第19回 劉淵、漢を建つ

 漢文大系本、第3巻、86~87ページ。

 西暦304年。


 淵従祖宣曰、「漢亡以来、我単于、徒有虚号、無復尺土。自余王侯、降同編戸。今吾衆雖衰、猶二万。奈何歛手受役、奄過百年。司馬氏骨肉相残、四海鼎沸。左賢王、英武超世。復呼韓邪之業、此其時也。」乃相与謀推之。淵説穎、請帰帥五部来助。既至左国城。宣等推為大単于。二旬間、衆五万。都離石。胡晋帰之者愈衆。乃建国号曰漢、称漢王。淵有族子曜、生而眉白、目有赤光。幼而聡慧、有胆量。亦好読書属文、射洞鉄七寸。至是為淵将。


 淵の従祖の宣曰はく、「漢亡びて以来、我がぜんいたづらに虚号有りて、復たせき無し。自余の王侯、くだりて編戸に同じくす。今、吾が衆衰へたりと雖も、猶ほ二万。奈何いかんぞ手ををさめて役を受け、たちまちに百年を過ごさんや。司馬氏は骨肉相ひ残し、四海はかなへのごとく沸く。左賢王は英武世に超ゆ。かんの業を復するは、此れ其の時なり」と。乃ち相ひともに謀りて之を推す。淵、穎に説き、帰りて五部をひきゐて来り助けんことを請ふ。既に左国城に至る。宣等、推してだいぜんと為す。二旬の間、衆五万。離石にみやこす。胡晋の之に帰する者愈〻いよいよおほし。乃ち国を建て、号して漢と曰ひ、漢王と称す。淵、族子曜有り、生まれながらにして眉白く、目に赤光有り。幼くして聡慧、胆量有り。亦た書を読み文をしよくするを好み、射れば鉄をつらぬくこと七寸。ここに至りて淵の将と為る。


 劉淵の従祖父(おお叔父おじ)の劉宣が言った。「漢が滅んでからこのかた、我らのぜんは、意味もなく虚しい称号だけをもらって、土地はほんの少しももらえなかった(ぜんきようの王の称号)。その他の王侯たちは、降格して人民と同じになった。今、我らの仲間は、衰えたとはいっても、まだ二万人はいる。どうして手をこまねいて漢人の使役を受け、あっという間に次の百年を過ごしてしまってよいものか(百年は人ひとりの寿命の年数)。司馬氏は親族どうしで骨肉の争いを繰り広げ、天下はかなえで煮たった湯のように沸きたっている。左賢王よ、おまえの武勲は天下に抜きんでている。かんぜんの偉業を復興するならば、今こそがその時だ。」そこでともに相談してかれを持ち上げることにした。劉淵は司馬穎に、地元に帰り五部を率いて助けに来ましょう、と説いた。左国城に着くと、劉宣らがだいぜんの位につけた。二十日ほどのうちに、五万の人々が付き従った。離石に都をおいた。非漢人からも、晋からも、かれのもとに就く者がますます多くなった。そこで国を建て、「漢」と号し、自らは「漢王」と称した。劉淵の族子に劉曜という者がいた。生まれたときから眉は白く、目には赤い光がやどっていた。幼いときから頭がよく、胆がすわっていた。かれも書を読み文を作ることを好み、弓を射れば鉄に七寸も刺さった。かれも、このとき、劉淵のもとで将となった。

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