第6話 そして・・・僕は、魔王に・・!
~会場VIP席~
「はははは!すごい嫌われ方だな、あの坊主。名前は・・・・へぇ、いつも銀河ねぇ・・・・知らねーな!」
「博士?あの子がどうかしたんですか?」
広々としたVIPルームで二人は話している。
「いや、嫌われ方が俺みたいだな・・・と思ってな・・・」
「なんですか?あの子に、肩入れする気ですか?不正ですよ、それ?分かってます?」
二人の間に沈黙が流れた。
「・・・・いや、面白いだろ?あの坊主?それに不正じゃねーよ!俺のゲームだ、これは!」
「・・・はいはい、わかってますよ。一応、注意しただけですし・・決定権は博士にありますよ」
会話を終え、椅子を立つ博士。
部屋の窓ガラスに近づく、会場中が一望できる高さで、そこから下の様子を見下ろしていた。
「・・・ポチっとな!さぁ、お前の物語を俺に聞かせてくれ!」
~会場中央~
僕はトボトボと肩を落とし、会場を後にする。
最後の階段を降りようとした時、それは起こった。
「死tぱおjねしbじねゃgw死屍死屍hlmxzあはははっは餓母母;あうqp!」
耳を覆いたくなるほどの、不協和音。
頭がガンガンと割れるように痛い。
力を振り絞り、僕は顔を上にあげた。
すると、僕だけじゃなく会場中の人間がその不協和音にうなされていた。
『アハハ八AAねは八は!』
『ウ死死屍フフ鏖ふっ闇ふふっふ負!』
サタンの旋律、悪魔のささやき、今度は人間の声とは思えない音が聞こえ始める。
僕は振り返り、中央に鎮座するスクリーンを見た。
先ほど僕にDランクを告げた画面が、少しずつ波打ち始めた。
「え?」
その波は黒い煙を巻き上げながら、渦を巻き始めた。
だんだんと強くなっていく、その周りに死神や化け物の手が現れ始めた。
「ひっ!?」
僕はその場に尻もちを付いた。
あまりのおどろおどろしい演出に、僕は正直チビリそうだった。
画面に漂っている渦は、さらに禍々しさを増していく。
その様子はさながら、小さなブラックホールのようだった。
次の瞬間その渦の中心から、一際巨大な手が僕目掛けて伸びてくる。
「うわあぁ!」
僕は尻もちを付いたまま、後ろへと逃げた。
しかし、その手の速さには勝てず、僕の両足はがっしりと掴まれた。
『つ・か・ま・え・・・た!!う死し死屍!!』
頭に直接語り掛けてくる声。
重低音で魂が震えるような感覚だった。
僕は一瞬気が遠のいたが、何とか耐えた。
その瞬間にも、僕の体はスクリーンに向け進み続けている。
たわわな胸に気付き僕は、横を振りむいた。
其処にはジェシカが不安そうに立ち尽くしていた。
こんなピンチの時に、女性の胸に目がいくなんて・・・・。
現実を受け入れたくなくて、僕の本能がそんな事に目を向けさせたのかも・・・。
なすすべなく、僕はスクリーンの中に引きずり込まれた。
===
「ここは・・・・?」
温かいお湯につかっているような感覚だ。
立ち込める湯気の中、僕は目を凝らした。
僕はお湯の中に浸かっている。
しかし普通の温泉とは違い、水の色はどす黒く濁っている。
両手ですくい鼻に近づける、だが見た目に反して温泉独特の匂いはしなかった。
不思議とこの黒い水に浸かっていると、穏やかな気持ちに満たされる。
石を積み上げて作られている黒い温泉。
広さは2~3人ぐらいが入れるサイズだ、そこまで大きくはない。
僕の背後には大きな鏡が置いてある。
「坊ちゃま!坊ちゃま!お湯かげんはいかがですか?」
始めて聞く声に、僕は声のする方向を向いた。
そこには、黒いタキシード姿の男?が立っていた。
「ああ、初めましてですね!坊ちゃま!私はあなた専属の『コンシェルジュ』、俗にいう執事でございます」
丁寧に僕に深々とお辞儀をする、執事の名乗る男?。
いろいろとツッコミたい事があるが、僕は黙っていた。
「・・・私、山羊の悪魔!バフォメットと申します!みんなからは『バフォちゃん』の愛称で親しまれています。好きな数字は666!好きな物は植物を食べる事!好きな事は、たいして意味もなく高い場所に上る事です!嫌いなものは神を連想させるモノ全部です!」
・・・山羊・・・羊だから、執事?しかも、ホントに顔がヤギだし・・・。
でも体は人間サイズっていう、気持ち悪さ!しかも自己紹介後にドヤ顔してるし・・・。
僕は初対面だったけど、本音がポロっと出てしまった。
「ちぇ・・・・・チェンジで!」
「ガ、ガーーーーン!!」
バフォちゃんは一瞬落ち込んだ様子を見せたけど、気持を立て直し僕に急接近してきた。距離が近い!
