第8話家を選ぶなら


僕は全身、眩い光に包まれた!!!


「おっと!」

僕は地面に着地した。

土を踏む確かな感触が心地よい。

所々に草木が生えていて、まるで現実の様な臨場感。

先ほどの会場の中とは違い、匂いや風も感じられる。

僕は今までに現実では感じた事のない、爽快な気分を噛みしめていた。

新しい何かが始まる予感を全身で味わった。


僕の背後に立つシルエットに気が付いた。

これは・・・もしかして・・・。


僕は華麗にその場でターンした。


やったー!!

目の前には先ほどの立派な城が・・・・?・・・城が?

あれ?なんかさっきのイメージと違くね?うそ・・欠陥住宅?正面からだと、よく分からんな?

近くによって、あれ、立体感ゼロじゃね? ああ・・・これこれ、よく出来たフルカラー印刷~!? ああ、きれい~・・ああ、よく出来たゲーム・・・・ってバカ!!

・・横から見たら、あれ?木が薄くね?あ、ベニヤみたいな木に写真が張り付けてあって・・・あ!な~んだこれ、本物のベニヤだ!アハハハ・・・。



「・・・て、なんじゃこりゃ~~!!?」


僕は立派な城の板?を豪快に放り投げた。

もう、あれだね室伏選手ばりに投げたと思うよ!結構遠くまで飛んで行った!


「・・・ベェ?ベェ?ベェ?」


何か聞き覚えのある声が僕の耳に届いた。


「ふぁぁ・・よく寝た!あ、坊ちゃん!いらっしゃい!魔王城へ!」


眠たい眼をこすりながら、バフォちゃんがやってくる。

そしてある事に気が付いた。


「あれ?魔王城のパネルが無い?!あれ、パネェ?パネェ?あ・・・あそこに飛んで行ってますね!風でも吹いて飛ばされたんでしょうかね?ベニヤだし・・私取ってきますね」


べフォちゃんが魔王城?を取りに行った。

僕は無言でバフォちゃんの角を捕まえた。


「・・い、痛い~!な、なにするだ!このクソ魔王!・・・ってか、人間にしては力が強いな!」


バフォちゃんは僕の手を振り払って、なおも痛がってる。

しばらくして僕の顔を見てきた。


「角とれたら責任とってくださいよ!って、何泣いてるんですか?しかも涙が赤いですよ?」


僕はぼそりと呟いた。



「ちぇ・・・・・チェンジで!」

「ド、ドキーーーーー!!」


バフォちゃんは僕の言葉を聞き、狼狽えている。


「坊ちゃま、その言葉は止めて~!雇われの身としては、ダメージがあり過ぎる言葉です!」


僕は涙を流しながら、バフォちゃんに説明した。


「・・・普通の城に住みたい・・・いや、もう普通の家でいい!」


「はぁ・・・・わがままだな・・・わかりました。それじゃ実際に町に物件を見に行きましょう!」


そういうとバフォちゃんは歩き始めた。

半歩遅れて僕は後ろを付いて行った。


「ほら、景色が綺麗でしょ?この魔王城は町を見下ろす高台に建てられています。私達*闇*種族の街『カルマ』です!

三角形と目がアクセントですね!ほらほら、あそこですよ!見えますか?魔王様?」


「え?ああ!見えるよ!結構なデカさだな!凄いっ!」


僕の魔王城(ベニヤ)から続く坂道の先に、三角形の建物がそびえたっている。

建物の中央には大きな目が取り付けられている。

大きな目は常に監視しているような、不気味な印象を感じさせる。


「・・・ちょっと怖いよね!見た目が!」


「そうですか?・・さぁ、もうすぐ町の入り口ですよ!」


僕の目の前に、闇の街『カルマ』が現れた。


「ちかくで見ると、さらにデカいな!カルマ!」


「ええ、そりゃ!現在の収容人数約1億5千万人ですから!それにNPCも入れたら、かなりの収容人数になりますね!残りの半数の人々は光の街『ダルマ』に収容されています!」


近くで見る町全体がピラミッドの様な外壁で囲まれている。


僕とバフォちゃんは話をしながら、町に入るための門をくぐった。


「さっき、1億5千って言ってたね?でもそんな家があるように見えないけど?」

僕は町を見て、感じた事を尋ねた。


「ええ、この町はA・B・C・Dの居住地区で分けられていて、そこに商業地区、工業地区、そして冒険に欠かせないスキルを覚えれる道場街に分けられています。

魔王様のお城は町の外に建設されています。やっぱりSクラスは特別と言う事ですね!羨ましい~!」


「・・・・・・」

僕はバフォちゃんの角をへし折ってやろうかと思ったが、ぐっとこらえた。


「外見上は建物が少なく見ますが、一歩室内に入ると別の空間に繋がっているみたいです。そのシステムのおかげで今も増えつづけるプレイヤーを収容していけるみたいですね!

