ソレイユの森 5 日光浴


 ここに来て二度目の秋が訪れた。


 木々は鮮やかに紅葉し、木枯らしに落ち葉がカラカラと舞う。


 少し肌寒くて、人恋しくなるような季節だった。


 周一は髪を切り、白髪を黒く染め、軽くクシを入れた。


 髭も剃り、薄い白衣の代わりに、薄茶色のコートを羽織った。


 小奇麗にする必要はなかった。しかし、毎日会う男の風貌が、自分とは不釣り合い過ぎた。


 黒い、タイトなスーツを着こなす、青い眼のソレイユ。ソーラーパネルの色だった。


 陽が出ているとそちらを見上げ、瞳の中に取り入れる。


 美しい、充電式のAIロボット。


 丸本と毎日連れ立ってきた。時には、ソレイユのほうが早く到着した。


 山道を駆け上がっても、人間とは違い、疲れを知らない。


 見た目は人間のように柔軟な体。中に入っているのは大量のデータの基板だった。


 一度聞いたことは忘れない。それでいて、決して出しゃばることもない。


 忠実で賢い紳士。人を裏切ることも、騙すことも知らない機械。


「モニターとなって、テストしてもらいたいんだ」


 丸本が、分厚い説明書を見せながら、周一に提案した。


「試作品だから、手直しが必要なところは、出てくると思う。でも、一緒に暮らしてみないと、それは分からないね」


 世話はいらない、と丸本は言った。一日数時間、日光浴をさせるだけでいい。


 それだけで、少なくとも一週間は電池が持つらしい。


「無料で提供いたします。その代わり、改善点を報告して下さい。あとは、放っておくなり、手伝いを命令するなり、好きにしてかまいません。大抵のことは自分で考え、できるように設定しています」


 説明をすると、丸本は少し咳き込んだ。風邪の引き始めがうかがえた。


「少し休むね」と、丸本は言った。「山は、風も冷たくて……」


 ソレイユとの奇妙な生活が始まった。


 研究が、思うようにはかどっていなかったせいもあり、周一は毎日午後から、ソレイユを連れて表を散歩することにした。


 人間にも適度な運動は必要だな、と周一は思った。体を動かすと、心が軽くなる気がした。


 ソレイユは周一に歩幅を合わせて散歩した。


 家の横側は、少し行くと崖になる。「気をつけて歩きなさい」と注意した。


 ソレイユは、「はい、ご主人様」と頷いて答える。


 周一は気恥ずかしかった。ペットのように従える態度をするつもりはなかった。


 今自分に必要なのは、真面目な助手か、裏表のない友達だった。


 そこで、自分の呼び名を、今後、こう呼ばせることにした。


 「シュー」と。


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