「こ、困ります!わたしには守りたい好きな人が居るんです!ええ、そりゃ!もちろんヤギですよ!でも、ヤギだって幸せになっていいじゃないですか~?
坊ちゃま、あなたは魔王なんです、あなたが『チェンジ!』って言うだけで、私はリストラされてしまいます。クビですよ!?分かってます?ホント、何でもしますから~!ね、お願いしますよ!坊ちゃま!」
ぺこぺこと僕に頭を下げる、バフォちゃん。
それに高速で手を揉んでいる、僕にゴマすりしてるみたい。指紋が消えそうだよ、バフォちゃん・・・。
なんでも言いたい事を言えそうな、キャラクターっぽいなバフォちゃんは。
「・・・でも、出来れば可愛い女の子が良かったかな~!チラッ!チラッ!」
僕はダメもとでバフォちゃんにお願いしてみた。
「お、女ですか?」
バフォちゃんは天を仰ぎ、考え込んでいる。
う~ん、駄目そうな反応だぞ。
「・・・そうならそうと、言って下さいよ~♪お安い御用です!」
「・・っしゃらああああああ!!!」
バフォちゃんの返事を聞き、僕は腹の底から歓声を上げた。
「・・・・・」
バフォちゃんは無言で固まった。
僕は満面の笑みで、静かにバフォちゃんが連れてくるであろう、可愛い女の子を待った。
~1分後~
僕は黒いお湯で濡れたジャージのまま、約1分ほど立ち尽くした。
え、まだですか?女の子は?
僕はバフォちゃんの顔を、まじまじと見つめる。
ダメだ、反応がない!
「・・・ねぇ、まだ?女の子?」
「・・・?え?もう来てますよ?」
バフォちゃんの言葉を信じ、僕は周りを見回した。
「え、いや・・・いないじゃん?ねぇ?どこ?」
「えっと、私が女に変身したのですが・・・?分かります?」
僕はバフォちゃんの言葉を理解できなかった。
「え、どうゆう事?」
「いや、だから私がオスのヤギから、メスのヤギにチェンジしたんですよ?さっき!顔見ればわかるでしょう?それぐらい、ねぇ?」
僕はバフォちゃんの言葉をなんとか理解する事が出来た。
そのうえで、僕は全力で走り、目の前のバフォちゃんの首筋に渾身の力を込めラリアットを放った。
バフォちゃんは僕が先ほど入っていた、黒い温泉?に顔面から豪快に入浴した。
やっぱりあれだよね、温泉は皆で楽しむものだからね!分かち合う心が大切だよね(※良い子の皆はマネしちゃだめだよ♪)
「ばふぉ!ばふぉ!ばふぉ!な、なにするだ!あんたが言った通りしたべさ?しかも、女に手を上げるさ、ろくでもね~男だな!」
急になまってしゃべり始めたバフォちゃん。
顔の毛が濡れてべちゃべちゃしている。女とかそんなの分からないよ・・ヤギにしか見えないし・・・。
バフォちゃんは顔を高速で振り、毛にしみこんだ水分を飛ばしていく。
「・・・・」
僕は顔じゅうに、そのしぶきを受けた。
「・・・しょうがないな!このエロガッパが!」
バフォちゃんはお湯から出ると、ブツブツと呪文を唱え始めた。
「ベェベェベェッ!バフォお!バフォお!バフォお!!」
ヤギの汚い鳴き声で呪文が唱えられた、バフォちゃんが黒い光に包まれる。
僕はその様子を見守った。
「・・・・・!!!えっ・・・」
次の瞬間、黒い光に包まれたバフォちゃんが、まるで人間の様な顔に変化した。
か、かわいい!!
目鼻立ちがハッキリとして、光沢のある髪の毛。
すこし小さな唇で、ハッキリ言ってそうそう出会えるレベルの顔ではない。
そして頭にヤギの角が付いている、これはまぁ、許せる範囲である。
「・・・・どう?かわいいでしょ!わたし?」
バフォちゃんの問いに、僕は全力でうなずいた。
身長約165cm 体重50kg 上から75・50・72!・・ほぅ、なかなかの戦闘力だ!