私達はデータとしてゲーム上ではカウントされているので、数字でいくつも部屋を増やせるみたいです」


「へぇ!?そうなの!すごいね!」

僕は町の中を見ながら相槌を打った。


「で、目的の家はどこで買えるの?」


「ああ、はい!家を選ぶならで有名な、デスイ・ハウスに向かいましょう!この先です!」

「・・・・」


僕はバフォちゃんに、つっこみを入れたいのを我慢した。


バフォちゃんが僕の目の前を歩いて行く。

僕が入って来た入口付近が、D居住区。すこし奥がC居住区、B、Aと続いている。

頭上を見上げると大きく表示してある、わかりやすい!

三角形の街の中心に、太い道が伸びでいる。

僕たちはその道を真っすぐ歩いて行く。


「ココが商業地区です」

バフォちゃんが、DとCの居住地区の間で止まった。


「このDとCの間が商業地区!この先のCとBの間が工業地区!そしてBとAの間が道場街という順番で並んでいます。

そしてA居住区の先が、町の出口となり、ダンジョン50の塔につながる道になります。そこからは先、町の外では敵が襲い掛かってきますのでご注意ください!ちなみに魔王城はエンカウント対象外ですので、ご安心ください。」


「敵・・・か」

ゲームが好きな僕としては、テンションの上がる話だった。

でも今は家を選びにいかないと。


「その・・デスイ・ハウスはどこ?」


「ああ、はいはい!この商業地区の先です!もうすこしすると見えてきます!・・・あ、あれです!あのネオンがギランチェしている建物です!」


「・・ギランチェって・・・・・あ、あれだ!」


僕の目にネオン輝くデスイ・ハウスが現れた。

ネオンがビカビカ光っている。


「メガネかけてきてよかった~!」


「何でですか?」

僕の言葉にバフォちゃんが訝し気な表情を見せた。


「ああ、このメガネは伊達なんだ!ブルーライトカットメガネで、こんなギランチェな光も9割カットなんだ!

昔っから液晶画面を見ることが多い僕に、母さんが買ってくれたんだ!『緑内障になるわよ!』って。これを付けていると目が痛くないんだ!便利だよね!ゲーム内でも効果が反映されてるのが、さらにすごいけど」


「・・・坊ちゃま、商品のセールスマンみたいですね、今度それ動画配信しますか?魔王様ならいけますよ?」


突然のバフォちゃんの提案に僕はすこし戸惑った。


「・・・え!そんな事やったことないしな・・・」


「・・・そうですか、行けると思いますけどね!ま、考えておいてください!」


僕たちはネオン輝く、デスイ・ハウスの前に到着した。

僕が先に入店するように、手でうながしてくるバフォちゃん。

僕は頷き、店内に入る扉を押した。


「あ、いらっしゃいませ!お、噂のニート魔王様じゃありませんか!ゼハハ!ささ、どうぞ!あ、執事の方も中へ♪」


僕達を笑顔で迎えてくれる男。

客商売を長年やっているのだろう、愛想のよい感じの人だ。

肌はテカテカとして、羽振りの良い印象を受ける。頭部は中央がむき出しになっていて、周りを浮島が取り囲んでいて(てっぺんハゲ)ハゲた場所がテカテカしている。

男は僕達に自己紹介を始めた。


「初めてのお客様に、軽く自己紹介を!私、ジェン・トルーマン(金取男)と申します!友人は何故だか・・私の事を『資本主義の権化』と呼びますがね。ゼハハ!この、デスイ・ハウスの店主をしております!以後お見知りお気を!」


トルーマンは豪快に笑っている。

僕の中で愛想のよい人から、灰汁の強い人に印象が変わった。


「あの、早速ですけど、家を見せてください」


「ああ、はいはい!それではこちらへどうぞ!」


尋ねた僕を店内の奥に連れていく。


「・・・あ、ちなみにどういった物件をお探しですか?」


「・・・え・・うーん・・・とりあえず、普通の家を」


僕は要望をトルーマンに伝えた。


「普通ですね、それでしたこちらに3タイプございます。簡易的なタイプですね、どのタイプも資金に余裕がある時は、その都度拡張していけますので覚えておいてください。

お値段の方は上から、2000万・1000万・500万にわかれています。それに土地代も掛かってきて、それにそれに維持管理費が半年ごとに必要で、光熱費が毎月ご使用した分、別途徴収されます。最後に一年に4回、固定資産税が必要になって来ますので、あらかじめご了承くださいね!ゼハハ!」


「・・・・はぁ」

僕はため息交じりに返事を返した。

その時僕の後ろのバフォちゃんが、トルーマンに話しかけた。


「あ、土地は持ってますので大丈夫です!ね、坊ちゃま!」

「う、うん」


そうなの、あそこの土地は僕に所有権があったみたい。

とりあえずバフォちゃんがそう言うから、間違いないのだろう。


「わかりました!それにしても、魔王様がこんな普通の家でいいんですか?あっちにはもっと良い、物件がありますよ?」


「は、はぁ・・」


トルーマンの売りつけようとする熱気が凄く、僕は圧倒された。


「ま、一応ですよ!一応!ささ、こちらです!」


僕はトルーマンに促されるまま、店内を進んだ。


「うわぁ!すごい!」


「これがこの店一番の物件、ま、お城なんですけど!名前がカスデ・ムショクナ・モンデです!!ゼハハ!」


「グフッ!」


トルーマンの説明を聞き、僕は心に痛恨のダメージを受けた。


この城の名前があれだよね、今の僕にピッタリすぎるよね~!誰が付けたんだよ!こんな名前!

