せる。


「おお、こわ!助けて~♪殺される~♪みなさーん、この会議室に悪魔の親玉が居ますよ~♪」


「死屍死屍!本当に目障りな奴だ!消えてなくなれ!」


ライフは右手を刃物に変化させ、窓ガラスに近づく。

投影されているドクターSごと、ガラスを粉砕しようとした、その時。


『バーーーーン!!!』


ライフ頭を狙い、窓の外で待機していたドローンが銃弾を放った。

窓ガラスの右上に、銃弾が通った穴が一つ開いている。


「迂闊な奴だな、誘いだとも気が付かないとはな!ま、たいして効いてないみたいだが・・・。さすが悪の親玉だけあるぜ?人間まで辞めてるとわな」


銃弾がこめかみに命中して、その場にしゃがみ込んだライフ。

しかし、傷口からは血の一滴も零れ落ちてこない。


「ふ、こんな攻撃で私に傷を付けれると思っているのか?死屍死屍!ドクターS!」


「思っちゃいないさ!ライフ!だが、ゲノム編集で本物の化け物になってたみたいだな!半信半疑だったが!」


こめかみを手で押さえているライフ。

銃弾が命中した、こめかみの筋繊維がまるで蜘蛛の巣のように弾を掴んでいる。



「俺達が作りだした、遺伝子操作、ゲノム編集、遺伝子複合・・・それをそんな事に使うとは・・・お前たちは、神にでもなったつもりか?!」


「・・・神?違う!ついに人間は神を超えるときが来たのだ!寿命という呪縛から、永遠に解放されるのだ!死屍死屍!それにお前の研究結果は、金を出したワシのモノだろ?何を言っている!死屍死屍!」


恍惚とした表情で話すライフ。

傷口が徐々に塞がっていく。


「・・・ただのキメラじゃねーか!化け物め!」


「キメラ?違うな!正式名称は『Zext』・・・そう、死の先に、永遠の光を!・・・ついに、ワシ達は見つけたのだ!死屍死屍!」


窓ガラスに投影されているドクターSが、飽きれた表情でライフを見つめている。


「Zextねぇ・・・いかにも中二病みたいなネーミングだな!」


「何とでもいえ!それにワシ達は世界に貢献しているだろ?このままだと、この地球が滅んでしまうだ!わかってるだろ?だからワシ達がワクチンや、遺伝子組み換えの食物で人間を殺してやってるんだ!法律を作って、名前を変えて・・情報を操作して・・ほとんどの人間が何も見えちゃいなし、気づいてもいない!

ホント、感謝してほしいぞ!死屍死屍!今全人口が90億人で、ジョブ・ガチャで10億人減らして・・・ワクチンで20億人と・・・他には・・ケムトレイルで・・・ま、順調に進めて早く目標の5億人にしなければな!死屍死屍!だが、お前も技術で協力してきたではないのか?」


ライフの言葉を聞き、ドクターSは俯いている。

それは今までの自分の行いを、思い起こしているようだった。


「・・・ま、そうだな・・・」


「ふ、どうした?あきらめる気になったか?ドクターS?死屍死屍!」


ライフがドクターSに尋ねる。


「・・いや・・・ま、相いれないなと思ってな!」


「当たり前だ!ワシ達が選んだ優秀な奴隷以外、すべて殺すだけだ!死屍死屍!」


そう言うと、ライフは窓に近づき高質化した右腕でガラスを叩いた。

次の瞬間、窓ガラスに投影されていたドクターSがバラバラに砕け散った。

しかし、その瞬間ガラスの中のドクターSがライフに告げた。


「プレゼントだ!受け取れ!!」


言葉に反応して顔を上げるライフ。

なくなった窓の外から、こちらに向け戦闘機が飛んでくる。


「な・・・・ま、まさか!?」


次の瞬間、戦闘機からミサイルがライフの居る会議室に打ち込まれた。


『ドーーーーーーーーーン!!!!』


ライフの居る会議室が木っ端みじんに吹き飛ばされた。

耐えきれなくなったホテルのコンクリートが、連鎖しながら倒壊していく。

巨大な土煙を上げ、ホテルを構成した物質があたりにまき散らされた。

中にいた人間は逃げる暇もなく、その大きな渦に巻き込まれていく。


「・・・・・」


倒壊したコンクリートが、微かに動いている。

すこしづつ動きは大きくなり、コンクリートの瓦礫が弾き飛ばされていく。



「・・・・・・・ちっ!死屍死屍!ワシを舐めるな!」


瓦礫の中から這い出てくるライフ。

ライフの体の周りには、蜘蛛の巣の様な筋繊維が取り囲んでいる。

それを自分で切り開いていくライフ。

しばらくすると中から、傷一つない状態で現れた。


「ちっ・・・殆どの召使は死んでしまったではないか!ま、代わりは沢山いる!ワシの大事な家族が死ななかっただけでも良しとするか!死屍死屍!」


ライフは自分の着ていた服に付いた土埃を手で払っている。

その時近くの窓ガラス中から、ドクターSが姿を現す。

車の窓ガラスや、巨大スクリーンに信号機、それに周りのビルの窓のすべてにドクターSが投影されていた。


「・・・やっぱり死んでなかったか!この化け物が!」


「死屍死屍!残念だったな!だが、どちらが化け物かわかっているのか?お前も沢山の民間人を巻き込んだ事になるのだぞ?死屍死屍!立派なテロリストではないか!」


ライフがガラスに投影されている、ドクターSをまじまじと見つめている。


「なーに、事前にフロントに連絡して、避難させている!お前に非難される筋合いはねーぞ!知らなかったのは、バカなお前だけだ!」


「こ、小癪な奴だ!」


話を聞きライフはわなわなと怒りを表している。


「それじゃな、ライフ!また遊ぼうぜ!」


「ちっ、減らず口を!!死屍死屍!今に見ておれ、ワシを怒らせた事後悔させてやる!ドクターS!」


倒壊した瓦礫を足で踏みつけ、ライフはドクターSが消えていく姿を苦々しく見つめていた。


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