しかも可愛い白黒のゴスロリメイド服に着替えている。スカートの中に顔を突っ込みたい。
「・・・あの、あまり近づかないでくれる?わたしヤギにしか興味ないから!」
可愛い女の子に変身したバフォちゃんを、近くで観察する僕。
その時、バフォちゃんが僕の体をお湯の中に押した。
『ジャパン!!!』
「・・・・ばぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」
必死で黒いお湯から出る僕に、バフォちゃんが告げた。
「さぁ、これからよろしくね!でも、みんなが待ってるから!バフォバフォバフォ!!!」
そう言うと僕目掛け先ほどの黒い光を放つバフォちゃん。
僕の全身が黒い光に包まれる。
「・・・え・・・・キャ~~!」
僕は思わず叫び声をあげてしまった。
僕の着ていた上下の青いジャージが、魔法でみるみる溶けていく。
僕は股間を必死で抑えたが、バフォちゃんには丸見えだった。
「ポロリもあるよ♪ふっ、でもそんな貧相なサイズに興味はないですよ!坊ちゃま!さ、魔王にふさわしい格好に着替えてください!」
そう言い、また僕に魔法を放つバフォちゃん。
裸になった僕の体に、黒い鎧と赤いマントが装着された。
「・・・まぁ、まぁの見た目ですね。メガネとその贅肉がどうにかなれば、もうちょっと、カッコいいんでしょうけど!さ、皆の所へ戻ってくださいな!坊ちゃま!」
そう言うと、バフォちゃんは僕に強烈な回し蹴りを放った。
「ふんぬっ!」
「ゴフッ!」
アバラに強烈な一撃を受ける僕。
鎧を着ていたおかげで、怪我はせずに済んだ。
そのまま、温泉に備え付けられていた鏡にぶつかった。
「!?」
僕の体が背中から、ゆっくりと鏡に吸い込まれていく。
正面には僕に回し蹴りを放ったバフォちゃんが立っている。
「じゃあね~!坊ちゃん!また後で♪」
そう言うと笑顔で僕に手を振ってくる。
僕はそのまま鏡に吸い込まれた。
~会場中央~
「お、出てきたね」
「・・・ここは?」
僕は目を開けた、どうやら仰向けに寝ているようだ。
空には鳥たちが優雅に泳いでいる。
青空に太陽で照らされた雲が流れていく。綺麗な空だな!
横を向くとジェシカが心配そうな顔で僕を見ている。
どうやらここは先ほど僕が吸い込まれた会場の上の用だ。
「・・・立てるかい?」
「あ、はい!」
ジェシカに助けられ、僕は起き上がった。
「大丈夫かい?」
「ええ・・・」
僕は今起こった事を、分析していた。
「ねぇ、アンタ・・大丈夫?」
「・・・え・・・・ええ」
目の前に立つジェシカに心配される僕。
返した言葉とは裏腹に、僕は全然大丈夫ではなかった。
俯くように視線を落とすと、自分の両手が目にとまった。
ぐっしょりと両手には手汗が滲んでいた、それに先ほどから心拍が上がっている気がする。
周りの騒音が嘘のように、心臓の音がドクドクと僕には感じられた。
僕が闇の軍団の魔王?Sランクの?
もともとDランクワーカー希望だったし、そもそも闇属性のジョブの事も良く知らないし・・・。
でも、どうせなら、勇者が良かったな・・。
「ひっこめ!!クソ、ニート!何が魔王だ!ボケッ!」
「そうだ、テメェなんぞ最下層の仕事で十分だ!コラッ!」
「帰れ!帰れ!!帰れ!!!」
「クソニートがふざけんじゃねーぞ!オラ!」
「このメガネ豚が!!」
特設会場に鳴り響く、罵声の嵐。
周りの声が聞こえない程と、壁や床を叩くドンドンという音が木霊している。
会場にいる皆の批判が僕に向けられていた。
その中心に僕は立っていた。
いや、ほんと・・こっちがどうしてって、聞きたいよ!
皆の怒りもわかるけど・・・ホント・・ただの偶然・・運だから・・。
汗ばんだ両手を確かめるように、目線の高さに上げる。
幻か現実か分からない状況に僕は・・戸惑っていた。
ま、現実でもあり、幻でもあるんだけど・・・ゲームだし。
会場中の罵声も、不思議と聞こえなくなっていた。
見つめていた両手から、澄み渡る空に目を移した。
雲一つない真っすぐな晴天、ほんとよく出来てる・・現実みたいだよ。
「ねぇ、母さん・・・・・。ぼ、僕・・・・魔王になっちゃったよ」
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