値段は分からないけど、こんな城に僕が住む事になったら皆・・・大笑いしそう・・・。

また僕の黒い歴史に新たな、1ページが刻まれる事に・・。

しかも名前とは裏腹に、ものすごく立派な城だし。


「え、ちなみにいくらですか?」


「はい、10億円になります!ゼハハ!」


値段を聞き僕は、ハニワみたいな顔になった。億って!

僕が今までに使った、買い物の最高金額は約10万ほどなのに。

それはジョブ・ステのハードとソフトを買った時の値段。

ジョブ・ステがなんであんなに安いのか、僕は不思議だったけど・・。ま、いっか!


「む、無理ですね・・・」


「はい、わかりました!ちなみに、レンタルも可能です!賃貸契約だと、毎月の家賃だけでこちらのお城に住むことができます!ゼハハ!」


賃貸って・・・ほんと現実と変わらないじゃん。

実際にゲームを始めると、説明書にのってない事ばかり起きる。

僕はすこし戸惑った。


「このゲームは自分の家を所有しないと、どんどん能力が下がってしまいます!ゼハハ!宿なんかもありますけど、一晩泊まるのに最低で1万ぐらいしますからね!」

「え、どうしてそんなシステムなんですか?」


僕はトルーマンに尋ねた。


「・・・わたしも詳しくは知らないんですがね、え、ココだけの話ですよ!このゲームではリアルの体を維持するための費用が、この家賃や宿泊費から捻出されているみたいですよ。

要するに運営費!手数料みたいなもんですね!リアルの体が床ずれしないようにとか、お腹が減った時とか、黄金・聖水(トイレ)を出したくなった時とか・・実際にどうやっているのかはわかりません。それは想像にお任せで!ゼハハ!」


「そうなんだ・・・」


そんな僕に、トルーマンが揉み手をしながら尋ねてきた。


「ちなみにですが、魔王様の予算の方はいかほどですか!ゼハハ!」


バフォちゃんに促されて、このデスイ・ハウスまで来たけど・・・。

そうだった、僕は多分お金を持っていないはずだ。

僕は困りながら、後ろに立つバフォちゃんの顔を見た。


「あ、坊ちゃま。所持金はメニュー画面から見れますよ!魔王様なので、お金持ってるのかなと思ってましたけど・・・?」


そうだよね、僕はSクラスの魔王だ!

きっとお金も所持上限数ぐらい、最初から持っているはずさ!

そうさ、そうに決まっている!

僕は視界の右下に映る、メニュー画面をタップした。


するとステータス、スキル、アイテム、装備、エリア、仲間、現在開催中のイベント、などのコマンドが瞬時に表示される。

視界の上に目線を映すと、ゲーム内での時間とお金が表示されていた。

僕はその0の数に驚いた。


「え、お金・・・0円なんですけど・・・」


『うそ?』(バフォちゃん&トルーマン)


僕の言葉を聞き二人は驚いている。

一番驚いているのは、この僕だ。

淡い期待、いやかなり期待していただけに・・・目の前で起こった事を信じたくなかった。


落ち込む僕にトルーマンが言い放つ。


「ちっ!こっちも暇じゃねーんだ!さっさと帰れ!このニート金なし魔王が!」


そう言うと僕とバフォちゃんは、トルーマンの目くばせでやって来た店員に確保される。

そのまま、物の様に店の軒先に放りなげられた。


「ぐふ!」

「ベェ!」


僕とバフォちゃんは地面に叩きつけられた。

乱暴に店のドアが閉じられた。


「ちくしょ~!いくらお金がないからって、こんな扱いないよ!」

「そうです、そうです!女の子にこんな事するなんて、絶対やり返してやる!」


バフォちゃんは怒りに燃えていた。

その時、すこしだけ強い風が吹いた。

僕とバフォちゃんはお互いの顔を見つめた。



「・・・・なんだか・・・寒いですね。坊ちゃま」


「・・・うん・・・心がね・・・・寒いよ」


僕たちはなすすべなく、空を見上げた。

ちくしょう~!冒険する前に僕の魔王生活は終了しそうな予感。

せっかくDのワーカーじゃなく、Sランクの魔王を引き当てたのに・・・。

能力が下がるって言ってたから、最低賃貸を借りれるぐらいのお金を稼がないと・・・。

たぶん商業地区か工業地区で仕事があるはずだ、とりあえずそこで仕事を見つけないと・・・。


「あ、あのもしかして・・・今年の魔王様じゃないですか?」


項垂れていた僕たちの前に、一人の女の子が現れた。

その子をみて、バフォちゃんが大声で叫んだ。


「ベェ!ベェ!ベェ!これだ!!!!」


僕はバフォちゃんの言葉が理解できなかった。



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